ホワイトキングに誰一人追いつけることもなく、シュウ達は憲兵を振り切り郊外へ脱出することが出来た。
しかし、シュウ達の間に流れる空気は安堵ではない。せっかく訪れた休息の機会が失われたどころか、快足ホワイトキングを駆使しての逃走は、目立つことにより実質意味が無いとわかってしまったからである。
どれだけ快足だろうと、追跡が容易なほどに目立つというのは逃走手段として致命的だ。もっと早くに気付くべきだったのだろうが、それでも比較的早い段階でこの欠陥を知ることが出来たのは僥倖であった。
「なんてこと・・・まさかホワイトキングにそんな欠点が・・・」
フローラはホワイトキングの顔を撫でながら、悲しそうに言った。
ホワイトキングはフローラにとって馴染みが深く、逃避行にかかせない、これからもずっと共にいる存在だと思っていたのだ。
だが、どうしても目立つ存在であるとわかった以上、逃避行を続けねばならないシュウ達はホワイトキングと一緒に居ることは出来ない。
フローラにしてみれば悲しいが、別れなければならないのだ。
「まぁ、仕方がありませんね」
シュウは渋面しながら言うが、内心は自分を狙っていると思われる馬を遠ざけられることにホッとしていた。いかに便利な馬と言っても、裸になるように工作し、貞操を狙ってくるかもしれない存在とは一緒にいられない。
ちなみに今のところホワイトキングのせいでシュウの服はまだないが、羽織っていた上着を下半身を覆えるようにアレンジしてイチモツだけは隠せるようにしてある。
先ほどからチラチラとホワイトキングがシュウの裸体を拝もうと視線を向けてくるのがわかっていたので、一刻も早くシュウはこの馬と離れたくて仕方が無かった。
「うぅ・・・悲しいですが仕方がないです。これでお別れです・・・」
フローラが目に涙を溜めて別れを悲しみ、ソッとホワイトキングの鼻を撫でる。
ホワイトキングも別れの時を理解しているのか、小さく嘶いてそれに応えた。
フローラは何やらホワイトキングと話して別れの挨拶をしている。ちなみにホワイトキングは少しなら会話が出来るようだ。
とことん規格という規格を外れた馬である。
「ホワイトキングには、まだ私達が乗っていると偽装工作した上で逆方向へ走ってもらいましょう。ホワイトキングに乗っているときの目撃証言で追っ手が迫ってきているのなら、とりあえず今は少しでも私達と距離を取ってもらい、追っ手を攪乱する必要があります」
シュウは逃走のため、そしてホワイトキングと離れるためにそう提案する。
シュウの提案の二つ目の理由を知らぬフローラだが、それに納得してホワイトキングとの別れを了承した。
可哀そうではあるが、このままホワイトキングとシュウが一緒にいればシュウが貞操を散らされてしまい、もっと可哀そうなことになってしまうので仕方が無かった。
追って来る敵が変態でホモ。逃走手段もホモ。これではまともな神経ではもたない。
「シュウ様。これを」
シュウが胸を撫でおろしていると、フローラに何かを手渡された。
「?」
渡されたものを見ると、それは蝋封された手紙だった。貴族などある程度高位の身分にある者達でやり取りされることの多い形式の手紙である。
「ホワイトキングが、シュウ様にと」
「は?」
シュウは唖然としていると、ホワイトキングはチラリとシュウを見た後に走り去っていった。
「本人を前には恥ずかしくて読ませられないと、もう出発してしまいました。意外とピュアなんですよあの子」
フフッと笑うフローラ。
「え?うそ、字が書けるんですかあの馬。しかも蝋封が蹄の痕・・・芸が細かい・・」
シュウはブツブツとツッコミを入れながら、手紙に目を通す。
自分よりうまくて悔しいくらいの達筆で、手紙には恐ろしいことが書いてあった。
『シュウさん、いや・・・兄貴と呼ばせてくれ。突然だが、好きだ。
こんな土壇場で、言い逃げすることしか出来ない臆病な俺を許してくれ。
そして、俺があまりに目立つ馬ですまなかった。俺が目立つから逃走に不向きで、ずっと兄貴達と一緒に居られないことには気づいていたが、それでも少しでも兄貴の傍にいて男臭を嗅ぎたくて黙っていた。許してくれ』
そこまで読んで、シュウはぞぉっと寒気がした。
そんなことを考えながら自分を乗せて走っていたのか。そういえば仮眠する際も、偶然を装って馬が股間を擦り付けて気がする・・・とシュウは超絶今更ながら嫌なことを思い出す。
『しかし、俺と兄貴は馬と人間。いくら想い合っていても一緒になることはできない』
「いつから想い合っていたことになっていたんですかね・・・」
『だから俺は、一度兄貴と離れて旅をし、人間になる方法を探そうと思っている』
「は・・・?」
『聞くところによると、魔物であるスライムから人間になったという事例があると聞く。俺はそれに賭けて人間になり、そしていつか立派な薔薇族となって兄貴の元へ帰って来る。どうかそれまで待っていてほしい』
「はっ!はぁっ、はぁっ、はぁっ」
いつしかシュウは手紙を読んでいくうちに恐怖のあまり過呼吸になり、顔色を悪くさせていた。
こいつはヤバい。どんな追っ手よりもヤバい。
ジードによって休息とエッチを邪魔されてしまったものの、馬を使った逃走の欠点に気付き、離れることが出来たのは何よりの僥倖だったとシュウは思った。
こうしてシュウ達は、快適な足を失った状態で再び逃避行を始めるのだったが、フローラと違いシュウの心は心底晴れ晴れとしていた。