シュウ達を乗せたライデンは、二時間弱ほど飛んだ。
山を越え海を越え、ホワイトキングとは比較にならないほどの速度で移動してあっさり国を二つほど通り越し、高い山々に囲まれたある高原でライデンは着地した。
「ここは・・・」
シュウは辺りを見回す。
家屋もほとんど見当たらない、実にのどかなところだった。
かつて『光の戦士達』に所属していた頃にも来たことの無いド田舎である。
「ここがリリカのいるところですか」
シュウと同じように見回していたフローラが、そう呟く。
「リリカ。それがフローラの聖女仲間のお名前ですか」
一応神官であるシュウは、リリカという名の聖女に覚えがあった。
歳はフローラより三つほど上で、フローラほどではないにせよ類まれなる能力を持っているが、俗世間と関わることをあまり良しとせず、自ら望んで人里離れたところで修行をしつつ徳を積んでいるいう聖女だ。
清貧にして高潔、聖女の中の聖女として、聖職者の中でも模範にすべきとして名が通っている人物であるとシュウは記憶していた。
「そうです。彼女が所用で来るたびに帝都で会ったことはあってはいたのですが、私がリリカの住まいに来たのは初めてです」
フローラの言葉を聞いて、シュウはそうだろうなと思った。
何しろこの場所は山に囲まれ物凄くアクセスが悪そうだ。ライデンのように空の移動が出来るならともかく、陸路では何日も時間がかかるだろう。
「ここはリリカにあやかり、『聖地リリカ』と呼ばれているところです。リリカに憧れ、俗世を捨てて心身ともに修養を積みたいという人だけが移り住み、小さな村となっています。誰からの支配も法も及ばない、独立した『聖地』と認定されているんですよ」
「・・・でしょうね」
スーパーがつくほどの辺鄙な土地。
リリカのお陰というより、誰もこの地を収めることに興味が無かったから『聖地』として独立したのだろうとシュウは思った。
しかし、住むには不便な土地であるが、追われる身であるシュウ達には逃避先として丁度良い場所である。俗世と離れ権力の及ばぬ独立した地と言うことは、追手もそうそう来ないということだ。
ようやく本当の意味で一息つける、シュウは心底ホッとしていた。
そのときである。
『くるっぽー』
ライデンが何かに気付いて鳴いた。
シュウ達がそれに反応して目を向けると、白いローブを着た何者かがシュウ達の元へ歩いてくるのが見える。
「あれは・・・」
歩いて来る人物は、歳の頃はフローラと同じか少し年上ほどの、赤く長い髪に切りそろえた前髪が特徴的な美少女だった。
が、少女にはその整った顔立ち以上に目を引くものがあった。
(ウホッ!)
巨乳。
シュウは見た瞬間に声を上げそうになった。
フローラより頭一つ分背が高く、ほっそりした体つき故に胸の大きさが余計に目立つ。
禁欲生活が続いている、今のシュウには目の毒となる刺激的なエロだった。
思わず股間が膨らんでしまうが、気付かれないようにさりげなく衣服を隠すように整える。
「リリカ!」
フローラが声を張り上げて少女の元へ走り寄った。
なるほど、彼女が聖女リリカかとシュウは察する。
シュウは今、自分達の命の恩人に欲情して股間をこっそり勃たせている痴れ者となっていた。
「リリカ、ありがとうございます。今回は本当に助かりました!」
フローラがリリカに礼を言うと、リリカは穏やかに笑みを浮かべてから口を開いた。
「私とフローラの中ではありませんか。どうかお気になさらないで。それよりもお二人の救出が間に合って良かったですわ」
おっとりした話し方でリリカはそう言うと、シュウに目を向ける。
シュウは勃起を悟られないように気を回しつつ、頭を下げてフローラと同じようにリリカへと礼を言った。
「私はシュウと申します。今回はありがとうございました。どれだけ感謝してもしきれません」
心からの感謝の気持ちを、シュウはリリカへ伝えた。
そして頭を上げて、ふとリリカと目が合う。
その時であった。
「ッ!!」
瞬間、シュウの全身に寒気が走った。
ゾワリとした感覚に身の毛がよだち、シュウは思わず目を見張る。
何とも言えぬプレッシャーを、目の前の少女・・・リリカから感じ取ったのだ。
(なんだ!?)
刺すような視線を向けるわけでもない、ただ穏やかに笑みを浮かべているだけのリリカ。それなのに、シュウは彼女を前にして緊張のあまり鳥肌が立っているのを実感する。
恩人である彼女に対して失礼であると知りながらも、シュウはリリカを本能的に警戒していた。
そんなシュウを知ってか知らずか、リリカはニコリと笑って言った。
「お気になさらないでください。私は、人として、友として、至極当然のことをしたに過ぎませんので」
「・・・いえ、ありがとうございます」
馬鹿な。何を自分一人で怖がっているのだと、シュウは自分を猛烈に恥じる。
このところ、シュウは長期に渡る逃亡生活のために、フローラ以外の人間は全て敵だと思わなければならなかった。まだその感覚が抜けきらず、ついリリカに対しても反射的に警戒してしまったのだろうとシュウは自分を納得させる。
「こちらのお方が、フローラの『良い人』ですのね?」
「はい」
リリカの問いに、シュウの腕にしがみつきながらフローラがそう答えると、リリカは微笑を浮かべて「良かったですわね」と頷いた。
ピリッと、またシュウの感覚が何かに反応する。
あぁ、もう、さっきから一体何だと言うのだ・・・とシュウはうんざりする。
別に普通に見ていればリリカに不審な点はない。だが、どうしてもシュウはリリカから何か違和感のようなものが、警戒すべき何かがあるような、そんなものを感じてならなかった。
聖鳥ライデンは裏切りを企むような不浄な心の持ち主には従わないという。だからリリカが裏切るようなこともないはずだ。
しかしそれでも、どうしてもシュウは自分の中に沸いた疑念を払拭することが出来なかった。
この女はヤバい。今すぐ逃げるべきだ。
本能がそう警告するのを、シュウは頭を振って振り払った。ちなみに勃起はしばらく収まらなかった。