ライルは目を見張った。
これまでだって衝撃の光景を見せつけられてきたと思ったが、更に衝撃的なものが目の内に飛び込むことになった。
それまで震えて絶望していただけだった『エンジェルビーツ』のメンバー達が、果敢にサンケベツファイヤベアーに襲い掛かり始めたのだ。
「キエエエエエエエエエエエエェェェェェッッ!!」
奇声を発しながら女剣士が剣を振るう。
馬鹿な!殺されるぞ!とライルが止めようとするが・・・
ザシュッ
ポーン
女剣士の剣はあっさりとサンケベツファイヤベアーの首を斬り裂き、ポーンと刎ねてみせた。
「えっ・・・?」
ライルは経験を積んだ冒険者だけあって、『エンジェルビーツ』のメンバーの力量は、見ただけで大体わかっていた。
実力的にも得物のレベルで見ても、到底サンケベツファイヤベアーの強固な表皮に傷をつけられるとは思えなかったが、しかしライルの目には次々と「ヒャッハー」と叫びながら首を刎ね続け、スコアを稼ぐ女剣士の姿があった。
「消毒よーーっ!アーッヒャッヒャッヒャッヒャ(゚∀゚)」
魔法使いの女も、強力な火炎魔法でサンケベツファイヤベアーを火祭りに上げている。
火の魔法は効いているらしく、サンケベツファイヤベアーは断末魔を上げながらのたうち回り、あるいは逃げ回りながら死んでいく。それを指さして見ながら魔法使いの女はゲラゲラ笑っている。さっきまで泣きながら震えて動けなかった彼女達からは想像もできない姿だった。
ちなみにメンバーには遊び人の女(パーティーにどのように貢献しているかは不明)がおり、女剣士がサンケベツファイヤベアーの首でジャグリングをしている。
『光の戦士達』も、『エンジェルビーツ』のメンバーも、誰もかれもが圧倒的な戦闘力でサンケベツファイヤベアー達を蹂躙しているのを見て、ライルはこの異常な光景を作り上げているのが、サブングルの歌にあると気が付いた。
(声に魔力を持つ吟遊詩人の詩は、戦意向上だけでなく実際に能力値を上げる力を持つものもあるという・・・もしかしてこれが・・・?)
ライルは、サブングルの歌に意識を再度向けてみた。
「むっ!?」
最初は不快に感じていた歌も、聞いてみると何やら体の奥底から力のようなものがこみ上げてくるのを感じる。そしてその力はついに表に溢れ出る!
口から。
「ゲホッ!ウェッホ!ゲロゲロ・・・ウェェェェ」
力ではなく出て来たのはゲロだった。
力が溢れ出るどころか、ライルはただただ無限に湧き出るような不快感に脱力し、苦しむだけである。
「ぐ、ぐぐぐぐ・・・今すぐ、今すぐ歌をヤメロ・・・」
ライルは震える体を支えながら、どうにかサブングルのところへ行って歌をやめさせようと思った。そのときだ。
「グマーーーッ」
一匹のサンケベツファイヤベアーが、殺戮に興じる他のメンバーをかいくぐってサブングルへ向かって走った。
本能的に今の危機的状況の原因がサブングルにあるのではと察したらしい。
「さ、サブングル!」
ライルはすぐに助けに向かおうとしたが、体が本調子じゃないのと、「あいつが死ねばこの歌も止まるか?」とチラッと考えてしまったのがあって出遅れてしまった。
後衛?である吟遊詩人であるサブングルが、魔物としては超強いサンケベツファイヤベアーの攻撃を防げるはずがない。もうダメだとライルはそう思った。
しかし・・・
「俺様の演奏の邪魔をすんじゃねーっ!貴様
自分に襲い掛かってきたものが現れたと知るやサブングルは豹変し、悪魔のような顔になったかと思うと突如弾いていたギターを逆手に持ち、警告?を発しながら振り回した。
バシュウ
サンケベツファイヤベアーの頭は、サブングルのギターによってまるでスイカのようにあっけなく粉砕した。
「いっ!?どうなってんだよあのギター・・・」
並みの戦士がハンマーで叩いた程度では割れることはないとされている強固なサンケベツファイヤベアーの頭部を割ったサブングルの腕力。そして壊れない・・・ていうかそのまま弾き続けられてる耐久性を持ったギター。
ツッコミどころがたくさんで、茫然としているライルに気が付いたサブングルは今度はそちらに向き直った。
「なんだ今度は貴様が俺の邪魔をするのか!?
ライルに対しても強烈な殺気と威圧をぶつけてくるサブングルに、ライルは「はひっ!?」と反応し、半泣きになりながら首をプルプルと横に振って後ずさるしかなかった。
「どうぞどうぞ!もう好きなだけ演奏してくださいぃぃぃぃぃ」
懇願するライル。もう誰がリーダーなのかわからない有様だった。
「グアッ!? (なんだこいつら!?)」
「クマッタクマッタ・・・ (やべぇよ やべぇよ・・・)」
サンケベツファイヤベアーは自分達が苦境に立たされていることを察し、じりじりと後退。そしてついには背を向けて逃げ出した。
「あっ!あいつら・・・ッ!」
ライルはサンケベツファイヤベアー達が逃げ出しているのを見て、追いかけなければと思った。サンケベツファイヤベアーは、毛皮から肉から骨から何まで余すところなく素材として高く買い取られるし、討伐すれば高い評価を冒険者ギルドから与えられる魔物だ。
まだ数十匹残っているが、全て討伐すれば利益も評価も爆上げである。少しも逃がしたくはなかったライルは、追いかけて殲滅しようとした。
「んがっ・・・!?」
しかし、ライルは戦慄の光景をまざまざと見せつけられたために、腰が抜けて動けない上に漏らしてしまい股間がビッショリで気持ち悪く動きたくなかった。
このままでは逃げられてしまうとライルが焦った時だった。
「・・・ご心配には及びませんぞ・・・」
いつの間にかライルの隣にチヨメが立っていた。
「い、いつの間に!!?」
音もなく隣に立たれ、ライルはまた更にチビった。ていうかいつもボソボソ喋る声がいくらか聞こえてそれにもビビった。
「心配ないって、一体何が・・・」
ライルの疑問に、チヨメは「デュフッ」と変な笑い方をしてから答えた。
「もう終わりました故・・・」
「えっ?」
ライルが頭に疑問符を浮かべたその瞬間だった。
ズシャアアアアア
それまで逃げようとしていたサンケベツファイヤベアーの全てが、突如として一斉に十七分割されてバラバラの肉塊となったのだ。
「ファッ!?」
ライルは顎が外れるかと思うほどに口をあんぐりさせ、目を点にさせる。
それだけ今、自分の目に入ったものが信じられなかった。
「そんな・・・いつの間に・・・」
「・・・最初からですぞ。拙者のカラテにかかれば造作もない故・・・デュフッ」
ライルの呟きに、チヨメはしれっと答える。
最初から?もしかして何もしてないと思って咎めていたあの時既に!?と、ライルは混乱する。
斬られた本人すら気付かないほどのワザマエな斬り方…凄い、凄すぎる!凄いけど・・・
「だったら最初から言ってぇ!?」
ライルは思った。
このパーティーは凄い。強力だ。戦闘力は申し分ない。だけど・・・
「僕がやりたかったのは、こんなパーティーじゃないぃぃぃぃ!!」
自分がちっとも目立てないパーティーなど、ライルはちっとも求めていなかった。
サンケベツファイヤベアーの無残な死骸と、狂ったように笑っている者達に囲まれながら、ライルは一人嘆きの声を上げる。