自分が裸を晒す原因を作っておきながら、裸を見て劣情をもよおすならまだしも、醜いと言って吐き出されるという屈辱的な行為をされ、フローラは怒りのあまり頭が真っ白になり体を隠すことさえ止めてジードを感情のない瞳で見つめだした。
そして当のジードはぜいぜいと息を切らしながら、涙目で言う。
「何という贅肉にまみれた締まりのない体なのだ!見ているだけで悍ましくなる!醜い、なんて醜いのだ・・・先輩の鍛え上げられた筋肉で目の保養が出来たと思っていたのに、なんと酷い・・・う、うぅっ」
ジードで一人で勝手にそんなことを言うと、再び吐き気をもよおしたのかビチャビチャと地面に向けて吐しゃ物をまき散らす。
ジードは筋肉を愛するがあまり、フローラの女性的な体を見るのも受け付けなくなっていた。
フローラの体は決してジードが言うように贅肉まみれではないが、ジード基準では贅肉の塊なのだ。見ているだけでも耐えがたく、拒絶反応を起こしてしまうレベルだ。
こんなんで果たしてどのようにしてセレスティアと添い遂げるつもりなのか。しかしジード本人からすれば真剣そのもの。ふざけてなどいなかった。
これも脳みそまで筋肉で侵された弊害である。
「はぁ・・・いきなり出て来てうるさくしたと思ったら、今度は侮辱ですか。怒りが限界を超え過ぎてもう・・・」
一人地面に吐いているジードを見ながら、フローラは盛大にため息をつき、親指を立てた握りこぶしをゆっくりと上げた。
「もう殺すしかなくなっちゃいましたよ」
フローラが立てた親指をクイッと地面に向けた瞬間、『ゴキャッ』という音を立てながら、ジードの体が地面にめり込みだした。
「なっ・・・!これは・・・」
シュウは見た。
巨大な魔法障壁がジードの頭上に現れたと思ったら、彼を押しつぶすように地面に向けて加速したのを。
「バカな・・・そんなこと・・・」
シュウは展開した魔法障壁を高速で動かすことが出来るなどとは聞いたことが無かった。出来ると考えたこともない。
どうやらフローラはシュウが知らない魔法障壁の使い方を会得したようだった。
「フローラ・・・まさかそんなことまで出来るようになっていたとは・・・」
シュウはフローラが聖魔法を自分が教えた以上のことを編み出して使いだしていることに、思わず感動して目頭を押さえる。
こうしている間にもジードの方からは「メキャッ」「ゴキッ」「バキッ」とグロテスクな音がしているのだが、フルチンであることも忘れてシュウは感動にふけっていた。
グロテスクな音にギャラリー達も思わず「うえぇ・・・」と声を漏らす。流石に誰もがジードは既にぺしゃんこの肉塊になっていると思っていたが・・・
「お、おおおおおっ!こ、この高負荷!今、私の筋肉は猛烈に鍛え上げられているぅぅぅっ!!」
地面にめり込みながら歓喜の声を上げているジードに、今度は別の意味で周囲はドン引きした。
ジードはこの状況の中、筋肉に負荷がかかっていることを心の底から喜んでいた。ズブの筋肉変態である。
「む・・・殺すつもりが喜ばれては意味がありませんね。しかも想像以上にしぶとい」
ジードの声を聞いてフローラは眉を潜めると、僅かな時間考える素振りを見せてから、ニヤリと笑った。
「ふ、フローラ・・・?」
フローラからただならぬ気配を感じたシュウは、思わず引いてしまう。フローラが浮かべた笑みが邪悪なものだったからだ。
「大体どんな人間なのかわかりました。彼が最も恐れることをしてあげようと思います」
「えっ」
フローラは右手で展開した魔法障壁でジードを地面に押し付けたまま、今度は左手を上げて詠唱を開始した。
「なんと・・・二重詠唱とは・・・」
二重詠唱とは、異なる魔法を同時に使用することである。
魔力を多く消費する上に、非常にシビアなコントロールが必要な芸当なので、世界でもこれが出来る人間は限られている。
シュウはコントロールはともかく無駄に消費できるだけの魔力を持っていないので、習得を諦めた技術だった。
「ぬうぅぅぅぅっ!?こ、これは・・・」
ジードは突如、自分の体に怒った異変に気付いて愕然とした。
自分の体の筋肉がしぼみ、ヘロヘロになっていくのを感じたのだ。
「弱体化魔法です。筋肉が好きなようですから、これは堪えるでしょう?」
フローラはゲス顔をしながら、再び魔法障壁でジードを押し潰し始める。
「ぬわぁぁぁぁっ!わ、私の筋肉がっ・・・」
ぷちっ
慌てふためく言葉を最後に、ジードの声は聞こえなくなった。魔法障壁によるプレスを押し返す筋力を失ったジードは、抵抗することも出来ずに潰れてしまったのだ。