「もうお前の時代は終わったんだよ!」
「セクハラ変態野郎が!」
「このホモッ!総受け!」
ギルドにいた冒険者達が、次々にライルのことを詰る。
ライルのことはこれまで男冒険者からはそれなりにリスペクトがあったが、それでも帝都暴走の一件とシュウ追放による信頼の失墜、そして再起は絶望的との見方が広まったことで、一気に攻撃される対象と変化した。
これまで冒険者としての実力はあったものの、傲慢な態度が出ていたところもあり、少なからずヘイトを溜め込んでいたライル。
そんな彼を擁護する者はこの場にはいなかった。
「僕は・・・僕は・・・」
ライルは突如として迫害された衝撃に茫然自失としていた。
今日、この場において新パーティーを結成し、華々しく再出発をする予定だったのに、その予定が崩れたどころか再起そのものが怪しくなってきたことに絶望する。
(ふざけるな・・・僕は勇者なんだぞ・・・っ!)
深く絶望したものの、ライルの心中にフッとすぐにある感情が湧いて来る。
それは怒り、憎しみ。
自分を勇者として崇めない、それどころか馬鹿にする冒険者やギルド職員に対する激しい憎悪が彼の中で燃え上がろうとしていた。
(僕が勇者であることを、僕の力の凄さを、徹底的に体に教え込んでやろうか・・・?)
勇者としての制約など知らない。己が感情のままに動いてしまおう、そうライルが考え始めたときだった。
「お前なんて落ちぶれたやつのパーティーなんて、入る物好きなんているかよっ!!」
一人の冒険者がそう叫んだ。
が・・・---それに答える者が現れ、流れが変わった。
「いますよっここに一人ねっ!!」
バァンとギルドの入り口の扉が開かれ、そう答える者が現れる。
「なっ・・・」
ライルは驚愕で目を見開く。
この場において、誰一人自分の味方などいないと思っていたのに、一人だけ現れたのだ。
そして、その一人の正体にライルはすぐに心当たりに行きついた。
入口に立つ者は、日で影となり姿はまだはっきり見えない。
だが、ライルにはもうそれが誰なのか何となくわかっていた。それだけの確信があった。
「まさか、あのsilhouetteは・・・」
ライルは声を震わせる。
目頭が熱くなる。
「ジャック!」
ライルはその男の名を叫んだ。
この状況でも、自分の味方をしてくれる男の名を。
・・・が、姿が見えるようになり、ライルの目に飛び込んできたその男は、彼が思っていたのと違っていた。
その男は・・・数日前、街で歌っていた吟遊詩人だったのだ。
「アン?ナンデ・・・?」
違う、そうじゃない。
この流れでなんでお前が出てくる?とライルの上りに上がったテンションは一気に急降下した。
「私が勇者ライルの~ 仲間にぃ~ なろうではないですかぁ~~」
吟遊詩人はライルの心中を無視して歌いだす。なんで歌う?歌うな。耳障りだとライルがツッコミを入れそうになったその時だった。
「あ、あれは・・・『超級吟遊詩人サブングル』!通称サブちゃん!!」
冒険者の一人が、驚愕して大声を上げた。
ギルド内が一気に騒めきだす。
「まさか・・・伝説のサブちゃん!?」
「気まぐれで世界中を巡るため、会えるだけで奇跡っていう・・・」
「いくら金を積んでも、自分が気に入らないパーティーには決して属さないっていう・・・!」
「皇帝陛下ですら彼を縛り付けることは出来ないらしいぜ!」
「そんな凄い人が、何故あんな奴の仲間なんかに・・・!?」
えっ?もしかして凄い人なの?と、ライルは目が点になった。
「勇者ライル様。私は貴方を見てティンと来ました。貴方の近くでしたら、私の新しい曲のインスピレーションが沸くと確信したのです。どうか私を貴方の仲間にしていただきたいのです」
サブちゃん・・・サブングルはライルの前に立ち、恭しく一礼する。
すると、おおっとギルド内でどよめきが起こった。
「信じられない・・・まさか、そんなサブちゃんが・・・」
これまでライルを詰っていた冒険者達が、驚愕に声を震わせているのを見て、ライルはすっかり気を良くしていた。
「ま、そこまで言うのなら、僕の仲間にしてあげてもいいじゃないか」
最初は入れるつもりなんて無かったのに、サブングルを入れることによって自分の名声が上がりそうなこと、そして今の自分を受け入れてくれたことの感動で、ライルはサブングルの入団を受け入れることにした。
吟遊詩人が何の役に立つのかは知らんが、連れ立って歩くだけで『光の戦士達』の名が上がるならどうでも良いのだ。
だが、奇跡はそこで終わらなかった。
「ワタシのことも忘れてもらっては困るアル!」
「げっ・・・この怪しい特定語尾は・・・」
またもギルドの入り口に立つ男が一人。
ライルにとってろくな思い出の無い男・・・インチキ古代語翻訳家のイ・チンキンであった。
格闘家の履くズボンに、上半身裸。見るからにホモ。受け入れたくない。なんでお前が来る?とライルは思っていたが・・・
「あれはっ!超級格闘家のイ・チンキン!素手ならば世界でもトップクラスの実力者であるという・・・!」
「マジかよ!彼の営業するエッチで怪しいメンズエステサロンは、予約で三年先まで埋まっているという・・・っ!!」
「どれだけ金を積んでも、仲間にはならないし体も売らないって話だ!」
「皇帝陛下が直々に彼にエステを頼んでも、気が乗らなければ断られるという・・・」
「・・・皇帝陛下ホモなん?」
次々に出てくる冒険者達の発言を聞いて、ライルは目が飛び出るほど驚愕する。イ・チンキン・・・悪い意味で只者ではないとライルは思っていたが、まさかかなりの大人物だった。
「ライル君。ワタシがアナタの仲間になるネ。どうかワタシを受け入れるがヨロシ。(小声で)肉棒も」
チンキンは、ライルにそう言って手を差し伸べる。
本能が嫌だと言っている。人生でもう関わりたくない人間のワースト5に間違いなく入る。
だが、冒険者達の反応を見るに仲間にして損は無さそうだし、見返すことも出来そうであると判断し・・・
「わかった。・・・受け入れよう。肉棒以外」
ライルは渋々、チンキンのパーティー加入を受け入れた。
ギルド内に地鳴りがしてひっくり返るレベルの勢いでどよめきが起こる。
「マジかよ!どちらか一人だけでも仲間にするのは奇跡だというのに!」
「やはり腐っても勇者か!」
冒険者達の言葉を聞いて、ライルは微妙な気持ちになりながらも「ま、これでいっか」と思ったのだった。
というか最初から応募してくれよとライルはふと思ったが、結果としては良かったのでそれは口にしないことにした。