「おおっ!?おおおおおっっ」
追跡者たちがいなくなったところで、シュウ達を背中に乗せた聖鳥ライデンは大空で羽ばたいた。
『光の戦士達』に属して世界の至る所に旅をしたシュウでも、流石に空を移動したことはなく、初めての空の旅に驚愕して声を上げる。
勇者パーティーに属し、いろいろと危険な目に遭って肝が据わっているはずのシュウも、これまでに経験のない高度への飛翔は流石に戸惑った。
「シュウ様。私はライデンに乗せてもらったことが何度もあって慣れています。ですから、しっかり私に捕まっていてくださいね」
フローラに言われ、シュウはライデンの進行方向に向かって前方に座るフローラをギュっと背後から抱きしめる。
情けないと思いつつも、慣れぬ超高度にシュウはビビってしまい、フローラにしがみつかずにはいられなかった。
「ほふぅ・・・」
シュウに強く抱擁され、フローラは思わず甘い声を洩らしながらプルプルと震える。
あぁ、もう我慢できない。安全なところに行ったら、すぐにでもスケベしたい・・・などと、背後にいるシュウからは顔を見られないと思って涎を垂らしながら恍惚の表情でトリップしていた。
「ところでフローラ。こんなことを聞くのも何なんですが・・・」
シュウが小声で耳元で囁くと、フローラは「はひっ!?」と奇声を上げながら現実に帰る。
口から垂らした涎をシュウにバレないように慌てて手で拭い、ゴシゴシとライデンの羽毛で拭き取った。お前なんてことを!?とライデンがショックを受けているが、フローラはなんてことないようにシュウに対して微笑みかける。
「どうしました?シュウ様」
フローラが問うと、シュウは身を屈めて申し訳なさそうに言った。
「こんな事言うのは何なんですが・・・その、この鳥を手配してくれた人物は、信用の置ける方なのでしょうか?罠ということは・・・ないということでしょうか」
シュウの言葉は、命の恩人に対して失礼なものであるかもしれない。
だが、もしこのライデンがシュウの懸念通りの罠であるならば、このまま空中で逃げ場もなく地獄への直行便である。
これまで散々追ってに苦労してきたシュウがフローラの口から安心できることを聞きたくなるのも、無理からぬことであった。
心配そうな表情を浮かべるシュウに、フローラは微笑を浮かべて答えた。
「ご心配には及びませんわシュウ様。このライデンを含めた聖獣は人の心を読めますが、清い心を聖女でなければ言う事に従うことはありません。ですから、私達を罠にかけようというやましい考えを持つ者の言うことをライデンは聞いたりしないのです。裏切りは無いということだけは安心して大丈夫です」
「・・・ふむ」
シュウはフローラの言葉を聞いて、おぼろげながら思い出した。
フローラを含めた聖神教会で認定された聖女には、必ず一体ずつ『聖獣』と呼ばれる存在が付くということを。聖獣は神の使いと呼ばれる神聖な存在であり、その聖獣を従えていることが本物の聖女であるという証明になるのだと。
そんな聖獣が従っているという聖女であるならば、確かに信用しても良いのだろうとシュウはようやく胸を撫でおろした。
「ライデンの主である聖女は私もとても懇意にしていますし、信用しても良いと思います。安心してくださいシュウ様」
フローラがそう言ってニコッと笑う。
それを見てシュウはホッとすると共に、ふと考えた。
(・・・聖女に一体付くというと、フローラの聖獣って・・・ホワイトキングってことだよな?聖獣・・・?ほんとに?・・・性獣じゃなくて?聖女の元を離れて勝手に人間の薔薇族になろうとしているけど、それはいいの・・・?)
安心したのかくっそどうでも疑問が頭を過り、空の移動中、シュウはそんなことでグルグル思考の渦に飲まれていったのであった。
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一方、追手が来るはずもなく、悠々と空を移動するライデンを下から眺めている一団があった。
旧・光の戦士達のメンバーである。
「どうだ?狙えそうか?」
双眼鏡でライデンを見ながら、サーラはそう隣にいるレーナに訊ねる。
レーナは渋面しながら魔力を練っていた。
「速度が出てる上にちょっと距離があり過ぎるわ。ピンポイントで当てるのは難しいわね」
レーナは超距離でも使える攻撃魔法の準備をしていたが、難色を示す。
そんなレーナにアリエスが提案した。
「直撃させずとも、大風に巻き込んで不時着させるというのはどうですか?」
「それなら出来るかもしれないわね。ちょっとやってみようかしら」
レーナはアリエスの提案に頷き、竜巻系の魔法を使おうと考える。
ライデンでの逃亡を察知した彼女らは、シュウの身の危険を顧みずに強制的に地上に下ろそうとしていた。いかん危ない危ない危ない。
「落ちてさえくれば、あとはアタシがやる」
サーラはそう言って剣をペロリと舐める。
目がイッていた。彼女だけでなく、レーナも、アリエスも。
大空から遠方へ逃げられては、また探し出すのに時間がかかってしまう。そんな焦りから正常な思考が出来なくなっていたのだ。シュウが墜落して死ぬかもしれないこともあまり考えていない。
そんな冷静さを欠いた旧・光の戦士達の面々に、近づいてくる一団があった。
「やめときな。ダーリンに怪我があったらどうするのさ」
それはオーバーキルを引き連れたセレスティア達だった。
「下がってな。ここで逃げられたら終わりなんだよ!」
コントラストのない瞳でサーラが剣を構えながら睨み、それに反応するオーバーキル達と一触即発の空気になる。が、そんな中、セレスティアは手でオーバーキル達の制しながら鼻で笑う。
「心配しなくても手は打ってある。むしろここは邪魔しないで欲しいってことだよ」
余裕のあるセレスティアの態度に、サーラ達は呆気に取られる。そうこうしているうちに、シュウ達を乗せたライデンはついに視界から消えてしまった。
「待っててねダーリン。迎えに行くから」
ライデンの消えた方角の眺めながら、セレスティアは不敵な笑みを浮かべたのであった。