ライルは美少女だと思って勧誘したアイラに対し、アプローチをしてこなかった。
実際メンバーに迎えてみたら性格が好みではなかった・・・ライルはそう自己完結していたが、実際はそうではない・・・きっと本能でアイラが女でないことを察していたのだとライルは今更察する。
そうでなければいかに性格が好みではなく恋愛対象として見られなくても、性欲発散の対象としてラッキースケベの一つは期待して張り付くくらいはしただろう。そして下着を覗こうとしてローブ下を覗き、フルチン状態のイチモツを不幸にも発見して、大変なことになっていたに違いない。
「あわわわわわわ・・・」
ライルはとにかく逃げねばと思い、ただただ走った。
アイラは責任を取れと言った。それは恐らく抱かれろということだ。
無理無理。そんなことになったら死んでしまう。心だけじゃなくて肉体的にも間違いなく肛門裂傷で死んでしまう。
ドゴォォォォォォォン
ライルがそんなことを考えていると、背後で何かが爆ぜる音がした。
振り返るとなんとアイラが宿屋の天井を突き破り、その上空を浮いている。なんで普通にドアから出てこないん?
「逃げないでください勇者様」
アイラはそう言うと、ついっと人差し指をなぞるように下に向けた。
ドォォォォォン!
次の瞬間、ライルの眼前に落雷が起こった。
否、それは電で構成された槍。
槍は地面に突き刺さり、なおも帯電しバチバチと音を鳴らしながらライルを威嚇する。触れたら骨が見えるまでビリビリくるやつだ!と、ライルは直感して思わず後ずさる。
これはアイラの攻撃魔法の一つであるライトニング。
この電の槍に貫かれれば、貫かれた物理的な痛みと感電で死ぬまで苦痛を味わうという上級魔法である。
いつの間にかアイラの周囲に同じライトニング・・・電の槍が5本展開され、バチバチ鳴りながら矛先がライルを向いていた。
レーナの浮遊魔法はフヨフヨと浮いて何となくほっこりするが、アイラのそれは空気が渦巻きながら「ゴゴゴゴゴゴ」とうるさい音がして見る者を威嚇する。だからライルは勇者パーティーのイメージ低下を恐れ「君は人前で浮くな」と言いつけていた。
今、その言いつけを破りアイラは浮遊魔法を使っている。
アイラが言いつけを破ったのは、それだけ怒っていることの現れなのだとライルは察知した。
「勇者様。乙女(女とは言ってない)の純情を弄ばないでください」
「お前のような女がいるか!現実を見ろ現実を!(イチモツを思い出しながら)」
なるべく刺激しないように穏便に・・・とライルは思っていたが、あまりの嫌悪感から思わずストレートに拒絶してしまう。
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・
アイラ周辺に発生している渦の発する音が大きくなった気がした。
無表情なれど、アイラの怒りが増しているのがライルにも理解できる。しかし、嫌なものは嫌であり、アイラを受け入れる気にはなれなかった。
アイラの浮遊魔法の発する渦の影響で宿屋の屋根は細切れになり上空に巻き上げられ、周辺家屋にも被害が出始める。
「お前達何をやっとるか!」と怒鳴りながら憲兵が笛を鳴らして駆けつけ、真下からローブ下のパンチラ拝んだろとアイラを見上げてイチモツを目に映し、「なんだあのでっかいもの・・・」と呟きながら泡を吹いて失神・・・ついに人的被害も出てしまった。
「まずい・・・」
ライルは仮出所の身。勇者らしい手柄を立てるどころか、更にまた帝都に迷惑をかけたとなれば、再び収監され今度こそ二度とシャバに出られない身になってしまう。そして憲兵団の看守達に身体検査という名目でサンドイッチされておしまいだ・・・ と、そこまで考えてゾッとした。
「やらなきゃ・・・」
既に手遅れかもしれないが、強引にでもアイラを大人しくさせ、どうにかしてそれから周囲を誤魔化そうと考える。
なんとか宥められないか、ライルは必死で考えた。
「受け入れてくれると言ったのに、私を裏切るんですか」
「ゆーて男じゃん」
「ナニがあっても乗り越えられると、もうナニも怖くないと言ったではありませんか」
「有ったら乗り越えられないものが有ったから駄目だ!(イチモツ)」
どうにか宥められないか・・・そう考えたところで、結局自分に正直過ぎるライルは反射的にアイラを拒絶してしまう。「ハッ」とライルが気付いた頃には遅い。強く拒絶されたアイラは、無表情だった顔を怒りのそれに歪めていた。
「ホモの嫌いな男子なんていません!なんでそれがわからないんですか!!」
そして、ついに激昂する。
これまで一度も見たことが無い、アイラの本気の怒りだった。
ドォォォォォォォォン
アイラの咆哮の次の瞬間、取り巻く渦の力が倍増し、ついに宿屋が屋根だけでなく全てが崩壊し、跡形もなく消え去った。
宿屋跡には行為に夢中になりすぎて今の今まで異変に気付かなかった冒険者のホモのカップルが盛り合う姿があったが、もはや誰もそんなことに気付かない、気にもかけない。
何故なら遠巻きに見ているギャラリーはおろか、ライルでさえも驚愕に目を見張ることが起きたから。
「な・・・なんだぁ、こりゃあ・・・」
ライルは自分の目を疑った。アイラの姿がみるみる変化していったからだ。
額に15センチほどの角が一本伸び、耳が尖り、口元には牙が生えた。
それは『魔人』と呼ばれる、魔族の一種の姿であった。