「フローラ・・・そうかフローラ・・・」
レウスは考えた。
自分の今の窮地も、聖女として類まれなる力を持つフローラさえ手元に置ければどうにかなるかもしれないと。
今のフローラはもう何をどうしてもレウスの言うことを聞いてはくれないが、それでもライルが言うように本当に彼女をコントロールすることができるというのなら、それに賭けても良いと考え出した。
「・・・えっと?どうしました??」
突然熟考しだしたレウスを怪訝な目で見ていたライルを、レウスは正面から見返した。
見てくれは奇麗だが、それでもなんとなくアホそうに見える顔。ていうか実際にアホの極みみたいなことをしてくれたライル。
この男に再び希望を託しても良いのか?レウスは一瞬考えた。
今ならまだライル達の愚行やフローラの暴走によるレウスの処罰も、任命責任の範疇であり、教会から追い出されない程度に収まる可能性がある。
生活の質は下がるが、それでもくいっぱぐれになるよりはマシだ。
(だが・・・っ!)
レウスはちらりと先ほどまで自分が口をつけていたティーカップに目をやった。
不遜な態度を隠そうともしない侍女が入れた紅茶は、安い茶葉と適当な管理のためかストレートではとても飲めたものではなかった。それと気のせいでなければ雑巾の味もする気がする。
なぜこんなものを出されるほどに惨めな生活をしなければならないのか。すっかり今の窮状を嘆いてばかりで活力のなかったレウスにも、メラメラと怒りの感情が沸き上がってきた。
自分を見下げてきた連中に、何がなんでも見返してやりたい。
レウスは無難にやり過ごすより、ライルに賭けて己の名誉の回復の道を選ぶことにした。
ライルは魅了の魔眼などと言っていたが、それは決してろくなものではないだろうことも理解していた。
それでも良いのだ。フローラもコントロール下に置けるのなら、彼女を嫁がせずともレウスに都合が良いように利用できる方法はある。
「本当に、フローラを君の物に出来るのかね?そのとき、彼女に言うことを聞かせるように出来るようになるか?」
「もちろんですとも。僕が習得した魅了の魔眼にかかれば、フローラがどれだけ抗おうとも、彼女の心を僕に物にすることが出来ますよ。そうすれば思いのままです!」
とても勇者のセリフだとは思えないが、自信満々に言うライルを見てレウスは決意をした。
「良いだろう。それほどまでに言うのなら、私はもう一度君に賭けてみようではないか」
ライルは利用するにはリスクの大きい人間だ。だが、レウスにはもう彼くらいしか起死回生のための駒が存在しない。だから乾坤一擲でライルに託すしかないのだ。
ドサッ
レウスはなけなしの大金を、ライルの目の前に置いた。
「ウホッ いいお金・・・」
ライルは卑しい笑みを浮かべながら積まれた金を見つめている。何かダメそう・・・既にレウスは後悔しそうになっていた。
「いや、正直お金について困っていたので助かりましたよ~」
あっけらかんと言うライルを見て、やはり金目当てでやってきたのかとレウスはため息をつく。
ライルは確かに勇者としての称号は剥奪されることなく残された。だが、銀行などに預けてあった『光の戦士達』としての預金は、帝都を破壊した賠償金などに強制的に充てられ、すっかり空になっていたのだ。
それとレーナがホモを量産したり冒険者の廃人同然にしてしまった件についても、冒険者ギルドにそれはもう本当に大きな損失を与えており、それについての賠償も残っている。
これについてはライルが勇者として帝国が認めるだけの成果を残せたときに免責とする、と約束をされているが、もし失敗したら賠償せねばならず、そんな危うい立場のライルに「あぁあれねぇ。稟議が下りねぇんで融資なんてできねぇよ。首吊って死ねボケ」と、銀行も融資を見送った。闇金を回りまくって、ようやく小銭を借りることが出来たが、それだってひと月ほど旅を続ければ枯渇するような額だ。
再起する勇者するライルはまず路銀の確保が第一だったのだが、自力での用立ては厳しいと察しチャンスをくれたはずの皇帝にそれとなくおねだりしたところ、くれたのはくっそ安い武器である棍棒と子供の小遣い程度の小金だけ。「古来より勇者の旅立ちと言えば、餞別はこのくらいと決まっている」と言われて、ライルは「嫌味かてめぇ!」と叫びたいのをグッと堪えて引き下がるしかなかった。
皇帝からすれば難しいところなのだ。
上皇にはライルを使えと言われ、臣下からはライルを解放することを疑問視する声もあり、板挟みになっているのだ。皇帝からすればライルに金をせびられたところで「元よりお前がちゃんと勇者として・・・いや、せめて人並みに大人しくしてくれていたらこんなことにならなかったんじゃい」とキレ散らかしたいところなのだ。
「それとフローラの居場所が知らないと意味がないだろう?だからこれをやる」
そう言ってレウスが手渡したのは、ピアスの形状をした一つの魔道具だった。
「これを身に着ければ、一日一回、夢の中で探し人がいる方向を示してくれるようになる。まだ実験段階の魔道具なので、どのような不具合があるかわからん。これが果たして物になるかどうかわからんうちから先行投資していたのだが、少なくとも今回は役に立つようだな・・・」
なんというご都合主義。今のライルに必要なものを、レウスがたまたま持っていた。
「夢の中で?なんか微妙に使い勝手が悪いような・・・」
リアルタイムで相手の場所が知られるようなものが一番なのだが、それでも無いよりはずっとマシなのでライルは渋々ピアスを受け取る。
「ちなみにそれをつける場所は乳首だ。それ以外だと効果は発揮しない」
「これの開発者頭おかしいんじゃないの!?ねぇどうしてそんな構造にしたの!!?」
そんなわけで、ライルはどうにかレウスのアシストを受けながら、勇者として再起を図ることになった。