ジードが、このカッコ良くて強く、勇者である自分を差し置いて奇形筋肉ダルマであるジードが女にモテた。
この事実にライルは白目を向き茫然とするしかなく、それを見てサブングルは愉快そうに笑みを深める。
「ご理解いただけましたか?これが現実です。取り繕った中途半端で身の無い美しさよりも、純粋な力こそが人を魅了する。当然のことです」
「純粋な・・・力・・・」
サブングルの言葉はじんわりと、かつナイフのように鋭くライルの心に染み渡っていく。
「闘技場の戦士達は、健闘した者は例えブ男でもモテます。傷だらけになり顔の形がボコボコになっても、勝者でなくても人を魅了することがあります。それは純粋で美しい闘争が、力が人を魅了するものだからです。力を見せ付けた人は美しいものだからです。だから圧倒的で純粋な力を見えたジードさんはモテた。貴方はモテなかった」
「ぐっ・・・」
「はっきり言って勇者様の行動目的の多くを占めているのは、『モテるため』なのでは?なのにこれでは本末転倒ではないですか。カッコつけて中途半端な力を見せ付けることは、この上なく醜く、人を失望させる行為なのです」
ガーーーーンと、ライルは頭を打たれたような衝撃を受ける。
「ちなみに、ジードさんの元に女性が訪れた夜は、私も歌で魅了されてしまった複数の女性に求められて相手をするのが大変でしたよ」
余計なオマケまで言われて、ライルは更に衝撃を受ける。このモテ男ムカツク、と怒りで発狂寸前だった。
「まぁ、その後にすっかり気が高ぶってしまったチンキンさんに襲われて、こちらの相手も大変でしたが」
「あっ・・・ふーん・・・」
聞きたくもない更に余計なオマケを聞き、サブングルへの同情心から少しだけ怒りを鎮めるライル。
「フフッ、魅了する男の定めというやつですね。それよりも・・・」
サブングルはそう言って立ち上がり、対面で床に膝を着いて蹲るライルを見下ろした。
「勇者様。女を魅了したいのであれば、なおのこと力を解放することを良しとし、私の歌を受け入れるのです」
サブングルの言葉は、今のライルにはまるで悪魔のように優しい囁きだった。
「でも、勇者らしいイメージを崩さないような戦い方をしないと、叱られてしまう・・・帝国に処罰されてしまうんだよ・・・!」
ライルはサブングルの危ない言葉に流されないよう、自分に言い聞かせるように必死になって言葉を紡ぐ。イメージを損なう行いは帝国から罰せられてしまう、この事実がサブングルの誘惑を跳ね除ける最後の力になっていた。
例えサブングルの言うように本当に女にモテるようになったとしても、帝国に罰せられては意味がないからだ。場合によっては今度こそ本当に勇者の称号を剥奪されてしまう。
だが、ライルの言葉を聞いたサブングルは、「何をくだらない」と鼻で笑った。
「帝国に勇者様を罰することなど出来ませんよ。『光の戦士達』の実績が本物である以上は。どれだけ帝国の意に沿わぬ戦い方としたとしても、それを問題ともしないほどの圧倒的な戦果があれば良いのです」
サブングルはその端正な顔を、ずいっとライルに寄せる。
男に顔を寄せられたら普段なら嫌がるライルだが、このときばかりはすっかり空気に飲まれて何ら言葉を返すこともなければ、身動きすらも取れなかった。
「『光の戦士達』は確かに私が加入して以来、最初の頃は悪評が目立ったようです。ですが、我々の快進撃が続く中で最近になって流れが変わっているとのこと。結局、どのような悪評が流れようとも、力を持つ有用な者が拒絶されるはずがないのです。帝国とて同じこと。有用であることさえ示し続ければ、文句こそ言われたとしても排除はされますまい」
サブングルの顔は、ついにライルの眼前まで来ていた。そのままキス出来てしまいそうな距離だが、ライルは動けない。
ライルは既にサブングルの言葉に魅了され、まともに思考することが出来ないでいた。
「私の歌に身をゆだねてください。力を存分に振るってください。沸き起こる衝動に抗わないでください。全てうまくいきます。雑音など気にしないことです。そうすれば貴方の求めるものは手にはいる。女なんてほっといても股を開いてきますよ」
サブングルの甘い言葉は、ライルの脳を溶かし、思考能力を極限まで削り落とした。
そして、女が自分に股を開く。ただそのフレーズが彼の脳内を駆け巡り、「彼の言うとおりにしよう」と洗脳が完了する。
今のライルは制約により女とヤったら股間が無くなってしまうとか、サブングルがボソッと漏らした「まぁ時に男も来てしまいますがね」といった小声のこととかは頭から消し飛んでいた。
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数日後、『光の戦士達』は冒険者ギルドのあるクエストをこなしていた。内容はキラータイガー334体の討伐。
キラータイガーは身体能力が高く、性格は極めて獰猛。かぎ爪も噛みつきも生半可な鎧では全く使い物にならぬほど攻撃力が高く、魔力の流れが読めるのか時に魔法すら躱してしまうほど動きも俊敏。
単体だけでもAランクの冒険者も油断ならないレベルの魔物なのだ。
キラータイガーは、本来ライル達が今いる地域よりずっと西方の強力な魔物がひしめき合う地域に出てくる魔物である。
それが突如として百を超える群れとして出現したことで国を揺るがすほどの大騒ぎとなり、一度は国軍と冒険者による混成軍団による討伐が行われたが、結果は大惨敗。
キラータイガーの大量出現という異常事態と緊急性により大きく話題となったこともあり、その群れの討伐というクエストを受けたライル達『光の戦士達』の動向は、非常に高い注目を浴びていた。と、いうかもう世界存亡の危機に近いほどの緊張感に包まれていた。
これには帝国から監視としてやってきているリムラーもライルに「くれぐれもイメージを損なわない品位を保った戦いをしてくださいよ」と事前にきつく言い含めるくらいである。
そんなキラータイガー戦・・・
最初に動いたのは、サブングルであった。
「私の歌を聞けーーッ!!サブングルアルバム『破邪戦声』トラック03、『闘歌・無情』!」
サブングルが叫び、ギターをギュワァァァァァァァァンと弾き鳴らす。この瞬間、遠くから監視していたリムラーは「終わった!」と嘆いた。
「引き裂いた敵が泣き~ 怯える人の前に~ 悪の笑み高らかに~ でもそんなの関係ねぇ~~っっ!!」
頭をブンブン前後に振りながら、例によって聞くに堪えない歌を歌うサブングル。いつもなら最初はライルも奮闘するが、次第に歌を聞いて悶え苦しみ動けなくなり、代わりに極度の興奮状態になったチンキン達が魔物を蹂躙する。今回もそんな光景が繰り返される・・・はずだったが、この日はいつもと少しだけ違った。
「ヒャッハーッ!敵だぁぁぁぁぁ!!」
馬鹿みたいにハイテンションでライルが先陣を切った。
いつもならここで普通に見た目はカッコイイだけの必殺技を放ち、なんとも中途半端な効果だけを見せ付けて、後は強化されたチンキン達による圧倒的な武力で制圧する・・・そんな図になっていたのだが・・・
「キェェェェェェェェェェェェェェェッッッッ!!」
まるでキチ〇イのような叫びを上げながら突進してくるライルに、キラータイガー達は「うわっ、何や何や!?」とビビッていた。
だがそれも一瞬のこと。
ザンッ
ライルの太刀が、一瞬にしてキラータイガーの体を両断にした。
通常のライルの太刀よりも、ずっと速く、そして豪快。
「あぁぁぁぁぁく、そぉぉぉぉぉぉぉく、ざぁぁぁぁぁぁぁぁんッッッッッ!!」
ライルは次々と奇声を上げながら、キラータイガーの死体の山を築く。腕が、首が、脚が、ライルの剣によって次々と宙に浮かび血の雨を降らした。
触れれば即肉塊となるライルの竜巻のような剣技は、まさに戦場を一瞬にして血の海に変えた。
それはただただ純粋かつ圧倒的な力。これまでライルが拘っていた、見かけに重きを置いた剣術とはまるで違う、狂気すら感じる暴力の剣だった。
接敵から一分も経たないうちに、キラータイガーが14匹死んでいる異常な光景を見せ付けられたチンキン達は、歌の効果もあってテンション更にブチ上げモードに入った。
「負けてられないアル!血の雨を降らせてしゃぶりつくしてアルよろし!!」
「フォォォォォォッッ!!私の筋肉の錆にしてくれるわぁぁぁぁぁっっ!!!」
その後、戦場は目を背けるほどのキラータイガーの惨殺ショーとなった。
「これで良し・・・」
そんな光景を見て、一人サブングルは満足そうに微笑を浮かべる。