「は・・・?応募が無い・・・?全く、誰も・・・?」
メンバーの募集をかけてから二日後、意気揚々と冒険者ギルドを訪れたライルに待ち受けていたのは、勇者パーティーである『光の戦士達』への応募者がゼロであったという悲惨な現実だった。
「ご期待に沿えず申し訳ありませんザマーミロ」
先日と同じ受付嬢が、言葉ばかり(?)の謝罪を述べて頭を下げる。
ライルはまさに開いた口が塞がらないとばかりに、あんぐりと大口を開けて硬直していた。
「応募が無かったって・・・だって勇者パーティーだよ?冒険者なら誰もが憧れるはずだろ・・・?どうして応募がゼロなんてことがあるのさ・・・?」
「誰も入りたくなかったからではないでしょうか?」
「そんなわけないじゃないかっ!!」
ダンッと、ライルは受付のテーブルを力いっぱい叩いた。
「誰も入りたくなかったなんて、そんなことあるわけないじゃないか!ギルドの怠慢なんじゃないのか?正直に言いなよ。何か不手際があったんだろう??」
ライルは『光の戦士達』への応募がゼロであるという現実を受け止め切れず、唾がかかりそうな距離まで顔を受付嬢に寄せて怒鳴りつける。
受付嬢はイライラが募ったが、それでも最低限の営業スマイルを維持して堪えた。
「君のようないちギルド職員にはわからないかもしれないけどね、冒険者にとって勇者である僕がいるパーティーは憧れの的なんだよ。募集をかけたら絶対に応募者がいるはずなんだ」
「・・・はい」
「手違いで募集が出来ていなかったんだよね?素直に言ったほうがいいよ?大至急募集しなおしてくれれば、おおごとにはしないで上げようじゃないか」
「・・・はぁ、申し訳ありません」
ライルは呆れている受付嬢が大人しくしているのを良いことに、次々と早口でまくし立てる。
理不尽に詰られても、表情を崩さず、受付嬢はただジッと話を聞く。まさに(たまに言葉遣いに本音が出てしまっても)受付嬢の鏡!
が、ライルはそんな受付嬢の一線を踏み越えた。
「そうだねぇ、新たに募集をし直して応募が来るまでの間、君が僕の相手をしてくれるなら許してあげてもいいかな?」
「・・・」
受付嬢は、何故かたまたま近くにあった中身の入った酒瓶を手に取ると
パリーン
何の躊躇いもなく、思いっきりそれをライルの頭に振り下ろした。
「調子に乗らないでくださいよこのウジ虫が」
いつもと変わらぬ・・・いや、この場においてはむしろ不自然極まりないほどに淀みない笑顔で受付嬢は言った。
頭から流血するライルのみならず、他のギルド職員も遠巻きに見ていた冒険者も唖然とする。
「勇者パーティーが憧れ?何を言ってるんですか。シュウさんがいなければ、サーラさん達でさえ残ることが無かったブラックパーティーがっ!!」
「・・・え?」
「あなたのセクハラと、日ごろからあるエッチな視線、馬鹿な発言。そして仲間に引き入れるだけ引き入れておいて、特にサポートするわけでもなしの放漫体制。サーラさんとアリエスさんの入団の頃は、私は何度もパーティーを抜けたいと相談を受けてましたよ」
「さ、サポート・・・?」
冒険者パーティーのリーダーとしての義務・・・それは、新しく加入したメンバーに対する手厚いサポートである。当たり前であるが、新しいパーティーに加入した人間は、大概は萎縮したり連携の不慣れなどで従来の実力を発揮できないことがある。
それをフォローしてやることで、少しでも早くパーティーに慣れてもらうようにすることはリーダーとしての責務なのだ。冒険者パーティーを立ち上げる際にはギルドからそのように講習を受ける。
ライルは勇者なので、どのような環境でも実力を発揮できる。だから新入りの気苦労など察することが出来ず、細かいサポートなんて全くしてこなかったのだ。
「シュウさんがずっとサーラさん達のサポートをしてきたんですよ。アリエスさんの回復術だってシュウさんがいろいろ教えてあげていたんです。あの二人が『光の戦士達』をあっさり見限ったり、シュウさんに惚れるのも仕方がないと思います」
「な・・・」
「それにですね・・・」
怒りで勢いに乗った受付嬢は、カウンターから半身を乗り出して興奮した様子で据わった目をし、ライルをこれでもかというほど睨みつけた。
「私だって、サーラさん達のようなドン引きするほどの狂愛じゃないですけど、シュウさんのこと良いなって思ってたんです」
「「ええーーーっ!?」」
ライルだけではなく、他のギャラリー達も衝撃で声を上げる。
受付嬢はライルだけでなく、他職員や多くの冒険者から人気があった。
「あなたが追放さえしなければ、いずれ言葉巧みにシュウさんを私の部屋に連れ込んで、酒とセックスとドラッグで型にはめてヒモにしようと思ってたんです!」
「ドン引きするほどの狂愛じゃないか」
「あ~~、怒りが再燃してきました。まだ殴り足りないわ」
またぶん殴ってやろうと酒瓶を探そうとする受付嬢を、ギルド職員が羽交い絞めにして止める。
微妙に、いや、そこそこ危ない言動をする受付嬢に皆がドン引きしていた。「まさかこんな子だったとは」と放心する冒険者もいる。
「なぁライルよ!あんたがどれだけ嫌われてるかわかったかい?誰も応募してこなかっただろう?」
受付嬢の暴走に放心していたライルは、突如として肩を叩かれた。
スキンヘッドでカイゼル髭を生やした大柄の戦士風の男が、ライルのことを小ばかにしたように見下している。
「ば、バリー・・・!」
戦士風の男の名はバリー。『光の戦士達』と交流のあるA級冒険者パーティーのリーダーで、しばしば情報交換をし、時に合同でギルドからの依頼をこなし、たまには一緒に飲みに行くこともある仲の良い冒険者であった。
いつもウザいくらい豪快に笑い、その明るさで気落ちしたときも助けられたりしたのだが、この日のバリーは微笑を浮かべるだけの留め、何やら意味ありげな視線をライルに投げかけている。
「バリー。なぁ、僕が嫌われているって、どういう・・・」
「言葉の通りだよライル。勇者だからって傲慢で人の気持ちを考えない男が人望なんてあると思うか?」
ライルの質問に対し、返ってきたのは辛辣な言葉だった。
「確かに冒険者としてはお前さんは尊敬できるよ。けど、友達や仲間として深い付き合いになるのは考えたくない・・・多くのやつにそう思われてるってことさ。パーティーメンバーなんて募集かけても、来るのはほとんどいないと思うぜ」
「そ、そんな・・・」
「お前さんにとって一番の悪手だったのは、シュウを追放したことだな。うちのパーティーだって、アイツが取り持ったから『光の戦士達』と交流したんだ。『光の戦士達』だったからでも、勇者であるお前さんがいたからでもねぇ。シュウがいたからだ」
バリーの言葉に周囲にいた何人かの冒険者が頷いた。
誰もがライルと・・・否、シュウを通してライルと交流のあった冒険者だった。
「ていうか、あれだけパーティーにあれこれ貢献してくれたシュウを追放して、ついでに『光の戦士達』の女達を制御できずに冒険者界隈から帝都から何から滅茶苦茶にしておいて、どうして嫌われないと思うんだよ」
「・・・な・・・」
ライルは震えが止まらなかった。
自分にはないのに、シュウには人望があるという現実に愕然とする。女達の暴走は彼女らがイカレポンチだっただけで自分は関係ないやいと言い返したかったが、あまりの精神的ダメージでそれどころではなかった。
サーラ達がシュウのことを好きなのはきっと少し頭が残念なんだろうと勝手に思っていたのに、どうやら彼女達だけでなく誰もかれもが自分よりもシュウに気持ちを寄せているという事実に、ライルは天狗になっていた鼻が折れ、思考が停止しそうなほどの衝撃を受けた。