とある森の奥深く・・・
そこではとあるパーティーがパニックに陥っていた。
「ちょっと!どうしてこんなところにこんな強力な魔物がいるの!?」
「こんなの聞いてないよ・・・」
『エンジェルビーツ』という中二病全開の名を持つ、女性だけで構成されたF級冒険者パーティーは、ギルドから薬草採取の依頼を受け、森に入ったところで魔物の襲撃を受けた。
魔物との遭遇はあり得る話だったので、当然戦いの準備もしてきたのだが、出合った魔物が問題だったのだ。
「グルル・・・クマー」
サンケベツファイヤベアー。
火のような赤毛を生やし、成人男性の三倍以上の大きさを誇り、並の剣では歯が立たぬほど強靭な肉体を持つ熊型の魔物だ。
剛毛に隔てられ、炎をはじめとしたあらゆる属性の攻撃魔法に強い耐性もあり、腕力も非常に強い。一体だけでもB級冒険者パーティーがようやく相手に出来るレベルだが、今回はそのサンケベツファイヤベアーが36匹も出現していた。多すぎってレベルじゃねーぞ、である。
戦力差は超絶歴然。もはや逃げるしかないのだが、サンケベツファイヤベアーの気性はファイヤの名に相応しく火が燃えるように熱くなりやすく極めて荒い、かつ執拗。一度敵と認識した相手には仕留めるまでどこまでもついていく。
逃げ切れるかどうかは、正直なところ極めて絶望的と言う他無かった。
正しく絶体絶命の危機である。
「ど、どうしよう・・・」
「もうだめ・・・」
メンバーも誰もが闘志を失い、絶望した面持ちで膝を折ってペタリと地面に座り込んだ。
そんなときだった。
「僕達が来たからにはもう大丈夫さ!」
バァーーーーン、と効果音が鳴りそうなほどの大声で、男の声が轟いた。
「あ、あれは・・・」
『エンジェルビーツ』の面々が驚愕に目を見開く。
彼女達の目に入ったのは、新『光の戦士達』。勇者ライルがセンターで、それぞれに何故かポーズを取って横並びに立っている。
「勇者パーティー『光の戦士達』!」
ライルが名乗った瞬間、彼らのドカーンと背後が爆発して『エンジェルビーツ』のみならずサンケベツファイヤベアー達もビクッと驚きで体を震わせた。
この見ようによっては馬鹿丸出しの演出は、ライルが考えたものだ。
新生『光の戦士達』はイメージの改革が必須。帝都で積み上げてしまったマイナスイメージを払拭しなければ、『光の戦士達』に未来はないのだ。
ライルは特に女性を助けるような「ここぞ!」というところでカッコよく登場するために、インパクト重視というコンセプトで考えついて打ち合わせをしたものである。確かにインパクトは不必要なまでにあった。
が・・・カッコ良いという印象があるかというと疑問が沸く。それというのも・・・
「えっ・・・なんであの弁髪でだらしねぇエッチな体をした男の人、上半身裸なの・・・?」
「待って。その隣にいる奇形な筋肉ダルマなんて全裸・・・あ、良くみたら穿いてるわ」
異様に目立つチンキンとジードの二人が、思いっきり印象を悪くしているからである。
「ぐっ・・・やはりどれだけキメてもあの二人がいる限り難しいか・・・」
ライルは『エンジェルビーツ』の面々が二人にすっかりドン引きしているのを見て、悔しさに歯ぎしりする。反応を見るまでもなく最初に気付くべきである。
「さぁ、皆いくぞ!」
しかし、登場した以上は魔物を倒さねばならないし、本当にカッコイイところを見せるのはこれからである。
ライルはパーティーメンバー全員に戦いの合図を出した。
「いくぞっ!」
まずは勇者ライル。
「勇者一刀流奥義!『斬、ブレイざーーーん!』」
またも適当に名前を付けた必殺技で、勇んで斬りかかるライル。
「グアアァァァ!クマー」
鋼鉄の剣すら成人男性が本気で斬り込んで数ミリ食い込めるかどうかと言われる固い表皮に、深々と刃を差し入れるライル。
勇者故の才能だけでなく、豊富な戦闘経験と高い技量にかかればサンケベツファイヤベアーもライルの敵ではない。
普通に見ればライルのこの戦いぶりは驚愕に値する・・・はずだった。
「アチョー!私の蹴りを食らってあの世まで飛んで行くネーッ!」
次にチンキン。
実は、意外にもチンキンは非常に高い格闘技術を持っていた。
その技術の高さたるや、ライルから見てシュウと遜色ないほどである。そして脂肪に包まれただらしねぇ肉体をしていると思いきや、脂肪の下にはしっかりとした筋肉がついており、図体に似合わぬ俊敏な移動をして敵を翻弄していた。
「あべしっ!? クマー」
チンキンの蹴りを食らったサンケベツファイヤベアーは、固い体毛で防御されているにも関わらず蹴りのダメージをもろに受け、大きくよろめいている。素手による戦闘方法だが、的確に敵の急所を狙ってダメージを与えているものの、戦いはどうにも地味。
見た目が(悪い意味で)派手な以外は、本当になんとも面白みのない戦いであった。
「私のパンチを受けてみろ!」
次にジード。
彼もチンキンと同じく戦闘スタイルは既による格闘だが、(随分と偏ったパーティーである)その中身はチンキンとは大きく異なる。
技術は決して高くなく、動きも俊敏とは言い難い。
だが
ドカーン
「ウボアーーー クマー」
岩をも粉砕するような重くて豪快なパンチが、サンケベツファイヤベアーの肉体を骨ごと破壊する。まるで巨大なハンマー自身が戦っているかのような全身狂気・・・じゃない、凶器を彷彿させるようなジードの戦いぶりは、「どっちが魔物かこれもうわかんねーな」と見ている者が口にするほど凄まじかった。
とりあえずチンキンもジードも、外見のこともあってその戦闘シーンは見ていてとてもスマートとは言えない。
「・・・」
そして次はチヨメ。
彼女は後方でただジッとチンキンとジードの戦いを見守るのみ。
「いや後方支援してぇ!?」
ライルは何もせず棒立ちになっているチヨメに思わず突っ込む。
忍者だというから期待していたのに、チヨメは何故か動かず何もしない。
「くっ・・・なんでこんなことに・・・これじゃあ近接戦闘が主体の異様に濃くて偏ったパーティーになってしまうじゃないか・・・」
チヨメが役立たずだと知ったライルは、愕然として頭を抱えた。
実はこのパーティーが戦闘するのは、今回が初めてである。チンキンを始めとして新しく『光の戦士達』として入ったメンバーがどう活躍するのか、それを見定めてこれからの戦闘スタイルの方針を考えていこうとしていたのだが、早速大きな課題にぶち当たり絶望する。
「私の歌を聞けーーーッ!」
最後に吟遊詩人のサブングル。
いや、お前が何の役に立つ?下がっていろとライルは思った。
・・・が、このサブングルがあらゆる意味で流れを変えたのだった。