「さて・・・今日はどういったお話でしょう?」
サブングルが交尾を終えて女が帰り、ライルが落ち着いた頃にようやく話が始まった。
サブングルはバスローブに身をくるみ、ワインを片手に足を組んで話を聞く姿勢を取っている。それがまたライルの神経を刺激するが、とりあえず気を落ち着かせてライルは本題に入った。
「それは聞けない相談です」
歌をやめろ、もしくはもっとまともな歌にしろ、とりあえず仲間達を狂わせるな、お前のおかげでこのパーティーは崩壊の危機だ。そんな至極真っ当で素朴な願いと必死の訴えは、優雅にワインを傾けて微笑を浮かべているサブングルによってあっさりと切り捨てられる。
もうだめだ、殺すしかないのか。ライルがそう思ったとき、サブングルは言った。
「勇者様。まだわかりませんか?」
「は?」
サブングルは微笑を浮かべ、何だか試すような瞳でライルを見つめている。
流石にこれにはライルが激高した。
「十分わかってるよ!サグングルがヤバいやつで、そのくせモテてムカツクってことくらいは!!」
怒るライルに対し、サブングルはあくまで落ち着き払った態度を崩さない。
「勇者様。ならばお聞きしますが、貴方は何故そうまでして私の歌をやめさせたいのです?」
「・・・は?」
サブングルの問いに、ライルは口を半開きにして呆然とした。
何言ってんだこいつ?理由など山のようにある。
ていうかむしろライルは何故そこまでしてお前は歌いたいのだ。僕を不幸にしたいのか?と尋ねたかった。
「勇者としての世間体・・・確かにそれも必要なときもあるでしょう。しかし、私の歌によってパーティーメンバーにどのような変化があったのかを、勇者様は御覧になったでしょう?」
「御覧になったよ。だからこそすぐにでもやめてほしいんだけど」
ライルの脳裏に狂気の殺戮ショーが思い浮かぶ。
あれを見せられて何でやめろと言う方がおかしいみたいな言い方をされるのか、ライルは不思議でしかない。
しかし、サブングルはスッと目を細めると、ライルを見つめて言った。
「やめる必要がありますか?私の歌で強力になった仲間達は、圧倒的な力で敵を倒しているではありませんか。勇者に最も欲されているのは、邪悪なる者を屠るだけの力でしょう?決して品性や見た目ではないはずです」
「今のままじゃ僕たちこそが邪悪なる者ってことになりそうなんだよ!」
「それは我々をそう見てイメージする者がいる、というだけの話であって、真実はそうではありません。気にしないことです。事実我々『光の戦士達』は、多くの冒険者を屠っている強力な魔物の群れをいくつも潰している。『光の戦士達』を恐れている者達がいる一方で、ここ最近は感謝の声も多く上がってきていることはご存じですか?」
「それは・・・」
ライルは言葉に詰まった。
ここ最近の『光の戦士達』は、戦い方こそ狂気じみてて魔物のようであるが、実際には多くの強力な魔物を倒している。
サンケベツファイアベアーもハンマ・オーガも、討伐が極めて困難な上に放置すれば想像することすら難しいほどの被害を出しただろうことは明白だった。それを『光の戦士達』は一瞬で屠っているのである。
戦い方がスマートじゃないというだけで、ライル達が人類の脅威を祓っているのは間違いないのだ。
「けど、勇者パーティーとしてもう少しこう・・・スマートに、イメージよく・・・」
確かな実績を積むこともそうだが、やはりかっこつけたがりのライルはリムラーも言うように勇者のイメージを損なわぬようにしたい。そんな煮え切らないライルを見て、サブングルはフッと鼻で笑った。
「何ですか?そのくだらない拘り」
「く・・・くだらない?」
サブングルの言葉に、ライルは言葉を失う。
「実にくだらない。前から思っていましたが、勇者様は少し外聞を気にしすぎるところがありますね」
お前は気にしなさすぎじゃない?と言い返したいのをライルはグッと堪えた。
「圧倒的な力を振るえるというのに、見た目を気にしてそうしない。素晴らしい力への恐れがある。実にくだらない。真の美しさとは、外見ではない。その中身にあるのです。即ち、見た目だけのお上品な戦いではなく、障害を容易く排除する圧倒的かつ純粋な力こそが、真の美しさといえるものなのです」
「いやぁ・・・それはどうなのかな」
殺戮ショーは果たして美しいのだろうか?どう見てもおぞましいのだが。
ライルがそんなことを考えていると、サブングルはふぅーっとため息をつきながら「これは言うまいと思っていましたが」と、不吉な前置きをしたうえで言った。
「勇者様は必殺剣を使います。先日使ったときは『勇者一刀流・斬・ブレイ斬』でしたっけ?見た目は美しいが、名前はコロコロ変わるし、隙だらけのあの技。ズバッとキレイにキマったように見えたあの剣技でも、相手の魔物は倒れませんでした。恐らくですが、見た目などに拘らず全力で攻撃に集中していれば、両断に出来たと思われます」
「ぐぅ・・・」
ライルは、そのサブングルの言っている時のことを思い出した。剣とは相性が悪いタイプのタフな魔物が相手で、一発でキメられればと思っていたのに仕留めきれなかったのだ。
だが、言い訳をするなら致命傷は間違いなく与えた。ライルの必殺技で勝負は決していたのだ。
「しかし、ジードさんは剛腕ひとつで同種の魔物を肉塊に変えました。・・・結果として、どちらがかっこよく見えたと思いますか?」
ライルが敵に致命傷を与えた直後、その後に同じ種の魔物を、サブングルの歌で狂化・・・じゃなくて強化されたジードは一撃で粉砕した。
そのときに「あれ?ちょっと自分ダサいんじゃね?」とライル自身思ってしまったのは事実だったのだ。
「勇者様。はっきり申し上げて、今の貴方の戦いぶりは実に醜い」
サブングルは見下す視線を向けながらライルに言う。
ライルは茫然として言葉を何一つ返せない。
「見た目に拘り、本質を見誤るなどこの上ない醜態。私の歌は、そんな人間の見栄っ張り部分を排除し、真の闘争心を呼び起こす歌なのです。勇者様が私の歌を受け入れられないのは、そのくだらない見栄っ張りなところが強いからなのでしょう。実にくだらないことです」
やっぱり悪魔の歌だったんだ。
だめだこいつ、早く何とかしないと・・・ライルはサブングルの言葉に耳を傾けてはいけないと思った。
闘争心のままに暴れ回るなんて野獣だ。勇者じゃない。断固拒否すべきだと。
だが、次のサブングルの言葉が彼の心を変えた。
「ちなみにですが、私はもちろんのですが、ジードさんもその戦いぶりから女性を魅了していますよ。先日救出した女性冒険者パーティーのメンバーが、夜にジードさんの部屋を訪れていました」
「は・・・?」