メリアに連れられ、ウィンクが通されたのは貴賓室だった。
断罪され、高確率で処刑になるだろうとされていたウィンクが唐突に貴賓室に通される異常事態に教会の誰もが困惑するが、教会内でナンバー2の力を持つウィンクに物申す者はいない。
ウィンクが通された貴賓室の前には信頼のおけるメリア直属の騎士が配備され、徹底した厳重警備という異様な空気の中で二人のお茶会が開かれた。
並の人間ならば恐縮して茶を楽しむどころではないが、そこは荒くれ者をまとめ上げているウィンク。別段空気を気にすることなく茶と菓子に舌鼓を打ちながら、メリアに乞われるままにセレスティアのことについて話した。
「そう・・・そんなことが・・・」
ひとしきり話を聞いたメリアは、頬を紅潮させながら「ほふぅ・・・」とため息をついて何やら余韻に浸りだす。
「なんて深い愛なのでしょう・・・愛する男のために、周囲も、秩序も、家族ですら鑑みずに出来ることを全てやり遂げるとは・・・っ!」
普通に見ればセレスティアの行いは迷惑極まりない極めて異常と言える暴走だが、それでもメリアは話を聞いて心の底から感動し、熱に浮かされていた。
彼女もまた、一般人の持つ感覚から大きくズレた者である。
「ティアに見初められたそのシュウという男は果報者ね。母親ながら少し妬けてしまうわ」
少し寂しそうに視線を落としながらそう言うウィンク。
有事の際に備え、護衛として部屋の隅で直立不動にしているメリアの側近は「どう考えても果報者どころか女難ではないか?絶対そんな女に目を付けられたくはないぞ」とツッコミを入れたくて仕方が無かった。
「そこなんですけれど・・・」
ウィンクの言葉を聞いたメリアは、それまで恍惚に浸っていた表情を曇らせ、申し訳なさそうに言葉を発した。
「残念ですが・・・セレスティアさんの恋は、恐らく叶うことはないでしょう」
「・・・なんですって?」
メリアの発言に、ウィンクは眉を顰める。
ウィンクにとってセレスティアは自慢の娘。少々・・・いや、かなり強引なところはあるが、それでも親の贔屓目を抜きにしても十分に魅力のある女だと思っていた。
だからセレスティアの失恋を確信しているかのようなメリアの言葉に、ウィンクは少なからず苛立ちを感じ、ついキツイ視線を向けてしまう。
「セレスティアさんがどれだけ魅力的で、どれだけ情熱的で、どれだけ手段を選ばなくても、今回ばかりは相手が悪いのです」
ウィンクの鋭い視線が突き刺さってもメリアは動じず、ほぅっとため息つき、物憂げな表情で言葉を続けた。
「現在、シュウという男を追っているのは、セレスティアさんだけではありません。私の一番弟子とも言える子が彼を追おうとしているのです」
「一番弟子・・・?」
メリアは聖神教会の騎士の中でももっとも強いと言われていたが、そんな彼女には何人かの弟子がいることは有名だった。いずれ帝都の、いや、世界の平和を守る重要な一角になるだろう彼らには強い期待が寄せられている。
そんなメリアの直弟子が、シュウのことを追っていると聞いてウィンクは驚かずにはいられない。
「そう、彼女もまたシュウという男を追う者の一人なのです。まさか私の弟子が幼馴染の娘と同じ男を取り合う、なんて非情なる運命なのでしょう」
メリアは声高らかにそう言いながら、くねくねと身をよじって恍惚な表情を浮かべ涎を垂らす。どう見ても危ない人。聖神教会のナンバー2には見えない。
「驚いたわ。けど、教会騎士をやっている品行方正な人なんかが、私の娘をはたして出し抜けるものかしら?」
目のまえにいる教会騎士のトップはあまり品行方正には見えないが、挑発的にそう言ったウィンクに対してメリアは微笑を浮かべて答えた。
「ふふ、私の一番弟子の子は、とっても危なっかしい子ですよ。意中の男を巡って、教会内で一波乱起こそうとまでしています。ネジのハズレっぷりでは、セレスティアさんにも負けてはいないのではないかしら?」
「えっっっ・・・どれだけ危ない子が教会騎士やってるのよ・・・ていうか、教会の秩序を乱そうとしているみたいだけど、それはOKなわけ?神敵というのに値するんじゃ・・・」
「えぇ・・・でも、教会の秩序より恋バナのほうが大事ですから・・・愛のためなら神にも背く・・・素晴らしいじゃないですか」
真顔で当たり前のように言ってのけるメリアに、ウィンクも話を聞いていた側近も「この人の一番弟子ならヤバいのも頷けるかもしれない。ていうかアンタこそが神敵や」などと考えていた。
確かに自分の好み次第で信仰も秩序も投げうるメリアは、ある意味質の悪い非常に邪悪な存在と言えるだろう。
(ティア・・・行く道は想像以上の茨の道だけど、しっかりやり遂げるのよ)
ウィンクは帝都を発ったセレスティアを憂い、
(シュウとやら、哀れな男。一体どれだけの業を積めばこんな運命を背負うことになってしまうのか・・・)
側近はヤバすぎる女達にロックオンされているシュウのことを憂いた。