「紅茶できたぞ飲みやがれ」
司教レウスの朝は、淹れたての紅茶を飲むところから始まる。
この日もそうだった。しかし、態度が悪い侍女の淹れた紅茶は、安い茶葉を使ったのか淹れ方が悪いのか不味く、仕方なしにミルクティーにして飲んだ。
侍女は紅茶を淹れ終わると、無遠慮に扉を開閉し、バァンと大きな音を立てながら退室していった。
ここのところ、ずっとこうだった。
聖女フローラによる暴露、そして駆け落ち。それに関連した勇者パーティー『光の戦士達』のあまりに大きなやらかし。そしてレウスの娘であるレーナによるホモの大量生産・・・
全部が全部、遠からずレウスに原因がある大問題を起こされ、今、彼の教会内での立場は本当にどん底にあった。
一応まだ司教でこそあるが、それでもいつ降ろされるかもわからない。
シュウ、フローラ、ライル、レーナ・・・
誰もがレウスの出世のための駒のはずだった。
実際、彼らは良い働きをしてくれて、かつて出世コースから外れたはずのレウスにも再び出世のチャンスが巡ってきていた。
だが、その全員が結局問題を起こした。持ち上げて落とされたようなものだ。
レウスがまだ司教であるのは、問題が大きすぎて混乱が続いており、処罰する余裕がないだけだ。遠からず落ち着いたら任命責任やら親としての責任もろもろで重い処罰が下されることだろう。
それがわかってか、もはや教会内で司教であるはずのレウスの敬う者はいない。
これまでゴマをすってきていた神官はレウスのことを視界にすら収めなくなったし、侍女ですら一応はついたままでいるものの、態度は悪いしきちんと仕事もしない。
「はぁ~~・・・」
レウスはミルクティーを飲み終えると、深いため息をついた。
そして、自分は一体どこで失敗したのか?と自問自答をする。
とりあえずレーナの教育には大失敗したっぽい。
ライルの監督にも失敗した。
シュウの追放も・・・すきべきではなかった。おかげでフローラがおかしくなった。
考えてみれば失敗ばかりだった。ダメみたいですね。
やはり自分はダメ人間だったんだ・・・と沈み込みそうになるところで
「・・・いや!何もかもあいつらが悪い。私が悪いわけじゃない」
ライルなみの他責思考によって、レウスは自分の心を守った。
とはいえ確かにレウスの失敗もあるが、基本的には常人の誰もが思い浮かないほど、問題を起こした連中の思考や行動がぶっ飛んでいたのが原因である。彼らのせいにするのもある意味仕方がないと言えた。実際レウスでは彼の暴走はどうしようもない。
「あの疫病神どもめ・・・神罰が下ると良い」
憎々しげにそう呟いたときだった。
ノックがされたかと思うと、返事も待たずにバァンと音を立てて部屋の扉が開かれた。
姿を現したのは、またも態度の悪い侍女だ。
「客が来たぞ会いやがれ」
くっ、全く本当に態度の悪い侍女だ・・・アァ、でもこれはこれで悪く無いかも・・・などと余計なことを考えながら、侍女が連れてきた客の顔を見るレウス。
「・・・来たな疫病神」
はぁ、とため息をつきながらレウスは来客に対して毒づく。
やってきたのは気まずそうに苦笑いを浮かべたライルだった。
「いやぁ・・・いろいろすみません。とにかく予想外なことばかり起きてしまって」
ペコペコと頭を下げるライルを見て、レウスは怒る気力も失せた。
確かに予想外だったかもしれない。何しろ勇者パーティーの女性陣が揃いも揃ってキチ〇イばかりだったなど、誰が想像できただろうか。
「一応『勇者』として活動を再開する運びとなりまして、ご挨拶に・・・」
「そのようだな。ま、頑張ってくれたまえ。今の私では何も心づけをやれないがね」
ライルが監獄から出られ、『勇者』として再認定された上で活動を再開出来たのはレウスにとって幸運ではあったはずだった。
ライルの活躍いかんによっては、レウスの立場も救われるようなことになるかもしれないからだ。
だが、レウスはもうライルには期待していなかった。
この男、実力はあるが、恐ろしく頭も運も悪い。きっとそのうちにろくでもないことになる。そう考えていたのだ。
レウスの態度から期待されていないことに気が付いただろうライルは、笑顔になって言った。
「ご安心ください司教。僕はこれまでの僕とは違います。どうやら『勇者の超形態』という先天スキルがあったみたいで、超パワーアップをすることが出来るようになったみたいです。これだけのパワーがあれば、もしかしたらソロでもこれまで以上に活躍できるのでは?と言われているみたいです」
ライルは、先代皇帝がライルの素質を認めたということを話に聞いていた。それが今の彼の自信の源である。
「新しいスキルだと・・・それは本当か。ソロでも戦えるだけのパワーアップ・・・それさえあれば・・・」
投げやりになっていたレウスが、ライルの言葉に興味を持った。
もしかしたら希望が見いだせるかもしれない、そんな淡い期待を抱き始めた。
「ええ、パワーアップした状態で魅了の魔眼を使えば、今度こそ間違いなく相手を魅了できるのではと思うんですよ。僕から離れていった女の子達もこれで連れ戻せば、新生『光の戦士達』の結成です!」
「何言ってんだこいつ。なんでそうなる」
レウスは「魅了の魔眼」については何も知らなかったが、ライルがパワーアップスキルを何やら間違った使い方をしようとしている思惑だけは察して「やっぱコイツ馬鹿だわ。ダメかもしれない」と、呆れ顔になる。
「ついでにシュウ達も見つけて、聖女フローラもこの魅了の魔眼で虜にします。そうすればより強力なパーティーになり、魔王なんて楽勝で倒せるようになりますよ」
「フローラを・・・?」
ライルの言い方から「魅了の魔眼」とは相手を篭絡するスキルであると察したレウスは、フローラを強制的にライルのモノにするという旨の発言を聞いて目を光らせた。