しん・・・
ギルド職員が仲介に入ったことで、サーラの手は止まり、ジードへの攻撃は中断され一瞬の静寂が訪れる。
そう、一瞬だった。
「変態!変態!変態!」
ドカッ ゴンッ グシャッ
再び攻撃を開始するサーラ。
ジードは頭部に打撃を受け、ぱっくり割れて悲惨な図となっている。
「ちょ、おまっ!?やめろって言ってるでしょっ!!?」
「やめてください死んでしまいます!」
「け、憲兵を呼ぶぞっ!?」
ピタッ
職員達による「憲兵を呼ぶ」の一言で、サーラはジードを打ちのめす手を止めた。
「す、すまない、あまりの嫌悪感に手が止まらなかった・・・」
サーラはシュンとして俯き、気まずそうにそう言った。
彼女は生涯シュウ以外の男のイチモツを目にはしないと心に決めていたのだ。それをジードのモノを見させられてしまい、ついカッとなって殺してしまおうと思った。
「気を付けてください。気持ちはわかりますが、ギルド内の争いごとはご法度ですからね」
「今回は忠告にとどめておきますが、次はありませんからね」
職員達はそう言うが、既にジードは痙攣し死にかけていた。
大事件になっているがあたかも大したことのないように振る舞っているのは、彼らもまたジードに対して強烈な嫌悪感を抱いているからだ。
「そんなことより、あなた方にお話しがあります。どうぞこちらへ」
ジードは明らかに重体で「そんなこと」で切って捨てて良い状態ではないが、ギルド職員達はアリエス達とセレスティア達をカウンターのところまで誘導した。
哀れジードは全裸の状態で頭から大量出血したまま、大の字に転がされて放置される。
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「え、私達がシュウを賞金首にかける?」
職員の提案に、アリエスは驚愕して声を上げた。
ちなみにまだレーナは白目を向いて気絶したままなので、サーラが足を持って引きずってきた状態だ。
「そう、皆さんが探していらっしゃるシュウという者は、どうやら同一人物であるようなので、見つけるための効率化について提案をさせていただいております」
先ほどまで自分のところに面倒ごとがやってきたと生気の無い表情を浮かべていた不運なギルドの男性職員は、今はニコニコと笑みを浮かべて手もみしながらそう語る。
どうして職員が態度を豹変させたのか。それは今、職員の頭には「チャンス」の文字があったからだった。
職員が提案したのはこうだった。
アリエス達とセレスティア達はそれぞれにシュウを探しているが、まず両者共同で金を出し合い、高額の賞金をシュウにかけて生け捕りの手配をかけてはどうかというものだった。
賞金が高額であれば冒険者達は意欲的にシュウを探し、捕縛するために必死になる。
数は力。アリエス達がそれぞれに頑張るよりも、ずっと情報も入って来るだろうし効率が良いだろうし、冒険者達にシュウが捕まえられなくても、目撃情報が集まるだけでアリエス達自身に打てる手が増えてくる。
冒険者を動かすだけの金さえあれば、「とりあえずシュウの身柄を押さえる」点に関しては良策であった。
ジード達を担当するはめになったギルド職員は、実は優秀である。
セレスティアはもちろんのこと、アリエス達も風貌は怪しくても、持っている装備品などが高価なものであることに気が付いた。
「チャーンス」
シュウという男に対して見せる執着心を利用すれば、これは大金を出すぞと職員は思った。
アリエス達に大金を出させれば、それがギルドの収益に繋がり、そして職員の評価とボーナスに影響する。
職員はアリエス達を説得しようと積極的に営業をかけていた。
「むぅ・・・」
アリエス達は唸った。
職員に提案されたプランは、確かに魅力的なところがあった。
しかし、素直に頷けない。
何しろこれまで(不思議と)目に入っていなかったが、よく見たら王都で自分達を痛めつけたオーバーキルがいるではないか。
今は何もしてこないが、自分達を理不尽()にも攻撃してきた連中なのでどうせろくな者ではない。果たして協力して良いものなのかと考えた。アリエス達も世間的にはろくなものではないが。
・・・ていうかシュウとの関係は何さ?と、警戒心と敵対心によってアリエス達は口が開けないでいる。
一方で、セレスティアも悩んでいた。
セレスティアの実家は豊富な資金力があるが、それでも彼女自身は今は旅に出ている身。手持ちの金だけでは、冒険者達を積極的にさせるだけの懸賞金を用意できない可能性が高かったのだ。
身なりを見るとアリエス達も金はありそうだが、彼女達と賞金を折半した場合、職員の言うようにシュウを確保した後は取り合いという頂上決戦が待っている。
アリエス達は勇者パーティー『光の戦士達』のメンバー。果たして取り合いになったときに打ち勝つことが出来るのか?それが悩みだった。
帝都ではアリエス達はオーバーキルにコテンパンにやられたが、そのときは完全なる不意打ちによるものだ。相手に用意が出来ている場合、いくらオーバーキルでもアリエス達を倒せるかは疑問だった。
「どうだ?勝てるか?」
セレスティアはオーバーキルのリーダーに耳打ちして訊ねる。
リーダーはセレスティアの言いたいことを即座に理解し、少し考えてから答える。
「手ごわい相手ですが、やるとわかってりゃ今からでも準備のしようはありやす。任せておくんなせぇ」
セレスティアはリーダーの言葉を聞いて、「そうか」と小さく頷いた。
「私は別に構わない」
そしてそう言って、アリエス達との共同戦線に前向きな姿勢を見せた。
ボールはアリエス達に渡ったが、彼女らは渋る。
そこに職員が畳みかけた。
「急がねば、手遅れになるかもしれませんよ。もしかしたらあまりお時間もかけられないのでは?」
「!!」
職員はアリエス達の風貌に、どう考えてもワケアリ者だと思っていた。
恐らくシュウという男を見つけるなら、絶対に時間を極力かけたくないだろうと踏んで煽ったのだ。
そしてセレスティアをチラリと見ながら、アリエスに囁く。
「見るとそちらのお嬢さんは随分と裕福である模様。もしかしたら単独でも十分な懸賞金が用意出来るかもしれませんよ。そうしたらお探ししてる人の身柄は問答無用であちらに渡ってしまいますね・・・」
「うっ・・・」
アリエス達はセレスティアを見る。
どう見てもお嬢様といった外観。オーバーキル達も安くはなさそうなスーツを着ている。アリエス達もそこまで金が無いわけではないが、セレスティアとは明確に資金力に差があるのは明確だった。
「いいんですか?シュウという方があちらの手に渡っても。その人は捕まった後あのお嬢さんの玩具にされ、男達の慰み者になるというわけわからん状態になってしまいますよ?」
「う、ううううぅぅぅぅぅ・・・」
アリエス達は屈強なオーバーキルに目を向け、シュウと絡んでいる姿を想像する。見てみたいような、見たくないような不思議な気持ちになったが、次にシュウがセレスティアと絡む姿を想像すると、それは絶対にダメだという気持ちが高まる。
「よ、よし!乗りましょうその話!シュウ先輩に賞金をかけます!」
バアンと、アリエスはカウンターに金を叩きつけ、それを見て職員はほくそ笑む。
こうしてアリエス達、セレスティアの連合によって多額の懸賞金がシュウにかけられ、彼はまた波乱の道を歩むことになったのであった。
同時期に手配された『フルチン・グラップラー』の存在は(実際同一人物であるにも関わらず)すぐに話題から消え、シュウは数多の冒険者から狙われるようになる。
そしてジードは生死の境を彷徨いながらも放置されていた。