ライルは考えた。
どうしてこんなことになってしまったのかと。
自分はただ、女達と仲良くしたかっただけ。
冒険者パーティーを組織した男なら、一度は考える夢のハーレムパーティーだ。(とライルは思っている)自分はその欲求に従っただけだ。
それなのに、女達の誰もが自分に気を向けず嘲笑っていた。
それだけでなく、女達を皆シュウが横からかっさらった。(ようにライルには見えた)
シュウが許せない。
そして女を取られただけでなく、今は自分の身すら危うい状況に置かれている。
シュウをパーティーから追放したことをきっかけに、全てがおかしくなってきている。
それを誘導したのは誰か?
アイラだ。
アイラが水面下で自分が失墜するよう、動いていたのだ。全ては自分を掘りたい鳴かせたいという我欲のために。
アイラは自分を想うがための暴走をした。恋慕うための暴走であるのなら、それは仕方がないと確かに自分はアイラに言った。
だが男だ。
あれが男なら話は別だ。絶対に許さねぇからなぁ?(豹変)
今の状況になっているのは、誰のせいか?
シュウのせいだ。
アイラのせいだ。
自分はただ踊らされていたに過ぎない。
シュウが憎い。
アイラが憎い。
このままで終わって良いはずがない。
自分は勇者なのだ、選ばれし存在なのだ。
今の苦境が必然であったとするならば、これは乗り越えるべき試練なのだ。
そう、ここで倒れるわけにはいかないのだ。
「・・・」
恐ろしいほどの他責思考からのプラス思考で自分の心を守ったライルは、やがて考えることをやめた。
考えるのをやめ、次は行動に移ることにしたのだ。
最初に、ライルの指先がピクリと動く。
次に、ゆっくりとだが体を起こす。
そして、顔を上げ、アイラを睨みつける。
「バカな・・・!動けるなんて・・・」
ラプターをしこたま受け、肉体が残っているだけでも奇跡だというのに、ライルは動くどころか身を起こしている。アイラはそれを見て、信じられないとばかりに口を半開きにする。アイラは魔人形態になると表情が豊かである。
「アイラぁぁぁっ!君だけは、君だけはぁぁぁぁっ!!」
ライルがついに立ち上がる。
体中から気がほとばしり、鬼のような怒りの表情・・・普段のヘラヘラしたお調子者みたいな雰囲気から一転。修羅と飛ぶに相応しい姿である。
「あ、あれはっ・・・!あれはもしやっ・・・!」
(命知らずの)ギャラリーの一人である、ローブをまとったジジイがライルを見て、いかにも誰かに聞いて欲しいとばかりに叫んだ。
「なんだ爺さん、あれがなんだってんだ?」
他にいる命知らずのギャラリー達の一人がジジイに問う。ノリが良い。
「あれは、伝説の勇者の・・・『勇者の超形態』じゃ!」
「ゆうしゃのちょうけいたい・・・?」
「そうじゃ。かつて伝説の勇者達の中には、何かしらの感情をスイッチにして大きく能力を向上させるチートスキルがあったと聞く。あれこそが称号だけではない、本物の勇者である印っ!あの者は本物の勇者なのじゃ!!」
「本物の勇者・・・って何だよ偽物がいるのかよ」
「そうじゃ。これまで帝国は何人にも『勇者』の称号を与えて来た。だがそれはあくまで政治的な思考があってただ優秀な冒険者に与えて来たに過ぎなかった。だが、あの男は間違いなく本物の素質を持った勇者!称号だけ与えられた偽物のカスとは違うのじゃ!魔王を倒す素質がある本物の勇者、まさに人類の希望じゃ!」
「まじかよ!過去にも本物の勇者ってやつはいたんだろ?けど魔王って倒されたことないからまだイマイチ眉唾だけど、期待持てるな!」
胡散臭いジジイの発言を真に受け、ギャラリー達が沸きかえる。
「アイラぁぁぁっ!!君だけはこの手で滅してやるっ!君さえいなければぁぁぁ!!」
ギャラリー達が勝手に沸いているのも知らず、ライルは怒りの感情を爆発させる。
剣を握りしめ、剣先をアイラに向けた。
「見よ。あの男からほとばしる気を。あれこそが『勇者の超形態』時にだけ発する気なのじゃ。あのダークパープルの気の色は・・・『憎悪』の感情。あの男のスイッチは、異常なまでの『憎悪』の感情が高ぶったときに入るようになっているのじゃ!!」
「憎悪・・・勇者っぽくねぇな」
「何か違うんだよなぁ」
熱くなるジジイとは別に、どこかドン引きして冷静になる一部ギャラリー。
そんな彼らのことは気にもせずに、ライルはついに動き出す。
「死ねぇぇぇっ!!」
「っ!!」
恐ろしいまでの快速で突進するライル。
慌てて距離を取り魔法障壁を張ったアイラだったが、ライルはまるで障壁など無かったかのように体でそれを突き破り、一気に間合いを詰めた。
斬っ!
かつての仲間であったはずのアイラを、一切躊躇うことなく真一文字に一刀するライル。
返す刀で逆に一刀。次に斜め、正中線、アイラの体を次々に切り刻み、玉ねぎのようにみじん切りにしていく。
鬼気迫る表情で美少女(男)を切り刻む姿は、勇者どころか人ではない、魔物にしか見えなかった。
「あ、あんた、もうそれくらいで!」
ギャラリーの一人がライルを止めに入った。明らかにオーバーキル。これ以上は見ていられないと思った者だった。
だがライルは興奮冷めやらぬ様子で、ダンッと地面を蹴りあげる。
「くそっ!逃げられたっっ!!これは幻影の魔法『ファントム』だ!!」
「えっ」
ここで止めに入ったギャラリーが気付く。
先ほどまでライルが切り刻んでいたものは、いつの間にか少女の姿からバラバラになったマネキンのようなものに変わっていた。良く見ると男が性処理に使う等身大の女の人形である。
「直前でこの人形を自分に見せる魔法を使ったんだ・・・小賢しい!次に会ったら今度こそ殺してやる!ただ殺すんじゃない。僕を舐めくさったことを死ぬほど後悔させてから死体に小便まき散らしてそのあとバラバラにして獣の餌にしてやるぅぅぅぅぅ!!」
とても勇者と思えぬ憎悪に歪んだ表情で、人間性すら歪んだようなことを叫んだライルは、すっかり周囲のギャラリーをドン引きさせていた。