ライル達がギルドに入ると、大きくどよめきが起こった。
(ふぅ、有名人は面倒が多いな。どこへ行っても目立ってしまう)
ライルはふぅ、とあたかも疲れたかのようにわざとらしくため息をつく。
世界最強と呼ばれる冒険者がギルドに来れば、騒ぎになるのは無理もなかった。
が・・・
「あれは、カリスマホモのイ・チンキンさんじゃねぇーか!」
ライル達を見て騒めいていた冒険者の一人が声を上げた。
ずっこけそうになるライルの後ろで、チンキンが「ホッホッホッ」と満面の笑みを浮かべながら片手を上げて答える。
それに続いてまた別の声が上がった。
「あれはサブちゃん!まさかこんなところで会えるなんて!!」
「うぉぉぉっ!?どうしてこんなところに!!」
「きゃああああああっ!こっち向いてーーっ!!」
「抱いてーーっ!」
「抱いてくれぇぇ!(男)」
サブングルが声援に応えるように微笑みを向けると、更にギルド内は大騒ぎとなった。
ギルドの建物全体が振動せんばかりの騒ぎに、ライルは耳をビリビリと裂かれたような痛みを感じて立ち眩みを起こす。
そして・・・
「あれは・・・知る人ぞ知る、超一流有名くノ一チヨメじゃねーか・・・」
「知る人ぞ知るのか有名なのかこれもうわかんねーな」
「隠密を売りにするやつが、顔見ただけで認識されるくらい有名なのってどうなのよ」
なんとチヨメも有名だった。
チンキン、サブングル、チヨメ、誰もが世界のいたるところで顔が知れ渡っていたのだ。
チヨメは隠密を得意とすべき生業でありながら、顔が知れわたっているとはいかがなものかと言えるが。
そして、ライルはと言うと・・・
「ところであの超有名人一行に混じってるあの冴えない男はなんだ?」
「チンキンさんのネコじゃね?」
「確かにホモっぽい顔してるな」
全く誰も顔を知らなかった。
本当なら実績と冒険者であることを加味しても、この場では一番有名であるべきなのに。
「なんでだーっ!?」
有名人である自分が注目されるべきだと思ったライルは、あまりに予想外な出来事に嘆く。
「ホッホッホ。ライル君、それより今日はやるべき用事があるアル」
「ぐっ・・・そうだった・・・」
チンキンに窘められ、ライルは喚きたい衝動をグッと堪える。
今、ライルは皇帝との取り決めで世間で・・・とりわけギルドで問題行動を起こすわけには行かなかった。
どれだけ理不尽だと思うことがあっても、騒いだり悪目立ちするわけにはいかないのである。
(ふんっ、一体なんだと言うのだコイツらは)
ジードはつまらなそうにライル達に視線を向けるのみ。有名人の集まりだが、彼は誰一人知るわけではなかった。
そんな彼の耳に、彼が望んでやまない言葉が入る。
「仲間を募集したい」
ライルがギルド職員を捕まえて、そう言ったのだ。
ライルは仲間を、それも有名人3人も引き連れることが出来ている幸運の持ち主だが、それでも不満があった。
まずチンキン。
道中、ライル達は当然ながら宿を個室で取るのだが、その宿の部屋にほぼ毎回のように男を連れ込むのである。
そしてマッサージと称していかがわしいことをしているようなのだが、知りたくもない仲間のキモい汚い下半身事情を毎度毎度見せつけられて困っている。
次にサブングル。
彼は女にモテる。これ以上ないほどにモテる。だから彼は宿に普通に毎度毎度女を連れ込む。艶めかしい嬌声をドア越しに聞かされ、ライルは悔しくて悔しくて仕方が無かった。
そして同時に襲い来る猛烈な疎外感。
チンキンもサブングルも相手に困っていないのに、ライルにはそれがない。まぁ、今は制約で強制的に相手を作るわけにいかない状況なのだが、それを抜きにしたってライルは特別モテるわけではない。
何気ない仲間のモテ具合が、彼の心を傷つけたのだ。
その悔しさを共有できればとチヨメに愚痴をこぼそうとするも、チヨメはコミュ障。ライルとコミュニケーションを取ろうとしないのだ。
何か話しかけても素っ気ないし、そうかと思えばたまに懐中時計を覗き込みながら、何かをブツブツ言っている。「それって何?」と聞いても答えない。
はっきり言って不気味過ぎる。あまりに不快感なので正直話したくないレベルだった。
そんなライルは、せめて一人でも普通に対等に付き合える仲間が欲しかった。
話が出来て、コンプレックスを刺激されることのない、気の置けない仲間が。それも普通の。
それが今回ライルが急遽出先で冒険者ギルドにやってきた理由なのである。
「ジードさーん!ライルさんがお呼びよーーっ!」
ライルから依頼を聞かされたギルド職員は、間髪置かず嬉々としてジードの名を呼んだ。
仲間募集の依頼を受けながらも、遅々として成果の無かったギルド職員達はずっとジードがここに入り浸っているのが嫌だったのだ。