「知らない天井だ」
眠りから覚めたライルの目に最初に飛び込んできたのは、見知らぬ天井だった。
ライルはアイラを取り逃がした怒りでひらすらキレ散らかして地面に八つ当たりをしていたら、唐突に意識を失ったのだ。
「どこだここは・・・?病院?」
ライルがきょろきょろを部屋を見渡すも、どうも病院とは違う景色だ。窓が一つもない頑強な石造りの壁、鋼鉄製の扉、そうまるで・・・
「・・・監獄?」
ライルはハッとしてベッドから起き上がる。
枷の類はついておらず、自由な身であることを確認して、まずは安堵した。
ライルの脳裏には以前監禁されていた憲兵団の監獄のことが蘇っていたのだ。
そうしているところへ部屋の扉が開く。
部屋へ入ってきたのは、帝国騎士団の団長だった。
「勇者ライル・・・目が覚めましたか。・・・おや?」
騎士団長がやってくるのを見るなり、ライルは部屋の隅で丸くなってブルブル震えだした。
騎士団長が呆れてそれを見つめていると、少し経ってようやく落ち着いたライルが気まずそうに苦笑いしながら言った。
「あ・・・すみません、ちょっと憲兵団で性的虐待紛いのことをされていたことがフラッシュバックしちゃって・・・」
騎士団長はそれを聞いて「本当にコイツに人類の未来を託して大丈夫なんかいな」とげんなりした。
-----
落ち着いたライルは、騎士団長から自分が目覚めたのは帝城にある一室であること、そして条件と制限付きで『勇者』の称号とその特権を受けられるようになったことを聞いた。
「ひゃっふーっ!」
明日をも知れぬ身になっていたライルは、地獄から天国に昇ったような気持ちになって思わず叫んでいた。ついでにテンション高すぎて奇怪なダンスまでしてしまう。それだけ嬉しかった。
「喜んでいただけたようで何よりです。そしてこちらが制約になります」
白けた顔で騎士団長に差し出された書類にライルは目を通す。
金銭的な支援、封鎖されていた拠点の解放、国内施設の利用などについてはこれまでと変わらず、勇者としての活動の支障となりそうなものはないなとライルは思った。
・・・が
「ちょっと、この『女性トノ性交ヲ禁ズ』ってどういうことすか?」
この部分がライルは気になった。ライルでなくとも気になるだろう。
「言葉の通りです。どうもあなたは下半身に正直過ぎて女性からの評判が最悪ですので、女性との交わりを禁止します。サキュバスとかの魔物もダメ」
「なんだよそれ!」
「女性に対して必ずしたというセクハラもそうだし、調査によれば元はと言えばパーティーの崩壊も貴方の余計な下心が招いた結果だと言うではないですか」
「・・・」
「ですから、あなたの女性との性交を禁じます。ヤれないとわかれば途端に女性のことなんてどうでも良くなるでしょ?」
「僕を何だと思ってるんだ!そんなこと・・・そんな・・・こと・・・」
騎士団長の言葉に否定したかったが、ライルは頭を捻って考え込んでしまう。冗談のつもりで言った言葉が、まさか図星だったようなので騎士団長はすっかり呆れてしまった。
「ちなみにこっそりやればバレないなんて思わないでください。あなたが寝ている間にあなたの玉袋に魔道具を付けました。無理して外そうとしたり女性と交わった瞬間に作動し、キン●マもろとも股間が爆発四散するようになってます。一種の貞操帯ですなぁ・・・アハハ」
「ファッ!?」
騎士団長の言葉を聞いて、ライルは慌ててズボンを脱いで股間を確認した。
すると騎士団長の言葉の通り、玉袋にいつの間にか派手な装飾のピアスが付いていたのだ。まるでハードゲイだ。
「ひどい!これが勇者に対してやることかっ!!」
「普通勇者がやらないことを派手にやり散らかしたのはあなたでしょう」
ライルの抗議を、呆れ顔で受け流す騎士団長。
騎士団長はそのまま話を続けることにした。
「ちなみにその貞操帯は位置情報も発信し、あなたが何をしているのかもこちらで把握できるようになっています。帝国の最新鋭の魔科学の集大成ですよ。本当、こんなことに使いたくなかったと開発陣は泣いてましたよ。とにかく、勇者として目に見える実績を定期的に残さずにいたり、恥じるような行いをすれば即座に称号の剥奪、そして収監です」
「・・・」
「あと、女性とは性的な接触全てが禁止ですからね。手だけ、口だけ、後ろの穴、果ては見抜きまで禁止です」
「流石に厳しすぎない!?見抜きとか接触すらしてないじゃん!」
帝国がライルに課した制約は中々に厳しいものだったが、それでもライルがしたことを考えれば仕方がないものだった。
ライルの力は必要だが、それでも好き放題させるにも限度がある。潜在的に劣勢といえる今の魔族との戦況を覆すことが出来ても、ライルのせいで人心が離れては元も子もないのである。
「パーティーメンバーを募るは自由ですが、元はと言えばあなたの身勝手な追放が招いた結果だという調査結果を踏まえ、一度メンバーにした人間を一方的に追放することを禁止します」
「うぐっ」
ライルの脳裏にシュウを追放したときのことが蘇る。
全てはそこからだった。あれから下り坂になったと。過去に戻って自分を殴ってやりたい。
「他もろもろの細かい制約については書類に記しました。全て目を通しておいてくださいね・・・あぁ、えっとそれから溜まるものが溜まってはつらいでしょうから、せめてもの情けで男に対してだけは好きなだけ盛り合っても良いということになってます」
「余計なお世話だよどういう気遣いだよ!」
こうしてライルは制約の元、勇者としての活動を再開するのだった。