何はともあれ、サンケベツファイアベアーの掃討を終えた『光の戦士達』。
サンケベツファイアベアーの大群は、一地方を壊滅させかねないレベルの脅威。ライル達は英雄になるはずだったが、事態はライルが思ったのと違う流れになった。
ギルドに戦果報告をし、報奨金の用意のために時間をくれと言われたので宿を取って翌日出直すことにした『光の戦士達』一行。
そんな彼らにある人物が接触し、ライルはその人物と二人きりで会話をすることになったのだが、それが大きく流れを変えることになった。
「勇者ライル様。率直に言って、今『光の戦士達』の心象は最悪です」
苦虫を嚙み潰したような顔をしているライルにそう言うのは、帝国から『光の戦士達』の監視の命を受け派遣された諜報のリムラーという若い男だった。
青白い顔をして眼鏡をかけた貧相な体つきのリムラーは、ライルに対してどこかおっかなびっくりといった態度で接し、ライルは「なんだ?経験の浅い若造か。こんなんで僕を監視しようっての?」と思いっきり見下していたのだが・・・
「し、心象が最悪・・・?何が?『光の戦士達』は大手柄を立てたばかりなんだが?」
リムラーの言葉は、ライルの想像を遥かに越えたものであり、尊大だった態度を一変させた。
(経緯はどうあれ)英雄と崇められて当然と思っていたところに、思っていたのと真逆のことを言われては当然である。
リムラーは眼鏡を指でくいっと直しながら、ため息をついて言った。
「その大手柄ですよ原因は。確かに『光の戦士達』は強力な魔物であるサンケベツファイアベアーを数十匹も討伐した。これは間違いなく偉業です。ですが、やり方が良くない。あまりにも良くない」
「やり方・・・」
考えたくなさ過ぎて、記憶の底に封じ込めようとしていたことがライルの脳裏に蘇る。
それはサンケベツファイアベアーを屠ったイカれた戦闘シーンである。
「あの時の『光の戦士達』の活躍は、実はいくつかの冒険者パーティーが目撃しているのです。ですが彼らは口々に『まるで魔物よりも邪悪な怪物のようであった』と言っているとのこと」
「あ、あれは・・・」
ライルには心当たりがあった。むしろあり過ぎる。
サンケベツファイアベアー戦・・・サブングルが歌を歌い始めたら、それを聞いていた自分以外の人間が魔物のように狂暴になった。
『エンジェルビーツ』の連中を見るに、おそらく本来持っている実力以上の戦闘力が歌によって引き出されているのだが、戦闘力の圧倒的な向上とともに狂暴性までセットでついてきている。
その狂暴性は、見ていたライルですらチビってしまうほどのもの。目撃したという冒険者パーティーが「怪物」と呼ぶのは無理もないと思った。
「た、倒したんだから良いじゃないか・・・」
ライルはもっともな反論をするが、リムラーは渋面しながら首を横に振った。
「普通ならギリギリそれでも良いのですが、『光の戦士達』は勇者パーティー。それも帝都での汚名を晴らさねばならぬ身。誰から見ても尊敬され、イメージを損なわぬよう振舞う必要があるというのが帝国上層部の考えです。今回のサンケベツファイアベアーの戦いっぷりは、正直なところあまりにもその意向に沿っていません」
「いや無茶ぶりぃ!?」
「しかもその場に居合わせた冒険者パーティー『エンジェルビーツ』のメンバーたちの証言がまずい。『光の戦士達』のメンバーの歌を聞いた瞬間に我を忘れてしまったと、気が付いたら両手が血まみれになっていたと。あれは悪魔の歌だと訴えています。自分は汚れてしまったと、精神的にやられてしまい、冒険者を引退すると決めた人たちもいる始末。これが『光の戦士達』の悪評に繋がっています。あれはまさに悪魔のパーティーだと」
「いや待って。彼女達、恩知らずにもほどがなくない?」
命を助けてやったのになんてことだとライルは憤慨するも、リムラーには申し訳なさそうにするだけだった。
「とにかく、もうこんなことのないようにうまくやってください・・・と、上層部による言伝です。これを破るなら処罰もやむを得ないと」
「くっ!・・・だったら、元凶であるサブングルを追放するか・・・」
苦渋の選択・・・の風を装いつつも、ライルは今回の件でサブングルをパーティーから外そうとは考えていた。とりあえず歌が気持ち悪い。しかも自分より遥かにイケメン。不快な存在でしかないと認識した以上、メンバーとして一緒にいることは出来ない。
が・・・
「申し訳ありませんが、それはダメです。一度パーティーメンバーにしてしまった以上、正当な理由がないと追放することはできません。そういう誓約になっていますよね?」
リムラーは申し訳なさそうにしつつも、きっぱりとダメ出しした。
『光の戦士達』の凋落は、ライルの個人的感情によるシュウの追放がきっかけとなっている。故に新『光の戦士達』はよっぽどのことがない限り一度加入を決めたメンバーの追放は出来ないことになっている。
「いや、『人が狂暴になる悪魔の歌を歌うから』っていう、これ以上ないくらいに正当な理由があっても追放できないの?」
「残念ながら・・・」
「残念ながら、じゃないよ!どれだけ無茶ぶりしてくるんだよ!!」
ダンッとライルが怒りに任せて地面を踏むと、リムラーはビクッと肩を震わせる。
ライルの怒りは最もであるが、リムラーは「すみませんすみません」と繰り返すばかりで追放を認める様子はない。
「何かある?」と普段のライルならリムラーの態度から何かを察するかもしれない。だが、この時ばかりは限界を超えた理不尽に思考が正常ではなかった。
どうあってもサブングルを追放できない。彼が歌えばまた仲間達は狂ってしまう。降ってわいた未曾有の苦難に、ライルは発狂しそうになった。
それはそれとして翌日、『光の戦士達』は冒険者ギルドにサンケベツファイアベアー討伐の報奨金を受け取りに行ったのだが・・・
「あの報奨金は『エンジェルビーツ』の心のケアのための補償金にすると、ギルドマスターがしれっと決定しました。決して報奨金が多すぎて中々用意できないから踏み倒したいとかそういうわけじゃありませんよ・・・?」
「ああああああああああああああああああああああっっっ!!」
受付でそのように言われ、ライルは発狂してギルドの壁に大穴を開けたり奇声を暴れまわりと、またもパーティーの評判が下がったのだった。