「フッ、それじゃあこれにて新生『光の戦士達』の出発だな」
そう言ってギャラリー達が遠巻きに見ている中、ライルは受付嬢のところに悠然と歩き、メンバー加入の手続きを依頼した。
どうだ?自分は(良く知らないけど)最高の人間を仲間にしたのだぞ。と周囲の冒険者に見せつけるかのように。
「さ、サブちゃん!どうか俺のところのパーティーに入ってくれ!あんたの声がなければ俺はもう・・・」
「頼むサブちゃん!俺のところに~~っ!」
「こっちのパーティーに来てくれよな~ 頼むよ~」
幾人もの冒険者達が血涙を流しながらサブングルにそう訴えかける。
ライルはそれを見て「なんでこんな吟遊詩人がそんなにええのよ?」と首を傾げた。世間一般では綺麗な歌声なのかもしれないが、ライルには全く良さがわからない声だったので理解不能だった。
しかし、誰もがサブングルに対し狂気を感じる異様なまでの熱意で勧誘しているのを見て、ライルは不気味さを感じてなんとも言えない気持ちになっていた。
「チンキンさん!俺のパーティーに来てくれ!!」
「あんたのマッサージがないと俺は・・・」
チンキンにも声がかかる。こっちの方は本当に理解ができないのでライルは考えることすらやめた。
そうして受付嬢が悔し泣きをしながら手続きをしているのを待っていると、不意にライルは自分の隣に人の気配を感じた。
「・・・ん?」
気が付けば、そこには一人の少女が立っていた。
黒髪で紫の装束に身を包んだ、なんとも地味な恰好の少女だ。
目元は濃い隈があり、なんとも不健康そうで女好きのライルであっても食指が動かない、色気の感じない容姿である。
「・・・」
その少女がライルに対して何かを言った。
「え?何?聞こえないんだけど・・・」
ライルが聞き返すと、少女は口を開き先ほどよりはいくらか大きな声を発した。
「・・・応募」
「応募?」
少女が「応募」と口にしたのを聞き取ったライルは、彼女の手に小さな紙きれがあることに気が付いた。
「それは・・・『光の戦士達』への応募書類ですか?本当に?こんな糞パーティーに?」
少女が手に持っている紙に気が付いた受付嬢は、そう言って目を見開く。
受付嬢としての体裁すらもう整える気は無さそうだ。
「応募・・・君が?」
待望のパーティーへの応募者だが、ライルは不躾極まりない値踏みするような目線を少女へ向ける。
歳は自分と同じくらい。
顔は地味で、見ているだけでジメジメしてきそうな陰気っぽい外見だ。体つきもストーンと寸胴体系で、ライルには微塵も色気を感じさせず、正直なところ女性要員として加入させるのは微妙な気分だった。
しかし・・・
「あ・・・あれは超級くノ一のチヨメじゃないか!」
ギャラリー達の一人が声を上げた。
「え?またこの流れ??」とライルが困惑していると
「くノ一!?くノ一ナンデ!?」
「なんであんな一流の人が・・・」
「金ならあるんや!どうか私達のパーティーにっ!」
またも口々に冒険者達がチヨメと呼ばれた少女を賞賛し、勧誘しだす。
話をまとめると、超がつくほどに優秀な斥候だとわかり、ライルは自分の幸運に感謝した。
「ふふっ・・・思えばこの僕、いつも幸運に守られている気がする」
得意気に思わずそう言うライル。既にこれ以上ないくらい不幸な目に遭ったことは頭から抜け落ちている。
悔しがる受付嬢、そして他冒険者達。それを見ているだけでライルは心が満たされ、全てを赦そうという聖者のような心境になった。
結局、ライルは良くわからないけど一流だとされている怪しい少女チヨメも仲間にしたのだった。
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「本日はありがとうございました。おとといきやがれ」
受付嬢は血涙を流しながら、ライル達に頭を下げて見送った。
ライルを詰っていた冒険者は、指をくわえながら羨望のまなざしを向けたまま。
これ以上ないほどに侮辱されていたはずのライルは、超一流のパーティーの再結成という完全勝利と言える形でギルドを後にすることになった。流石にライルのテンションは爆アゲである。異様に濃いメンバーで華が無いとかこの際どうでも良かった。
「フフッ、これで魔法討伐も、旧女性メンバーを取り戻すこともなんだって出来る。もう何も怖くない」
今、自分こそが帝都で、いや、世界で最高のパーティーを築いているという万能感にライルは浸っていた。
道行く一般人達もパーティーが放つオーラに気圧され、道を空ける。これがまたライルを増長させた。
「やはり、最高の勇者には最高のメンバーが集まるものなんだな」
かつて集まった最高のはずのメンバーには斬りつけられたり汚名をかぶせられたり掘られそうになったりと酷い目に遭わされたはずだが、それはすっかり頭から抜け落ちているライル。こんなんばっかである。
「・・・ん?」
気を良くして歩いているライルの元に、一人の男が走ってやってきた。
「勇者様!何だか凄いパーティーを結成したと聞いて、飛んでやってきました!!」
「ジャック!」
ライルのところにやってきたのはジャックだった。
ライルが超一流のメンバーを集めて再出発を果たしたのは、既に帝都中の冒険者の噂になっていた。
ジャックはライルの連れているメンバーを見て、目を輝かせてから破顔する。
「凄いじゃないですか!サブちゃん、イ・チンキンさん、チヨメさん、冒険者じゃ知らない人はいないほどの超がつく有名人ばかり!流石勇者様です!」
「えっ・・・そんなに凄いの?」
「凄いですよ!流石勇者様です。俺が追いつこうと思っても、どんどん先に行ってしまう・・・やはり勇者様は目指し甲斐ある俺の目標ですね!」
ジャックに褒められ、ライルはテンションのゲージが最高潮まで上がった。
「何、ジャックだっていずれは俺と同じところにまで来られるさ」
気を良くし過ぎて、ライルはそんなことまで言ってしまう。完全に上から目線だが、ジャックは全く気にする素振りを見せずライルに尊敬の眼差しを向けるのみ。底抜けに良い奴だった。
「ジャックーーっ!」
そこへ一人の少女が大声でジャックの名を呼びながら駆けて来た。
声に反応してライルが目を向けると、そこで彼は信じられないものを見た。
「なっ・・・!」
眼鏡でツインテールで背の低い美少女が、ジャックのいるところを目指して走っている。
たゆんたゆん ばいん
と、擬音が聞こえてきそうなほど大きく胸を揺らしながら。
(チビでツインテで巨乳の美少女・・・だと?)
ライルは美少女を・・・正確には彼女の胸元を見て驚愕する。サーラ以上の巨乳だと判明した。
驚愕のあまり、いつものセクハラをする余裕もなかった。
「もうジャックぅ~ 急に走り出すから追いかけるの大変だったよ~」
そう言ってサーラ以上の巨乳の少女は、ヒシッとジャックの腕に引っ付いた。
「じゃ、ジャック・・・そちらのお嬢さんは・・・」
ライルは震える声でジャックに訊ねる。
「あぁ、このチビでツインテで巨乳の美少女は、俺の故郷の幼馴染のメリアっす。何か俺のこと追いかけて冒険者になったらしくて、今仕方なしに組んでるんですよ」
「もうっ仕方なしってなに?私の回復魔法だって役に立ってるでしょ~?夜のお世話だって・・・」
「ば、馬鹿っ!今そんなこと言うなって・・・!」
ライルを前にしてイチャコラする幼馴染カップルたちは、二人の世界に入りだす。
「勇者様の前で恥かかせるなよ。お前今夜覚えとけよ。激しくするからな」
「ふんっ!望むところだよ。粉が出るまで絞り取ってあげる!」
頭のネジが外れてるレベルのいちゃつきっぷりを見せられ、ライルは精神が崩壊しそうになった。
「くっ・・・畜生っ!!」
ライルは全力でその場から逃げ出した。
目から血の涙が止まらなかった。
(よくわからんけど)超一流のメンバーを揃えてドヤっていたはずなのに、ジャック達の前では猛烈に惨めな気持ちになった。
聞くに堪えん歌を歌う吟遊詩人、ホモのインチキ親父、色気ゼロのくノ一、皆が一流だというメンバーが、急に無価値なものに見えて仕方が無かった。それだけチビでツインテで巨乳でいちゃつける幼馴染なライルにとって羨ましいものだった。
先ほどまで天にも昇る気持ちだったのに、猛烈な敗北感に地獄に落とされた気持ちになってしまっている。
「何があってもサーラ達を取り戻す!必ずハーレムを築いてやるからなぁっっ!!」
クッソ恥ずかしいことを往来で叫びながら、ライルは決意を新たにするのだった。