吟遊詩人に何が出来る?歌でも歌って気分を盛り上げるか?
そんな風にライルが呆れる中、サブングルはギターを構えて声を張り上げた。
「サブングルアルバム『破邪戦声』、トラック02 謳歌闘神!」
そう言ってから、どうやってか知らないが、手持ちのギターをギュワァァァァァァァァンと大音量で弾きながら、サブングルは歌いだす。
『潰せ 嬲れ 壊せ 敵など犯せ! killセヨ rapeセヨ!』
それはまるで地獄の底から響いて来るような、不快な音であった。
ジャカジャカギュワーンとギターを激しく弾き鳴らし、聞くに堪えない下品な歌を歌っている。
「ヴォエッ!や、やめんか・・・聞くに堪えん・・・」
ライルはあまりに不快な音に、強烈な吐き気を覚えて動きを止めてしまう。歌を歌って気分を盛り上げるどころか、思いっきり足を引っ張っていた。
「こ、これじゃあ・・・」
戦っていた仲間達は戦えないし、助けていいところを見せてやるはずだった『エンジェルビーツ』の女の子達はドン引きしてしまう。
とんでもねーやつを仲間にしてしまったとライルは後悔していたのだが・・・
「うぉぉぉぉぉぉ!闘志上ってきたぁぁぁぁぁぁ!!」
突然、ジードがポージングしながら叫び出し、ライルはビビッてビクッと体を震わせる。
「ふふっ、私の筋肉・・・右のやつを倒すか、左のやつを倒すか、どっちなんだいっ!?」
ジードはやけにハイテンションで、馬鹿みたいに(というか馬鹿)何か自分の筋肉に問いかける小芝居をする。そして・・・
「んんっ!両方っ!!」
そう小芝居での自問自答に答えるように叫ぶと、両腕を広げ、横に回転しながらサンケベツファイヤベアーの群れに突っ込んでいった。
「ヤアアアアアアアアアアアアーーーーーーッ!!」
奇声を上げながら回転するジード。その腕がサンケベツファイヤベアーに触れた瞬間のことだった。
「がぁっ!?」
ブシュウウウウウウ
超高速回転しながらラリアットを繰り出し突っ込んでくるジードに触れたサンケベツファイヤベアーは、次々に体を爆散させて散っていった。
ジードが通り過ぎた後には、文字通りにビチャビチャと血の雨が降っている。
「は・・・?」
ライルはジードが敵をゴミ屑のように屠っているのを見ながら茫然とした。
突如としてハイテンションになり、奇行に走ったかと思えば、これまでとは比較にならぬほどの怪力で敵を屠っていくジード。
テンションもおかしいが、明らかに戦闘力が向上している。
だが、おかしくなったのはジードだけではなかった。
「ほぁぁぁぁぁぁぁああぁっっっ!?」
次に同じく奇声を上げ出したのはチンキン。
目がグルんと上向きになり、口から涎を出してプルプル震えている。今までは別のベクトルに見た目がヤバい。
「シャオォォォォォォッ」
シュバッとまるで猫のように跳躍すると、チンキンはまたも猫のようにサンケベツファイヤベアーを引っかき始めた。
すると・・・
「がるぇ!?」
「クマァ!?」
スパッと、まるで鋭利な刃物で調理された豆腐のように、サンケベツファイヤベアーはバラバラになった。
「シャオッ シャオッ」
甲高い奇声を上げながら次々へとかぎ爪敵をバラバラにしていくチンキン。
ジードと二人合わせて一方的な殺戮を繰り返し、周囲はアッと言う間に肉塊と血、そして聞くに堪えない下品な歌によって地獄絵図と化していた。
「な・・・なんじゃあこりゃあ・・・」
サブングルが歌い出してから何かが狂った。
チンキン達は頼もしい通りこして怖いレベルで強くなったが、ライルからしてみればはっきり言って全く歓迎できない事態だ。物凄く気持ち悪かった。
チンキン達は調子良くなった(?)みたいだが、ライルは不快な音に吐き気がしてろうに戦えそうにないし、何より折角女の子の前でカッコつけたのに全然印象に残らないではないか。
「だめだだめだ、全然だめだ!」
ライルは女の子の方へ向き直り、どうにかしてチンキン達の暴走を目隠し出来ないかと考えた。
ところが・・・
「SABU様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「URYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッッ!!」
女の子達も発狂し奇声を発しながら、サンケベツファイヤベアーに各々で立ち向かっていた。
そこにいたのはもう庇護対象などではなく、魔物と大差ない何かだった。
「な、なんなんだこれは・・・夢なら覚めてくれぇぇぇぇ・・・」
ライルは目が虚ろになって棒立ちになり、じわっと少しばかり小便を漏らしていた。
新生『光の戦士達』の、悪夢のようなデビュー戦である。