「魅了の魔眼が・・・効いてない・・・?」
アイラに言われた言葉の意味が理解できず、硬直するライルであったが・・・
「みりょうのまがん・・・?なんだそりゃ」
周辺のテーブル客が、異様な様子のライル達の会話に聞き耳を立てているのに気づき、ライルは慌てて会計をしてもらってからアイラを連れ出した。
そしてアイラがあらかじめ取っていたという宿にチェックインし、落ち着いて誰にも聞き耳を立てられない場所で話を聞くことにしたのである。
「よし・・・ここなら・・・」
アイラが取ったという宿は、これまで住んでいた『光の戦士達』の拠点とは比較しようもないほどに安っぽく狭い部屋だった。
それでも最低限の防音くらいは効いていそうであり、とりあえず大事な話をしても支障はないかと胸を撫でおろす。
(アイラ曰く、この宿のランクだってこれからは下降の一途だと言うし、早くこの生活なんとかしないと・・・って、それどころじゃなくて!)
「それで・・・魅了の魔眼が効いてなかったって、それは一体どういうことだ!?」
魅了の魔眼は禁忌。ようやく誰にも話を聞かれない場所に来られたことで、ライルはそれまでお預けになっていた話の続きを始めることが出来た。
「どういうことも何も、言葉の通りです。勇者様がサーラ達に使っていた魅了の魔眼は、彼女達には効いていませんでした。ですから、勇者様があれをアテにしているのでしたら、それは失敗に終わることが確定しています」
「なっ・・・!」
魅了の魔眼を仲間に使用していたことがバレていたという事実に、今更のようにライルは羞恥で顔を赤く染めた。
「最初にサーラ達から相談を受けたときには、流石に皆困惑していました。まさか仲間に対して頻繁に魅了の魔眼をかけてくるなんて、勇者としても仲間としてもどう見てどう扱って良いものかと・・・」
「・・・ほ、本当に・・・?」
アイラの言葉に、ライルは羞恥で赤く染めていた顔を今度は青褪めさせる。
自分が絶対効いてると自信を持っていた秘術が効いていなかった。しかもそれが相手を魅了する術であり、相手にそれを使ったことがバレバレ・・・羞恥心と絶望感で、ライルの心は引っ掻き回されてしまうのも無理はない。
「魅了の魔眼は、相手の心の隙間に強制的に自身に対するイメージを割り込ませるものです。ですから、心に隙間がない・・・つまりは警戒されている相手には全く効果がないのです」
「そんな・・・まさか・・・だって、最初にサーラにやったときは、効いていた・・・じゃないか?」
サーラに最初に試しにかけたときのことを思い出しながらライルは言う。
術の成功に浮足立ってしまい、いきなり過度な要求をしたために拒絶されてしまったが、それまでの様子ではサーラは魅了の魔眼にかかっていたかのような反応を見せていた・・・ような気がしていた。
「最初の一回は確かに効いたようです。サーラも言っていました。ですがあとになって勇者様が使ったのが魅了の魔眼だとわかると、その情報を女性メンバーに共有して皆で警戒してましたから、以後は誰一人かかっていません」
「・・・」
ライルは開いた口が塞がらなかった。
「というか、『僕を見てぇ』とねっとり話しかけ、『キィィィィィィン』と甲高く煩い音を立てながら目がカッと光るような相手・・・誰だって警戒するようになりますよ」
「んがっ!?あれって演出じゃなくて実際になってたの!!?僕完全に不審者じゃん!」
「魅了の魔眼が廃れた理由は、目立つし効果が出にくいしで利便性が極めて悪いところにありますから。他の精神操作系の魔法や、媚薬や香を使ったほうがずっと効率的です」
ガーンと、ライルの頭を衝撃が襲う。
自分がとっておきの秘術だと思っていたものが、実にしょうもないものだと言われたようなものだからだ。
「魔術書に書いてあったという内容と違うじゃないか!危険だから廃れたって・・・」
「魔術書・・・?私達が手に入れたアレですか?あれはリンメイ書房という、古代書の中でもインチキな内容ばかりを書くところが出したものです。内容は半分から全部が嘘であることが多く、歴史家もコレクションや参考程度にしか目を通さない代物です」
「んなっ・・・」
ライルは何か反論しようと口を開くが、ついに言葉を発することが出来なくなり、ヘナヘナと腰が抜けてボフッとベッドに腰を掛けてしまう。
「それじゃあ・・・僕はろくに役に立ちもしない魅了の魔眼の習得のために際どい所を触られるオイルマッサージをされたり、目隠しされて棒状の生暖かいものをしごかされたりしたわけか・・・そんな馬鹿な・・・」
「馬鹿は貴方です。なんでそれおかしいって思わなかったんですか」
「古文書の解析なんて出来ないから、あれが読める人の言うことは何でも信じるしかなかったんだよ・・・ハハッ、僕はとんだ道化だったというわけか」
「道化にあまりにも失礼です」
「サーラ達が僕を愛しむような目で見てくれていた気がするけど、あれは・・・」
「思うにそれは愛しむのではなく、『かわいそうな奴を見る目』だったのでは」
「じゃあ・・・じゃあ・・・」
現実を知ったライルは、それでもどこかに逃げ道はないか、まだ信じるべきところがあるのではないかと現実逃避のために必死に考えを巡らせる。
そして気が付いた。自分の魅了の魔眼が効いていなければ、説明がつかないところがあることに。
「待ってくれ!皆はシュウを追放すると言った僕の提案に賛成していたじゃないか!あれはどういうことなんだ!!」
魅了されていたからサーラ達はライルの言うことに賛成した・・・そう考えるのが妥当であるが、アイラの口から出たのはライルが全く予期せぬ言葉であった。
「あれは皆さんから相談され、私が与えた策の一つです」
「は・・・?」