「これで終わりましたね・・・」
コントラストのない瞳で、フローラは潰れたと思われるジードのいる辺りを見下ろしながら言った。
(元)聖女だというのに何ら躊躇いを見せず言ってのけるフローラに、シュウは何があっても彼女を怒らせてはいけないと心の誓うのだった。
が・・・
「あ~~^^筋力が落ちて体がとろけそうナリ~ これはこれでギモヂイイィィィ~ 脳が蕩けるニャ~^^」
この期に及んで嬌声のような声を上げるジードに、フローラは「ひっ」と小さく悲鳴を上げてビクッと肩を震わせる。
「なんとしぶとい・・・これは・・・」
ジードの規格外のキモさとタフさを見て、シュウは本能で今後彼があらゆる意味で危険な存在になるだろうことを察した。誰だってきっとそう思うであろう。
出来ればこの場で確実に仕留めねばならない・・・と、シュウはシュウとて元勇者パーティーの神官と思えないような思考をするが、それが実行されることはなかった。
「貴様らーっ何をやっとるかーっ!?」
青筋を浮かび上がらせながら、馬に跨り土煙を上げて憲兵が向かってくるのをシュウは視界に捉えた。今ここにいるのと違い、ギャラリーなんかせずに真面目にシュウ達を取り締まろうと職務を遂行しようとしている憲兵だ。
宿屋を壁をぶち壊し、猥褻物を晒しながら暴れ回るシュウは「これが本当の勃ち回り、なんてね」と言い訳など通用するはずもなくしょっ引かれて当然の立場である。
「そこのフルチン男!貴様には様々な容疑がかかっている!そんな立派でエッチな形をしたイチモツを振り回しながら暴れ回るなど言語道断!貴様はこれから捕え、辱めを与えてから取り調べ、更に念入りに辱めを与えた後に然るべき処分をしてくれるわっ!神妙にお縄に着け!!」
舌なめずりをしてからそう叫ぶ憲兵は、どうやら全裸のフローラのことが何故か()目に入っていない模様。それを見てシュウは「あっ、こいつ捕まったらいけないやつだ」と判断し、全裸のフローラに自分の羽織っている上着を着せてお姫様抱っこすると、一目散にその場を逃げ出した。
「くっ・・・ようやく一息つけると思ったのに!」
シュウは怨嗟の言葉を吐きながら、憲兵を振り切るべく走る。しかし最初に追いかけてきた危ない憲兵の他にも、次から次へと取り囲むように憲兵が現れる。
「いたぞ!」
「取り囲め!」
「へへっ、皆で手籠めにしてやろうぜ!」
「ああいう屈強そうな男を泣かしてやるのがオツなんよなぁ!」
「お前、今度の男は壊すなよ?前のは三日ともたないで壊しちまったんだからよ!」
「ひゃっはーっ!姦せ姦せーーっ!」
あわわわ、アイツらも捕まっちゃいけないやつだ!と、シュウは顔を青ざめさせる。ていうかホモしかいないんかと嘆いていると、フローラが指をパチンと鳴らし
「ホワイトキングーッ!」
と叫んだ。
すると近くにあった池から突如としてホワイトキングが腕組みして直立した状態で水しぶきを上げながら浮上して登場する。普通に来いと言いたかったが、そもそもホワイトキングは象のような大きさという規格外の馬。これはどう来ても普通にはならないので、もうどうでもいいかとシュウは思い直した。
「やれやれ、やっと休めると思ったのにまたこれですか・・・って、服も荷物も宿屋に置きっぱなし!」
金から何からいろいろと旅に必要な荷物は全て宿屋に置いたままであることを思い出して、シュウは冷や汗を垂らす。
満足な旅道具どころか服すら無い状態で逃避行とかきつすぎる。馬も目立てば本人も目立つ。どうにかならんかと思っていると、フローラがいつの間にか荷物が入っているでっかいバッグを持っていた。
「ホワイトキングが気を利かせて荷物を全て持ってきてくれたみたいです」
うそっ、なんて気が利いた馬!とシュウが仰天していると、ホワイトキングは誇らしげに嘶く。この窮地も元はといえばホワイトキングが目立ちすぎた故にジードに追われてしまったところから来ているが、まあとりあえず助けられたかな?とシュウは思った。
「あれ・・・でも、シュウ様の服が見当たりません」
「は?」
フローラがバッグを探しても、シュウの衣類が見つからなかった。バッグの中に着替え(フローラがいつの間にか用意していた)が入れてあったので、バッグそのものが存在する以上は無いなんてことはあり得ない。
「はっ!」
そこでシュウはハッと気づく。
何やらホワイトキングが怪しい目で自分を・・・特に股間の方をじーっと見ていることに。
「まさか・・・」
わざわざ自分の服を取り除いて持ってきた・・・?馬が・・・?
この馬もまさか、自分を狙っている・・・?
ホワイトキングはペロリと舌なめずりをし、頬を赤らめてシュウに熱い視線を送っている。帝都でシュウに助けられたホワイトキングは、すっかりシュウに懐いて・・・いや、それ以上の感情を抱いてしまっていたのだ。
シュウは憲兵からも馬からも狙われているこの状況に、背筋が凍る思いがした。
「シュウ様!憲兵が来ます!」
シュウはこの馬に乗るのが嫌だった。嫌だったが憲兵に捕まって慰み者にされるくらいならまだマシだから泣く泣く乗る。
こうしてシュウは本当にろくなことがない状況になりつつ、再び逃避行を始めることになってしまった。