莫大になったシュウ達の懸賞金を求めて、ここ数日追手は絶え間なくやってきた。
「見つけ・・・ぐあっ!!」
「大人し・・・ちばぁ!」
フローラを抱えたまま逃走するシュウの前に立ちはだかる冒険者達。
彼らはシュウの足技によって一瞬にして昏倒する。
シュウの腕の中にあるフローラは眠ったまま。
この数日、満足に睡眠時間を確保できていないので、ちょっとやそっとでは目が覚めないほどに熟睡していた。
逃走中ではあるが、まだ今回自分達を包囲している相手のレベルが大したことないと判断し、シュウはフローラをギリギリまで寝かせてあげようと思い、あえて起こさずに追手をしのいでいる。
幾多にも及ぶ襲撃を経験するうち、皮肉にも戦闘能力が以前よりも向上したことで、そうする心の余裕も出てくるようになったのだ。
ちなみにこれは慢心とは少し違う。
逃避行を繰り返すうちに追手のレベルを見極める力が付き、最小限の労力でその場をしのごうと自然と身に着いたことだ。
今はフローラを起こさずともどうにか出来ると考え、少しでも彼女の負担を軽減しようとシュウはあくまで自分一人で対処した。
その結果・・・
「ふう、全員・・・倒しましたか」
いまだ眠ったままのフローラを抱えているシュウの周りには、数十人の冒険者が昏倒していた。全てがシュウの足技でぶちのめされた者である。
B級冒険者も複数いたが、逃避行によって鍛え上げられた今のシュウの敵ではなかった。
「・・・勇者パーティーを追い出されて、逃避行を繰り返すうちに強くなるなんて・・・」
あまりの皮肉にシュウはため息をついた。
しかし、いくらシュウが強くなったと言っても、このままではいずれ限界が来る。体力には限界があるのだ。
シュウはチラリとフローラを見る。
( ˘ω˘ )スヤァと眠っているフローラの目元には、僅かながらにくまがあるのが見えた。
起きている時は気丈に振る舞っているが、フローラはシュウほどには過酷な旅を経験したことのない少女。このままでは捕まる前に遠からず過労で死んでしまうかもしれない。
「・・・」
シュウは先ほどまで自分が戦い、気絶させた者達を見下ろした。
(このままただ迫りくる連中を撃退するだけでは駄目だ。逃げ切る前にこちらが潰れるか、捕まってしまう)
疲労のせいか、シュウの中に突如として焦りの感情が生まれる。
そして思考がグルグルと迷走し、視線を彷徨わせるうち、シュウは思い至った。
(こちらも、出来ることをしなくては・・・!)
ただ追手を撃退するのではなく、自分達に賞金をかけた連中をどうにかしようなどと明後日の方向へ思考が向いていた。
彼らは賞金目当てで襲ってきただけの者。彼らを締め上げたところで有用な情報を引き出せる見込みは少ない。
だが、何もしないよりはマシだ。一人を捕まえて尋問し、自分達に賞金をかけた人間のことを吐かせる。
そしてソイツをぶっ殺せば、この逃避行も終わりだ---と。
実際そうそうそんなことにはならないし、余計にこじれて大変なことになりそうなのだが、極度のストレスとフローラへの負い目が唐突にシュウの思考をおかしくさせた。
・・・いや、おかしくさせたのにはもう一つ要因がある。
「・・・かくなる上は、この人を尋問しましょう」
シュウがそう言って視線を落としたのは、肉付きの良い、ドスケベボディのビキニアーマーを着た女戦士だった。
今はシュウの当身を食らって気絶しているが、シュウが葛藤している間、不運にも彼の視界に入ってしまったのだ。
「彼女を私のビッグ棒で尋問し、鳴かせ・・・いえ、吐かせましょう。これも私達の安寧のため。仕方がないことです」
シュウは性欲の溜まりも限界も限界。そんなときにドエロい恰好をした女戦士がたまたま視界に入ってしまい、シュウは一気にプッツンしてしまったのである。
フローラも眠っているし、襲ってきた相手なら大義?もあるし、ナニをしても良いだろうと思っていた。
安眠を妨害した罪は重いのだと。これは敵について聞き出すために仕方がないのだと。慈悲はないのだと。
そしてシュウが女戦士に近付いた、そんなときだった。
「シュウ様・・・」
「!!」
フローラが寝言でシュウの名を呼んだ。
名を呼ばれたことで、ハッとシュウは正気に戻る。
「いかん、自分は何を考えていたんだ・・・!」
ブンブンと首を振り、シュウは邪念を振り払った。
(チラッ)
いや、ちょっとだけ未練がましく女戦士に視線を向けた辺り、ほんのちょっぴりだけ邪念が残っているが。
「すみませんフローラ。私はとんでもない過ちを犯すところでした」
シュウは眠っているフローラに懺悔するようにそう囁く。
フローラは楽しい夢でも見ているのか、口元に笑みを浮かべながら寝言を続けた。邪悪な寝言を。
「ホワイトキング・・・シュウ様をしっかり固定してください。私とホワイトキングでサンドイッチです。二穴刺しにしてシュウ様の菊の花を散らすのです・・・」
「二穴刺しって一体どこに入れるつもりなんですか!?」
フローラの謎の寝言に、シュウはつい大声でツッコミを入れてしまった。
途端にフローラの鼻提灯が割れ、ハッと目を覚ますフローラ。
「はっ!?シュウ様、おはようございますっ!!」
いきなりシュウの目の前で目を覚ましたフローラは、一瞬で覚醒して慌てて前髪やらいじったり口に涎を垂らしてないか確認したり、わたわたと身だしなみを整えている。
変なところを見せられないわとばかりに必死だが、既に十二分に変な寝言を聞かれているので手遅れである。
「えっ・・・と、もしかして、また襲撃を受けてました・・・?」
ここでフローラは、自分達の周囲で数十人もの人間が倒れているのに気が付いた。
「ええ。相も変わらず・・・ですよ」
シュウはうんざりしたようにため息交じりで答える。
「シュウ様・・・申し訳ありません。大変なときに私は寝ていただなんて・・・」
「いえ、休めるときに休んでください。フローラの聖魔法は我々の逃避行の肝です。魔法は十分な休養がなければ効果を発揮しませんから」
「でも・・・」
シュウのフォローを言葉を聞いても、フローラは納得いかぬ様子だ。
やがて倒れている冒険者に目線を落とし、ポツリと言った。
「一人尋問して、私達に賞金をかけた人物を聞き出すというのはどうですか?」
「私と思考が一緒ですね!いや、やめましょう。新たな問題を生むし・・・」
これはいかん、フローラも思考が危なくなっている。
早くなんとかしないと・・・と、考えたその時、シュウは突如自分達に迫る何かの気配を感じた。
「!!あれは・・・」
シュウは気配を感じてハッと空を見た。上空から何か大きな鳥が飛来してきていた。
バサァァァァっと大きく羽ばたき、その大きな鳥はシュウ達の前に降り立つ。
「聖鳥ライデン!」
フローラが目を見張って鳥に向かって叫ぶ。
「えっ・・・?せいちょうらいでん!?」
シュウは目を丸くして、フローラが聖鳥と呼んだそれを見た。
シュウの5倍はあろう大きさを持つ白い体。丸い目。そして『くるっぽー』という鳴き声。
大きい以外は何だか愛らしい姿をしているその鳥?は、シュウ達を見つめてただジッと動かないでいる。
何だコイツ?何の用だ。魔物ではないようだが。
シュウが訝しんでいると、フローラは満面の笑みを浮かべて言った。
「シュウ様!私達助かったかもしれません」