エリーザの豹変にジャック達は茫然としたが、それによりすぐに察した。
「お前の目当ては聖女よりシュウって男か・・・?聖女はどちらかというとオマケ・・・」
「なっ・・・!」
ジャックの言葉に、エリーザは顔を真っ赤にして首をブンブンと横に振る。
「何言ってるのよ!あんなつまらない男、誰が気に掛けるってのよ!あくまで聖女フローラのついでよついで!」
これ以上ないほどのわかりやすさに、ジャック達は「うわぁ・・・」と引き気味である。
いや、ガルソニックだけが「イイ・・・」と小さくぼそっと呟いていた。
「・・・ま、ちっとばかし予想外だったが、それでもたかが男一人のために教会の秩序を乱してもらっても困るんだわ」
気を取り直したジャックがそう言いながら、殴られて切った口元から流れる血を拭いながら微笑を浮かべる。
「教会の秩序を守るためだ。お前にはしばらく『療養』という形で大人しくしてもらうことになるぜ」
ブワッと、ジャックから強烈な殺気がエリーザに向けられる。
いつの間にかジャックの両手にはナイフが握られていた。
「ハンッ、暴力に訴えかけようっていうの?」
先に暴力を振るったのはエリーザだが、そんなこと無かったかのように蔑む視線をジャックに向ける。
殺気をぶつけられてなお、全く怯む様子は見せない。
「やたら目立つお前のことは元々気に入らなかったからな。ちょうど良かったぜ」
ジャックはそう言ってペロリとナイフを舐める。これでも一応は聖職者だ。
「赤は元々私のシンボルカラーだった。それをお前が後からしゃしゃり出て奪っていったのが許せない。せめてお前より目立つためにと兜に角を付けたが焼け石に水・・・お前はとにかく目立ちすぎる。なんだよ『血しぶき大将』って。とにかくこれを機に少し大人しくしてもらおう」
『赤いカリスマ』フェルディナントが淡々と言う。
口調の割には深い深い怒りと悲しみが込められている語りだった。これでも一応は聖職者だ。
「お前が現れるまでは私が十三騎将の序列一位。メリア様の一番弟子だったし、誰よりも目立っていた。しかしお前は私からそんなかけがえの無い日常を奪ったのだ。ここで死すべし。慈悲はない!」
なんてしょうもない日常なのだろうと言いたくなるが、ガルソニックにしてみれば大事なものだったらしい。目立ちたがり屋の彼はエリーザに向けて歪んだ嫉妬心を抱いていた。これでも一応は聖職者だ。
ジャック達は十三騎将の後輩であるエリーザが自分達を差し置いて目立ち、そして有名になるのがとにかく気に入らなかった。
エリーザが目立つたびに彼らも目立つためにあれこれ見た目を派手にしたりと迷走を始めたが、結局エリーザのキャラが濃すぎてそれも失敗。
謎の自動自得だが、鬱憤が溜まっていた彼らは教会重鎮達の意向に沿うという大義名分の元、エリーザに立場というものを分からせてやろうと考えていたのだ。
「これからここで始まることは十三騎将同士の訓練だ。故に怪我もするし、事故も起こりうる」
ガルソニックがそう言うと、フェルディナントと共に一歩下がった。そして代わりにジャックがエリーザに近づく。
ジャックがエリーザを痛めつけるのを二人は黙認し、そして逃げられないように入口を塞いでいる。
これでも一応は聖職者だ。
「てめぇの服を斬り裂いて素っ裸にした後、たっぷりとお前をオカズに見抜きしてやるぜ」
一応聖職者なので謎に最後の一線は越えてないつもりだが、最低極まりないジャックにエリーザは「最低」と口にしながら後方へ素早く跳躍した。
それが戦闘の合図だった。
「かかったな!」
ジャックがほくそ笑む。
『細切れナイフ』それがジャックの異名だ。ジャックは得物がナイフだが、それを両手に持ち、独楽のような高速回転することによって自分に近づいている相手を全方位同時に切り刻むという技を持つ。
その手数は非常に多く、正面から受けるのも不可、回避も不可、一瞬にして細切れにされることからつけられた異名だ。
エリーザもジャックのそんな戦闘スタイルについては知っていた。
だから最初はジャックから距離を取り、攻撃魔法なり投げナイフなり遠距離攻撃で牽制しつつ・・・という戦闘スタイルで始めるのが無難・・・
そう考えるのがセオリーだという、ジャックは罠を仕掛けていた。
「!!」
ジャックは確かにその場で独楽のように高速回転を始めたが、それはナイフによる斬撃のためではない。
恐ろしい速さで、恐ろしい数のナイフを投げるためだった。
ジャックはナイフによる斬撃だけが得意ではない。実は高速で投げ続けるのも隠し技として持っていたのだ。
後方へ跳躍して距離を取ったはずのエリーザに、数十本ものナイフが回避不能の広範囲に渡って飛んでいく。
ジャックは全身に投げナイフをどうやってか隠し持っており、エリーザが近づけないよう絶え間なく投げ続けることが出来るようになっていた。
しかもナイフには毒が塗ってあり、時間の経過とともに体の自由が無くなっていく。
斬撃を警戒して距離を取ったことで、エリーザは完全に勝機を無くしたと、ジャックは確信する。
が・・・
「なっ・・・!?」
後方へ跳躍していたエリーザは、着地するなり猛烈な速度でジャックに向かって正面から突っ込んだ。
むしろ後方への跳躍は、着地した瞬間に床を蹴ってジャックに向かって超スピードで接近するための助走のためのものだったのだとジャックは気付く。
しかし、エリーザの軌道上には既に無数のナイフが飛んでいる。
そのナイフを払いのけたり致命傷を避けようとガードしようとすれば、隙が出来てジャックは投げから斬撃に攻撃を切り替え、エリーザを切り刻むことが出来る。
エリーザが前へ突っ込んだことは予想外だったが、結局は投げナイフでいたぶられようが切り刻まれようがジャックの勝利は揺るぎない・・・そう思われていた。
「勝負あったか」
勝負を見守っていたガルソニックは、その一瞬のやり取りの間に超早口でそう呟いた。
が、次の瞬間・・・誰もが予想しなかった行動にエリーザは出た。
「ファッ!?」
斬撃に攻撃を切り替えようとしていたジャックは、驚愕に目を見開いた。
何とエリーザはナイフを避けるような素振りを一切見せず、正面から受けてみせたのだ。
足、肩、首、頭、エリーザの体に十本近いナイフが刺さるが、彼女は全くジャックから視線を逸らさず、突進の勢いを弱めることはなかった。
その光景に驚愕のあまり気を取られたジャックは、今度は自分がほんの一瞬の隙を作ってしまう。
「みね打ちよッ」
ジャックの脳天にエリーザの剣が食い込んだ。
エリーザが言う通り確かにみね打ちではあるが、あまりの強撃に脳天に食い込んでジャックは目が飛び出、鼻血を吹いて昏倒する。
誰が見ても戦闘不能だった。
エリーザは全身にナイフが刺さって出血しながらも、一撃でジャックに勝利した。
「なんということだ・・・」
まるでサボテンのように全身にナイフが刺さり、真っ赤に血まみれになりながらもジャックに勝利したエリーザを見つめながら、フェルディナントは「彼女こそが真の赤に相応しい人間だ・・・血しぶき大将、ワザマエッ」と自らの敗北を謎に認めたのだった。