「・・・?貴方は?」
ビキニパンツ一丁、岩か何かのように見間違えるような筋肉の塊。
変態だし、そもそもが人間であるかも疑わしいナリをしているジードに、アリエス達は怪訝な視線を向けた。
「私はジード。ドレーク帝国のスリーロック侯爵家のジードだ」
「侯爵家・・・」
貴族を名乗るジードを見て、ますます嫌疑の視線を強めるアリエス達。100人中100人が今のジードを見て高位貴族だと思うことはないだろう。
「そういう君たちは・・・いや、いい。まぁ、名乗れないだろうからな」
ジードはアリエス達に自己紹介を促そうとしてやめた。どう見ても名乗れる身の上に見えない。
パンツ一丁の変態以上に世間的にやましい立場にいるのが、今のアリエス達なのであり、変態に気遣われたアリエス達は仕方がないとはいえ悔しい気持ちになった。
「それより、君たちもシュウ先輩を探しているのか?」
「シュウ・・・先輩・・・?」
ジードのシュウに対する「先輩」という呼び方に、アリエス達は首を傾げる。
「そうだ。先輩は私にとって筋肉の先輩なのだ」
胸を張って言うジードに、アリエス達は瞬時に察した。
(こいつ、関わってはいけないやつだ)と。
「筋肉の先輩・・・か。うん、まぁ、わからなくもないな」
否、サーラだけが例外で、何やら一人納得して頷いている。サーラはどちらかと言うと脳筋で、シュウの知性よりも鍛え上げられた肉体に魅了された側だった。だからジードには少しだけシンパシーを感じているのだ。
「あっ・・・ふーん」
とりあえずアリエスとレーナはそれを無視した。
付き合っていたら何となくバカが移りそうな気がしたからだ。
ちなみにセレスティアは、あえてジード達とのやり取りに加わらず様子を見ている。あらかじめシュウの身の回りのことについてはこれ以上ないくらい調べていた彼女は、アリエス達の正体に気付いているからだ。
追われる身であるアリエス達は余裕がない。
余裕がないアリエス達を下手に追いつめようものなら、何をしでかすかわからないのは帝都でやらかした一件で理解出来ている。
だから刺激しまいと会話には混じらず、セレスティアは距離を取って様子を伺うことにしたのだ。
ジードにはツッコミたいことが山ほどあるが、それでも必死にその衝動を堪えていた。
そんなセレスティアを他所に、ジードはまた紛らわしいことを言った。
「私と先輩は肉体(を通じて語り合う)関係だ」
と。
「なんとしても再び交わりたいのだ。だから彼の居所を探してい(ry」
「何ですって・・・」
ジードを言葉を、底冷えするようなレーナの声が遮った。
というか、レーナから発せられるあまりの気迫に、思わずジードは押し黙ってしまう。
魔法使いの服装に、包帯巻きという威圧的な姿も相まって、その迫力は凄まじいものだった。
誰もが口を閉ざす中、レーナが再び口を開く。
「一億歩譲って、そこのアバズレ二人がシュウと寝るのは・・・まぁ、いいわ」
レーナはそう言いながら、アリエスとサーラにちらりと一瞬だけ視線を投げる。
アバズレ呼ばわりされているが、レーナのあまりの迫力に「ビクッ」と肩を震わせる。
「けどっ!」
アリエス達からギュンッと音がしそうなほど勢いよく顔を向けると、普段冷静なレーナからは信じられないほどの眼力でジードを睨みつけ、そして叫んだ。
「こんな変態男に私が先を越されるなんて、そんなことあっていいはずがないじゃないのぉーっ!!どうして男にまで負けないといけないのよ!!私が婚約者!正妻ポジションなのにっ!!」
男に先を越されたショックに耐え切れず、レーナは冷静沈着なイメージをぶち壊して激昂した。
ちなみに婚約者(内定)でありながら、ポーズとはいえライルと恋仲を演じていたので、世間ではアバズレはどちらかというとレーナの方である。
「この男を殺すわ!慈悲はない!」
キアラはジードに向けてビシッと指を指し、そう宣言した。
なんでそうなる!?と周囲が言いたげだが、レーナは止まらなかった。
「こいつを殺せば全てなかったことになるわ!親殺しの法則よ!」
冷静さを失った・・・失い過ぎたレーナは、自身が追われる身であることも忘れ、とんでもないことを口走る。言ってることが滅茶苦茶。思考も滅茶苦茶。それだけジードという男に先を越されてシュウとエッチされたことは(事実無根だが)ショックであり、レーナの脳を破壊してしまったのだ。
アリエスとサーラが慌ててレーナを外に連れ出そうかとしたそのとき、ジードがニヤリと笑って言った。
「面白い。魔法使いなどという軟弱な俗物が、我が筋肉に果たして勝てるかどうか試してみると良い」
よくわからぬうちに戦いの火蓋が切って落とされ、ギルド職員達は「あーもう、滅茶苦茶だよ」と嘆いた。