フローラ捕縛の許可をメリアから取り付けたエリーザは、仕事から旅支度からあれこれ膨大な手続きを経た。
エリーザの立場が立場だけに、「はい、いってらっしゃい」とはいかないことにもどかしさを感じたが、フラストレーションを抱えながらもてきぱきとそれらを数日かけて済ませ、さて出発というところで声をかけられた。
「エリーザ。お前に用がある」
声をかけたのは、エリーザと同じくメリアの弟子である十三騎将の一人、『細切れナイフ』の異名を持つジャックという男だった。
その後ろには同じく十三騎将である『赤いカリスマ』と呼ばれるフェルディナント、『蒼き雷光』と呼ばれるガルソニックが立っている。
「お、おい見ろよアレ・・・」
早々たる顔ぶれに、周囲で見ていた神官達は騒めいた。
十三騎将は聖騎士団の中でも任務に引っ張りだこで極めて多忙であり、一人見かけるだけで『珍しい』と騒ぎになるのだが、それが一同に四人も揃っている。これは異様な出来事だった。
ついでに言うとジャックは上半身裸で肩に棘付きのパッドをつけ、袖無しのジャケットを羽織ったピエロのようなメイクをしたモヒカン男。
フェルディナントは角突きの兜から全身まで真っ赤な甲冑に身を包んだ、金髪碧眼の男。
ガルソニックも甲冑姿だが、その甲冑はゴテゴテのデザインで、全身青色で、所々に『雷・撃・瞬・殺』と白い文字が入っている。
控えめに言って派手。目立つ。
エリーザも目立つが、決して負けてない。
「濃いな・・・」
「あぁ・・・夢に出てきそうだ」
「いつも思うんだけど、アレ恥ずかしくないのか?」
見た目からしてかなり派手な4人が並んでいるので、ただ立っているだけでも異様過ぎて目を引いてしまう。
だが、この4人が異様なのは見た目だけではない。
十三騎将は聖騎士の中でも特別中の特別の実力と実績を持った一騎当千の戦士の集まり。
纏っている雰囲気は、並の人間ならば近づくだけでも底冷えする威圧感がある。
「何?私、忙しいんだけど」
が、これ以上ない悪いタイミングで出足を挫かれたエリーザは、不機嫌マックスに顔を顰めながらギロリとジャックを睨みつける。全くジャック達に対して気圧された雰囲気は無かった。というか、何ならジャック達に嚙みつかんばかりの勢いだ。
オーラとオーラのぶつかり合いに周囲にいた神官達は戦慄し、そそくさとその場を立ち去った。
「ちっ、話があるって言ってんだから黙って聞けよなぁ?ったく、おめえはよう、本当に先輩に対する口の聞き方ってやつがなってねぇよな?」
ジャックはエリーザの態度に苛立ち、舌打ちをしながら彼女を睨みつける。
エリーザは十三騎将の中でも一番の若輩であるが、入って早々に実質的な序列が一位になっており、そのことで先輩であるジャックには以前から疎まれていた。
フェルディナントやガルソニックはジャックの後ろで沈黙を貫いているが、実のところその胸中はジャックと違いはない。
十三騎将は「序列なく、皆が平等」と謳われているが、それはあくまで建前。だがそれを無視して本当に十三騎将の誰に対してもため口・・・どころか時に攻撃的にすらなるのがエリーザだった。
生意気で目立つ後輩というのは、当然ながら先輩から攻撃に晒されることになることが多いが、それは聖職者である十三騎将とて同じだった。
ジャック、フェルディナント、ガルソニックはそれぞれ異名は一つずつしかないが、エリーザは(良いか悪いかは置いておいて)いくつも異名がある。これもまた「新人のくせに目立ちやがって」とやっかみも受けていた。
ジャック、フェルディナント、ガルソニックは異様に濃い見た目をしているが、そんな彼らに「目立ちやがって」と言われるエリーザも凄いわけだが。
「用件を言わないのなら、私は行くわ。急いでいるの」
ジャックも不機嫌だが、エリーザはそれ以上に不機嫌そうに返す。
その気迫にジャックは一瞬「ヒッ」と声を出しそうになる負けフラグを立てかけたが、それでも気丈にエリーザを睨んだ。
「話があるってんだよ。ちっとばかしツラ貸せや。じゃねぇと、後々面倒なことになるぜ?」
意味深な物言いにエリーザは一瞬だけ眉を寄せると、ため息をついてから言った。
「わかったわ。5分だけ時間を上げるから、手短に頼むわね」
生意気な態度にビキビキしながらも、ジャックはエリーザをとある場所へと移動を促した。
「ここは・・・」
そこは聖神教会本部の中でも、少し隔離されたところにある建物・・・十三騎将専用の修練場であった。
周囲数十メートルは十三騎将と清掃係以外誰も立ち入ることが出来ず、建物そのものも頑強な作りであるだけでなく、厳重な結界に護られた、まさにあらゆる意味で隔絶された場所だった。
十三騎将レベルの戦士となると、修練は激しいものになる。
だから山一つ吹き飛ばすほどの爆発魔法をもってしても、一切外界へは影響を及ぼさない場所が必要だろうという極端なメリアの主張を取り入れて作られた場所がここだった。
まさに切り離された場所・・・当然会話が外に洩れることもないし、清掃係も頼まないと入ってこない。
十三騎将同士が秘密の話をするには、これ以上ない場所だった。
既に移動時間だけで5分を超えているので、エリーザは口をへの字に曲げ、見るからに不機嫌な様子だが、それでも一応は話を聞くつもりのようで黙っていた。
「・・・」
部屋に入ると、フェルディナントとガルソニックが入り口を塞ぐように立つ。話が終わるまで逃がさないという様子に、エリーザは心底面倒くさそうにため息をつくと、ジャックに向き直った。
(はぁ・・・タフな話し合いになりそうね)
内心うんざりしながらも、それでも話が終わらないことには帰してくれそうもない。
エリーザは覚悟を決めて話合いをすることにした。
「で、話って?」
「聖女フローラ問題から手を引きな」
やっぱりそれか、とエリーザは思った。
聖女フローラの断罪については、迷惑を被る者が教会内でも非常に多いことはわかっていたので、何かしらの妨害がある可能性についてはエリーザも考えていたことだった。
「聖女フローラについては、お偉いさんが決める。聖女のチンケな『罪』のことなんざ一旦仕舞って、お前は他のことやってろってのが偉いさんの意向だ。それさえ聞いてくれるなら、それなりの見返りはあるという話だ」
ジャック達は十三騎将という教会内でも強い立場にあるが、それでも利権の関係から重鎮達の意向に与する者ばかりであり、ジャック達もそうである。
聖女問題をエリーザから引き離すことは、今彼らが何が何でも成しえなければならないことだった。
「断るわ。はい、話合い終わり」
しかし取り付く島もないエリーザに、ジャックが激昂する。
「いいから聖女とシュウとかいうチンケな男のことは忘れろって言ってんだよ!!言うこときかねぇとてめぇの」
感情に任せ、エリーザを恫喝しようとするジャックの言葉は、彼の顔面にめり込む拳によって途中で遮られた。
エリーザが思いっきりグーでぶん殴ったのだ。
「お前如きがシュウ君のことを悪く言うなっ!!シュウ君はチンケなんかじゃないっ!!」
ぶん殴られたジャックも、他の二人も「え?そこで怒るとこそこ??」と唖然とした。