聖神教会は今、聖女フローラがシュウと駆け落ちしたことにより、大きな混乱に陥っている。
大々的にに帝都民にアピールしたことで極秘裏に捕まえて揉み消すことも出来ず、二人を見逃してやれと世論もヒートアップしてきたことで対応についてもどうしたものかとあれこれ意見が分かれていた。
そんな大混乱に陥っている最中、メリアがウィンクに言っていた通り、一人の女が更に聖神教会を引っ掻き回そうとしていた。
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「あれは・・・」
ある人影が聖神教会本部に姿を現すと、神官達が騒めいた。
「あっ、見ろよ『剣鬼』様だ・・・」
「遠征からお帰りになられたのですね」
「今回も一人で数十匹のドラゴンを屠ったとか・・・」
「とてもそうは見えないのに・・・なんて貫禄でしょう」
神官達の注目の的になっているのは、真紅の鎧に身を包んだ幼い少女・・・
に、見える二十代半ばになろうとしている女性だった。
平均よりやや低めの身長と、幼い顔立ち、ツインテールという髪形から、実年齢よりずっと若く見えるこの女の名はエリーザ。
聖騎士団団長メリアによって弟子と認定された者達で構成される『十三騎将』という騎士が、実質的に聖神教会内では絶大なる権力を持っているのだが、彼女はその内の一人である。
十代後半にすら見える幼顔のエリーザは、抜きんでた美貌とピンク色の髪という風貌、そして身に付けている真紅の鎧もあって見た目からして、厳粛な雰囲気のある聖神教会本部ではあまりに浮いていて存在感が半端ない。
だが、そんなエリーザの存在が浮いているのは、決して派手な見た目だけが理由ではなかった。
彼女は聖騎士のエリート中のエリート十三騎将の中でも、特に異色な存在なのだ。
『真紅の狂天使』
『血しぶき大将』
『斬殺天使エリーザちゃん』
彼女の異名はいくつも存在するが、そのいずれもが物騒なものばかり。
聖騎士の使命は帝都の治安維持もあるが、遠征で魔物の討伐を行うことも多い。
エリーザは特に遠征することが多いのだが、彼女はひとたび戦いに赴けば誰よりも先陣を切って単身敵陣に突っ込み、わが身を顧みないイカれた戦いっぷりで血の雨を降らせるスタイルなので、遠征を終えて帰ってくるたびに逸話や異名がそのたびについてきたりする。
聖騎士が身に着ける鎧は基本的に白銀のものであるが、いつだって返り血で全身を真っ赤に染めて帝都に帰還するので、帝都民など周囲がドン引きしてイメージ低下しないようにという配慮によって、真紅の鎧を身に着けることをメリアに命じられた。初めから赤ければ気付かれないで済むもんね、ということである。
が、配慮はしても結局やっていることは変わらないので、教会でも帝都でも畏怖の対象としてエリーザは一部で有名になってしまっている。
エリーザは帝都での任務よりも常日頃から遠征任務を希望し、魔物討伐に超積極的に臨むという冒険者でも類を見ないような戦闘狂だったが、彼女の魔物討伐数はそのおかげもあって五桁に達しており、戦績の積み重ねが異常に早いこともあって出世も早かった。
故に二十代前半にして、エリーザの権威は実質的にメリアの次・・・教会内でのナンバー3である。
この異常事態に教会の重鎮は快くは思っていないが、何しろ相手が聖職者と思えないほどのバーサーカーなので、恐ろしくて誰も政敵に回ろうとはしない。
ナンバー2とナンバー3がワケアリという、聖神教会はちょっと歪でよろしくない権力構造になっていた。
それはさておき、エリーザもいずれは聖騎士団団長・・・あるいは法王?
異色な存在である彼女は、風雲児としてその名を轟かせていたのが・・・
彼女はフローラ騒動によって大混乱の最中にある教会を、更にかき乱した。
「元聖女フローラを告発します」
教会本部で開かれたフローラ騒動における対策会議の際、彼女はそう言って場を凍り付かせた。
フローラについては帝都民から減刑、もしくは無罪放免にしろという嘆願書が山のように届いており、対応については慎重にしなくてはならないと協議に協議を重ねているところだったのだが、そこにきてエリーザのこの一言。誰もが唖然とした。
「フローラを捕縛し、連れ帰った後はしかるべき処罰を下すべきです」
フローラが会議の場に提出した書類には、エリーザが独自に調査したフローラのとある『罪』について記されていた。
書類に目を通した教会の重鎮達は、ある者は訝しみ、ある者は頭を抱え、ある者は顔面を蒼白にしたまま硬直する。
問題が更にややこしくなったことで、彼らの安息の日は遠のく。なんて面倒なものを掘り起こしてくれたのだと恨みがましい気持ちになった。
「そう・・・では好きなようにすると良いでしょう」
そしてこれを認可するメリア。
その場にいた誰もが一斉にため息を漏らした。
馬鹿の大将敵より怖いというが、フローラ騒動よりも厄介な頭痛の種が教会内の実質的なトップ2と3かよと嘆く。
「ちなみに、フローラと共に逃亡中の元神官シュウの処遇については、私の方で決めさせていただきます」
エリーザの言葉に、その場にいた多くの者が「えっ?」と言いたげな顔になった。ただの神官など処遇などどうでも良かったが、何故わざわざエリーザが決めるのか。それが気になってのことだ。
皆の疑問の視線が集められたことに気が付いたエリーザは、顔を真っ赤にして慌てて言った。
「な、なによ!あんな奴のことなんかで、わざわざ皆の手を煩わせることなんてないって思っただけよ!決して私がどうこうしたいってわけじゃないんだからねっ!勘違いしないでよ!」
一人で勝手にテンパったエリーザは、居たたまれない様に颯爽と踵を返し、バァンと大破しそうなほどの勢いで扉を開け放ち、会議場を後にした。