どれだけホワイトキングで距離を稼いでもいずれ捕まる。
そうなるともう逃走手段から考え直さなければならない上に、今いるこの場も安全ではないということになる。
また数日、禁欲を続けて逃げ通さなければならない状態になってしまった。
「・・・どうやら、やるしかないようですね」
シュウの目に、怪しげな光が灯る。
「・・・っ!」
シュウから急に放たれるようになった異様な気配に、流石にジードも反応する。
シュウはこれまで追っ手であるジードを、どうにか適当にあしらうか程度に考えていた。
だが、ジードの発言によっていまだに自分達が追跡者に察知されやすい状況にあるとわかったことで、心に余裕が無くなったのだ。
その結果、極度のストレスの中でシュウの中の人格である『悪魔のシュウ』が目覚め、こう囁くことになった。
「もう殺すしかなくなっちゃったよ」
そう言ったシュウの目が赤く光った瞬間、シュウは一瞬でジードに間合いを詰める。
「ぬうっ!?」
シュウが目の前から消えた・・・そう認識した瞬間には、ジードの顎にシュウの回し蹴りが命中していた。
蹴りをくらったジードはもんどりうって倒れ、地面に突っ伏す。
首の骨を折るつもりで放った、シュウの本気の蹴りだった。かつて性欲を我慢し続けたシュウがライルをドン引きさせた、暴走モードの始まりである。
今すぐにジードを屠り、安全なところまで逃走し、性欲を発散しなければならないのだ。もう敵の命など気にしている余裕などなかった。
そのはずだったのだが・・・
「素晴らしい・・・」
しばし地面に倒れていたジードは、やがてゆっくりと身を起こした。
かつてセレスティアに曲げられた鼻とは別に、今度は顎が変形している。が、ジードは怒るわけでもなく、ただニタニタと笑みを浮かべていた。
「・・・変態・・・?は、今更か」
蹴られておいて笑っている男など変態以外の何物でもない。シュウとしても関わりたくない人種だが、そうも言っていられない。暴走した溢れるエネルギーに身を任せ、再び攻撃しようと構えたシュウだったが・・・
「それだけの細身でありながら、素晴らしいバネを持った蹴りだ。今のは私のこの鋼鉄の肉体にも良く効いた・・・修行時代、山の狂獣とてこれほどの痛みを私に与えた生き物はいなかった」
ニコニコニコニコと満面の笑みで変形した顎をナデナデしているジードを見て、シュウはあまりのキモさと不気味さに「んぁっ!?」と思わず間抜けな声を出してしまい、素に返ってしまった。シュウの暴走モード終了である。
「さぁ、もっと先輩の肉を私に味わわせてくれっ!!」
「い、いやぁぁぁぁぁっ!!」
両手を広げ、シュウの打撃を受けようと迫って来るジードに、本格的に恐怖を覚えたシュウは凄まじいまでの速度で後ずさる。
これまでの冒険でもただの一度も味わったことのない未知なる不気味な恐怖感が彼の体を駆け巡り、全身から蕁麻疹が噴き出していた。
殺さなければ殺される・・・それに近い恐怖を感じ、シュウは後ずさった足を止め、物凄く嫌だけどジードに向き直る。
「さぁ、来い先輩!先輩の全てを受け入れてやろう」
いちいちキモイ言い方をするジードに心底吐き気がしそうになりつつも、シュウは本格的にジードを倒そうと構えを取る。
相手を人間ではなく魔物の一種と認定し、本当に一切の躊躇なく仕留めようと考えていた。というか魔物よりおぞましく滅すべき存在だと認識した。
そしてこんな男に思われているセレスティアという女性は本当に災難だなと同情した。