下半身丸出し(しかも勃起している)の男と、パンツ一丁の筋肉ダルマが往来で対峙していて、目を引かぬはずもない。
次から次へと人が集まり、シュウ達はすっかりギャラリー達に囲まれることになった。
生き恥も生き恥も言わんばかりのこの状況だが、それでもシュウはそこだけの気にかけていられない状況にあった。何しろ決闘を申し込まれたからである。それも見ず知らずの(変態の)男から。
「決闘?いきなり仕掛けておいて、今更決闘の申し込みですか?」
「それは確かに申し訳なかった」
シュウの最もな言葉に、ジードは素直に謝る。
あまりに素直なのでシュウが怪訝な顔をすると、ジードはキリッと目を細めてジッと何かを見つめだした。
「・・・?」
シュウはジードの視線の先を追う・・・と、どうやら自分の股間の方を見ていることに気付く。
「やっぱりホモの方でしたか」
「違うっ!」
シュウの指摘に、ジードは即座に否定する。
「私はアナタの肉を見ていたのだ」
「(アナタ?)やっぱりホモじゃないですか!」
「違うっ!」
一体何が違うのか。
誰もがそう思っていたが、ジードは頬を紅潮させながら声を震わせて言った。
「アナタの筋肉!素晴らしい・・・まるで研ぎ澄まされた剣のような完成された美!」
ジードはシュウの股間ではなく、足の筋肉に注目し、感動していたのだ。
シュウは武術家であり、肉体も人間凶器と言えるほどに鍛え上げられている。
己が筋肉を鍛えているだけに、ジードはシュウが自分に負けないだけの完成された筋肉を作り上げていることを見抜いたのだ。
「それは・・・どうも・・・」
しかし、男に股間を目を血走らせる勢いでガン見され、褒められた(?)ところで嬉しい者はホモしかいない。そしてシュウはホモではなかった。
「敵ではあるが、尊敬の意を込めて、アナタのことは先輩と呼ばせてもらう」
「えぇ・・・(困惑)」
ジードは本気でシュウに敬意を抱いているが、パンツ一丁で襲撃してくる変態に敬意を抱かれても困惑するばかり。
「そもそもなんで貴方に決闘を申し込まれねばならないのですか!?」
「それはセレスティア・アドネイドの心を貴方から奪い返すためだ!」
「は・・・?」
聞き覚えの無い名を出され、シュウは更に困惑する。
ジードはセレスティアのことを想うあまり、彼女に腕の立つスパイをつけ、その動向について細かくチェックしていた。
その中でセレスティアがシュウに一目惚れをし、帝都で騒動を起こしたことから何から全て知っていたのである。
そしてセレスティアの心を奪ったシュウを敵と認定し、帝都からやくやく追いかけてここまで来たのだった。
「セレスティア・・・あ、あの・・・もしかして、酒場で会った・・・」
シュウは記憶を探り、帝都で会ったセレスティアのことを思い出すに至った。
「そうだ!先輩がかどわかしたセレスティア・アドネイドは、私の想い人なのだっ!!故に、先輩と決闘し、勝つことで彼女の心を先輩から奪い取るっ!!そのために私は帝都から先輩を追ってきたのだ!!」
ビシッと力強くジードに指を差され、シュウは「面倒くさいのに絡まれてしまった」とげんなりした。
かどわかした覚えはないし、それだけの時間など無かったし、何ならそこまで顔も覚えていない。恐らく目の前の男は何か勘違いしているのだろうとシュウは考えた。
よくわからないが、いつの間にか勝手に色恋沙汰に巻き込まれてたことにシュウはすぐにでも逃げ出したくなった。
しかし、ここでふとシュウは疑問を抱く。
下半身丸出しも慣れてくるとどうでも良くなったのか、疑問に気付くだけの余裕が出て来ていた。変態の仲間入りである。
「・・・帝都から追ってきたと言いましたか?良くぞここに私がいるとわかりましたね」
シュウ達は帝都からホワイトキングを駆って全力で逃げていた。
並みの馬では到底追いつけない速度で休みなく走ったのだから、そうそうすぐには見つかるはずがないと思っていた。
「ん?帝都から象のように大きな白い馬の目撃証言を辿り、あとは全力で走っただけのこと。それがどうしたというのだ」
ジードはなんてことないように言う。
ジードの化け物じみた肉体は、ホワイトキングほどではないがかなりの快足を誇り、そしてろくに休養の要らぬ無尽蔵の体力を発揮していた。
シュウ達の大体の情報さえわかれば、追いつこうと思えば追いつける状態だったのだ。とことん人間の域を離れようとしている怪物である。それがどうしたというのだ、どころではない。
「馬の・・・目撃証言・・・?」
しかし、シュウが回答の中で気にかかったのはジードの体力ではなかった。
そう、もっと根本的なところに問題があった。
「そうだとも。象のように大きい白い馬なんて嫌というほど目立つもの、いくらでも目撃証言出てくるぞ。先輩たちの姿はすぐに見失ったが、聞き込みをすればすぐにどこへ行ったか方向がわかったわ」
ジードの言葉に、シュウは唖然とした。
ホワイトキングのようなくっそ目立つ馬に乗っていれば、それがどんな快足であろうと「私はここにいますよ」とアピールしながら逃げているようなものであると。
考えてみれば当たり前であるが、シュウはそれをすっかり失念していた。
今ここでジードをうまくあしらったところで、帝都からの追っ手は遠からず迫るだろうことを考えると、シュウは力が抜けそうになった。