「な、なんだあれは・・・」
「魔人ってやつじゃねーか!?」
「帝都に魔族が!逃げろぉ!!」
アイラが魔人に変化したことで、周囲にいたギャラリー達は魔族の襲撃が始まったと思い、パニックになって逃げ出し始める。
ライルも驚きはしたが、アイラが男だったときの方が衝撃的だったのでまだいくらか冷静でいられていた。
「はぁ・・・こんな姿を見せるつもりはなかったんですが」
アイラがため息をついて、やれやれと首を横に振る。
魔人は人類の敵。姿を見られれば、即座に討伐対象となる。
帝都のど真ん中で人前にその姿を見られたというのに、アイラは特に危機感を抱いているわけでもなく、割とどうでも良さげな態度だ。
「君は、魔人・・・だったのか?」
ライルが問うと、アイラは「ん~~」と少しばかり難しそうな顔をして首をひねってから、苦笑いをしながら答えた。
「半分正解、半分間違いですね」
言いながら、チラリとライルに向けてどこか悪戯っぽい視線を向けるアイラ。
これまでに見せたことのない表情豊かなアイラに、ライルはまた少し困惑した。
「いろいろあって、実は私は半分魔人なんです。普段は人間なのですが、感情が高ぶるとこの姿を隠しきれなくなるんですよ。ですから普段は感情を抑えていたんですが、勇者様が私を怒らせるからこの姿を晒すことになってしまいました」
「君のキャラ付けにそんな理由が・・・って、いろいろあってって、何があったんだよ!?サラッと流そうとするなよ!」
「これから死にゆく者には言う必要ありません!死になさい!!」
アイラは態度を豹変させると、問答無用で展開していたライトニングをライルに差し向けた。
「ひいっ!感情の起伏激しすぎない!?キャラ変し過ぎぃ!!」
すんでのところでライルはライトニングを避けるが、二本目、三本目とライトニングの攻撃は続く。
そのどれもがライルを串刺しにしようと的確に狙ってきており、本気で殺しに来ていることがわかった。
「死んだら死体を掘ってやります!それがせめてもの手向けです」
「何の手向けにもならないよ!」
最後のライトニングをギリギリで避けたライルは、次のアイラの攻撃魔法が発動する前に反撃に出ようと考えていた。
アイラの攻撃魔法にかかる詠唱時間は一緒に冒険していたので把握している。
ライルに致命傷を与えられるだけの殺傷力を持つ攻撃魔法を使うには十数秒の詠唱時間が必要となるが、その前にライルの間合いに入れることは余裕だった。
そう思っていた。
「なっ!?」
ライルは踏み込もうとして体に急ブレーキをかけた。
ライルの目に映ったのは、既に詠唱を終え、次の攻撃魔法の展開を終えたアイラの姿だった。
アイラは魔人形態になると、詠唱時間が飛躍的に短縮されるのだ。
アイラの周りに雷で形成された無数の鳥がホバリングしている。
『ラプター』と呼ばれるアイラの魔法である。
アイラが展開する雷の鳥に触れれば、並の戦士なら一瞬にして感電死する・・・というかあまりのエネルギーに人体では耐えきれず、蒸発か爆発四散する。
アイラの超必殺技と呼べる魔法であった。
「かかれっ!」
そんな無数のラプターが、一斉にライルに向かって襲い掛かった。
ラプターは目標へ一直線に飛んでいる個体、ライルの回避運動を予測して先回りする個体、何故かジグザグに目立って飛ぶ個体と、それぞれ思い思いにライルに襲い掛かる。
ライルは家屋の壁を蹴り、屋根を伝い、空中で空気を蹴ったような急旋回を見せたりと人間離れした勇者の名に恥じぬ高機動でラプターを避け続けるが、ライルが避けている間にも次々にとアイラはラプターの数を増やし、無限に攻撃を繰り出そうとしている。
「そんなの有りか!?」
しかし、ライルとて勇者だけあってその気になれば三日三晩戦い続けられるくらいのスタミナの化け物。避けながら少しずつ反撃の機会を伺うか、逃げるかなりしようと思えばできるはずだった。
「ぬっ!?」
が、ライルの高機動の回避運動も長くは続かなかった。
ライルの身体能力を下げる魔法を、アイラは同時にかけていたからである。
純粋な攻撃魔法のみならず、様々な種類の魔法の使い分けが出来る賢者としてのスキル・・・そして、詠唱の短縮という魔人としての恩恵をフル活用し、従来「勇者対賢者」というタイマンでは不利な状況であるにも関わらず、アイラは戦いを有利に進めていた。というかズルい。
「バカな!この僕があああああっ」
負け確みたいなセリフを口にしながら、ついにライルはラプターを被弾。数十発のラプターの浴び、辺りは凄まじいほどの閃光に包まれた。
「あ、掘るほど体が残らないかも。嫌ですね。このモードですと、感情の抑制が効かないからついやりすぎてしまいます」
はぁ、とため息をつきながら、ライルが被弾した場所に目を向けるアイラ。
「おや・・・生きてましたか。流石勇者様ですね」
勇者としての恩恵なのか、それとも彼なりにギリギリまで対処したのか、ライルは一応生きていた。
体中ボロボロの黒焦げで、髪もクシャクシャ。だが、地面に突っ伏し、もう指一本動かせない状態だった。
「ぐ、ぐぐ・・・」
ライルはどうにかしようと体を動かそうとするが、どうあっても動かない。ライフはとっくにゼロだった。
「生きていたのは僥倖です。せっかくなのでここで掘ってあげます。さ、良い声で鳴いてくださいね」
何がせっかくなのかわからないが、アイラは恍惚の表情を浮かべながら舌なめずりをし、股間をもぞもぞさせてライルに近づく。
(あぁ、これで終わりか・・・グッバイ、僕の
ライルは抗うことをやめた。
このままアイラに慰み者にされて(しかも街中の人前で)、儚くなってしまうのだろう。一体どうしてこんなことになってしまったのか。
諦めの中で、ただただライルは思考する。