シュウ達の居所の目途もつき、当面の金についての問題もなくなったライルが次に目指したのは、冒険者ギルドであった。
ライルは『勇者の超形態』によって戦力が従来のそれよりも比較にならないほどに向上することが発覚したが、それでも目標が目標だけに旅は一人ではできない。仲間が必要だ。
レーナの一件で冒険者ギルドは大損害を被っており、責任者であるライルには少なからずヘイトが溜まっているだろうことはアホのライルにも想像が出来た。だが、皇帝の方から一応話は通してあり、ライルに協力してくれるように手筈は整っているという。
(さて、問題はどんな人選をするかだな・・・)
ライルは歩きながら神妙な表情になって考える。
何しろ勇者の行動には制約があり、今回からはもうメンバーの一方的な追放は出来ない。メンバー選びはこれまで以上に慎重に行わなければならない。
とはいえ、サーラ達を魅了しなおしてコントロール下に置けば、その新メンバーは不要となるかもしれない。
そのときに聞き分けよく脱退を受け入れてくれそうな人、もしくは脱退する必要もない、(今は制約で手が出せなくても)将来のハーレムの一員として申し分ない美人が理想だ。
で、現時点で勇者のパーティーメンバーとして遜色ない活躍が出来る人物。
少し考えるだけでも募集をかけることに無理がありそうな条件だが、それでもライルは勇者。勇者の仲間になる栄誉を欲しがっている者はたくさんいる。間違いなく探している人材は見つかると謎の自信があった。
とはいえ、結局選ぶとしたら後々問題が起こりそうにない女のほうがいいかな~ などと考えながら、ライルが大通りに出たときだった。
「ん?」
ふと見ると、何やら人だかりで出来ている場所がある。
大道芸人でもいるのかと目を向けると、そこではどうやら吟遊詩人が歌を披露しているようであった。
「なんてキレイな歌声なんでしょう・・・」
「癒されるぜ・・・」
人だかりはどうやら歌に聞き入っている人達のようだ。
あまりの好評っぷりに、さてどんな歌なのだろうとライルも興味を持って近づいてみた。
『ララ~~~ わたしは~~~ 勇者様の仲間にぃ~~~ パーティーメンバーになりたいぃ~~~~ぃぃ~~』
・・・え、なにこの歌?
あまりにへんてこな歌詞に、ライルは頬が引きつった。
そして吟遊詩人がチラッ、チラッと視線を向けてくる。もしかして・・・
『ああ~ 勇者様が誘ってくださるのなら~ 私はぁ~~~ぁぁ~~~ 今すぐにでもぉ~~~ それを受け入れるのにぅぃ~~~ぅぃぅぃ~~」
どう考えても吟遊詩人はライルに向けてラブコールを送っているようであった。
なんでこんな歌が良いのか聞き入っている人達の正気を疑うが、ライルは失笑してしまう。
(フッ、まさかこんなアピールをしてくるなんてね・・・)
ライルはこれも勇者の威厳のなせる業か、と思った。
だが、受け入れるつもりはない。
何しろ必要なのはパーティーに役立つ人間、もしくは可愛い女の子なのだ。戦力にならない吟遊詩人で男・・・しかもイケメンは必要ないのだ。
あと吟遊詩人の歌声もライルは気に入らなかった。
確かにうまいのかもしれない。だが、世の中には『綺麗だと思うし人気もあるけど、自分は何か気に入らない』という音があることもある。
それが今、目の前にいる吟遊詩人の声だった。なんだか微妙に気に入らないのだ。癒し効果を狙ってパーティーに入れたところで、逆効果になりそうな気がしてならない。
まして吟遊詩人の美男子など入れたら、女を寝取られてしまうのが相場だ(風評被害)。関わってはいけない。
熱烈なラブコールをガン無視し、ライルがギルドに向けて足を運んでいると、見知った顔が反対側からやってくることに気が付いた。
(そう・・・仲間にするなら、本来なら彼のような・・・)
ライルがそんなことを考えていると、見知った顔はライルに気付いて破顔した。
「勇者様!ご無沙汰しています」
「やぁジャック。久しぶりだね」
ライルがジャックと呼んだのは、短髪に朝黒い肌の、ライルより一つ年下の少年だった。
彼はライルの数年遅れで冒険者デビューした後輩で、若くしてめざましい活躍を遂げるライルのことを尊敬し、深くリスペクトしてきた熱心なファンである。
リスペクトした人間が人間だったせいか、ジャック自身の成長もライルほどではないが凄まじく、ソロでありながらも順調にランクを上げ、そこそこの冒険者になっていた。
ライルは自分を慕ってくれているジャックのことを可愛がってはいたが、それでもパーティーメンバーに入れることはしなかった。ジャック本人に入団をせがまれても
「君にはまだ早いかな」
「今日は日が悪い」
「悪いなジャック。このパーティーは6人用なんだ」
と、のらりくらりとそれをかわしてきた。
何故か?
ジャックがイケメンだからだ。
ライルほどではない(と、ライルは思っている)が、ジャックは爽やかイケメンであり、入団させればどう考えてもライルの考えるハーレムの最大の障害となることは目に見えていたのだ。
その点、シュウは警戒していなかった。目が開いてるんだか閉じてるんだかわからない細目のモブ顔だし、(ライルから見て)オッサンだし。
実際は完膚なきまでにシュウに女全員奪われていたわけだが。
「くっ・・・」
ライルの脳裏に女達を奪われた悔しさが思い浮かぶ。
実力的にはもしかしたら良いかもしれないが、やはりジャックのようなイケメンは危険だと考えた。
やはりだめだ。彼を勧誘するのはやめよう。勧誘されても上手に断ろう。ライルは身の程も知らずにそんなことを考える。
そんなライルの心中を知ってか知らずか、ジャックは満面の笑みを浮かべながら言った。
「勇者様!俺、今日ギルドでA級冒険者に昇格させてもらったんすよ!・・・流石に、ソロのままじゃ無理でしたけど・・・」
「何っ!?凄いじゃないか(僕ほどじゃないが)。おめでとう!」
ジャックの年齢でA級冒険者に昇格できるのは、並大抵のことではなかった。だからライルは素直に驚き、そして祝いの言葉を述べる。
ソロじゃなくなったのか。どんな仲間なんだろう?ジャックが選んだのなら悪い人間じゃないだろうが・・・などとライルは考えた。
基本、ジャックが絡むとライルの思考はいくらかまともになる。
裏表のない、気持ちの良い爽やかな性格がライルに一時的に感染しているのかもしれない。
当人達は自覚していないが、ライルにとって『陽』となる人物・・・それがジャックだった。
「これも勇者様を目標にしていたお陰ですよ。昨日までずっと魔物討伐の遠征していたんですけど、その功績が評価されたみたいです!」
(なるほど、遠征していたから僕のことをまだ知らないのか・・・)
ライルはジャックが自分に対して以前と同じように接してくれるのは、まだ自分の失態について何も知らないからかと察した。
そう思うと、唐突にライルは怖くなった。純粋に慕ってくれるジャックが、遠からず自分に失望することになろうとは考えたくなかった。
ライルはジャックにこれまで散々大物先輩ぶって接してきた。
それ故に、ライルはジャックにとって完璧であらねばならないと考えているのだ。時間の問題であるというのに。
(早くメンバーを集めて、僕にことを知ったジャックと再会する前にさっさと帝都を出発しなきゃ・・・)
自分の今の情けない現状を知ったらどんな顔をするだろう?どんな口を利くようになってしまうのだろう?
「すまない、今日はちょっと急ぐんだ!」
「あっ・・・!」
親しい後輩であるはずのジャックに対し、すっかり恐怖心を抱いてしまったライルは、そそくさとその場を立ち去った。
ジャックの明るさが眩しい。眩しすぎる。日の光を浴びることの出来ない系の魔物になってしまった気分だった。
いつもなら食事にでも誘うところだが、今のライルにはとてもそんなことをする余裕がない。
(くそっ・・・僕をこんな惨めな気持ちにさせやがって!シュウやつ絶対許さねぇからなぁ?)
すがすがしいほどに糞っぷりな他責思考だった。