~ライル視点~
ライルがサブングルの歌を受け入れて吹っ切れて以降、新生『光の戦士達』は破竹の快進撃を続けていた。
サブングルの言う通り、帝都からのクレームもライル達が活躍しているせいか徐々にトーンダウン。
ライルはようやくこれで本当の意味で再スタートが切れたと思っていた。
が、問題があった。
サブングル、チンキン、ジード、彼らは癖はある・・・というかあり過ぎるが、それでもとりあえずコミュニケーションは良好。
仲間としてやっていくには、コミュニケーションは大事である。
だが、チヨメだけはライルは距離を測りかねていた。
チヨメはあまり話タイプではないので、会話を振ってもほとんど弾まない。声が小さい。たまに不気味な笑い方をするかと思えば、ライルをチラリと見てから懐中時計を見、何かをボソボソと呟いている。
ライルの印象として、チヨメは不気味な女だといった感じだった。
相手を不気味と思ってしまう思考は、コミュニケーションを取ろうとすることから遠ざかってしまう。
これは良くないと思ってはいたが、チヨメは難しいし、見た目も地味で女としてあまり魅力的に思えないし、とりあえずは急いで距離を詰めなくてもいいか・・・
そんな風にライルが考えていたある日のことだった。
「勇者様。チヨメのことですが、彼女に少し注意した方が良いかもしれません」
突然宿屋でサブングルが部屋にやってきたかと思えば、彼はこう切り出した。
「は・・・?何が・・・?」
ガウン姿に石鹸の匂い。
完全に事後という感じでやってきたサブングルに「女日照りの僕に当てつけか?」といら立ちを募らせていたライルは、半ギレでそう返す。
サブングルはライルの態度を気にする様子もなく、優雅に足を組んで椅子に座りながらワイングラスを傾けつつ言った。
「チヨメは普通の女ではありません」
「知ってる」
いろんな意味でチヨメは普通の女じゃない。それはライルだって良くわかっている。
「彼女は有名なくノ一だという話ですが、もしかしたら想像もつかないほどに上位にいるくノ一なのかもしれません。それこそ化け物級の」
「何だって?」
サブングルに言われるまでもなく、確かにチヨメの戦闘力が高いことは知っている。だが、数多の冒険者を見て来たと思われるサブングルにこうまで言わせるとは、戦闘力以外に何かがあるのだろうかとライルは気になった。
「くノ一は他にも会っていますが、彼女はそのどれとも違います。くノ一は精神鍛錬を行っており、鋼のメンタルを持っていると聞いていますが、チヨメのそれは遥か規格外なのです」
「・・・確かに、そんな感じも・・・」
サブングルの歌を聞いてもチヨメは特に狂っている様子はない。
鍛錬によって培われた鋼のメンタルがそうしているとだと思えば、納得といえば納得だ。
サブングルの言葉はそれが根拠か、とライルが思っていると・・・
「普通のくノ一ならば、とっくに私に『抱いてくれ』とせがんできているはず。だが、チヨメにはそれが無い」
「あ?」
サブングルの言う根拠を聞いて、ライルは一気に不機嫌になった。
「私のような超絶イケメンと一緒に旅をし続けて、私の肉棒を欲さないなど普通の女性のメンタルではありません。事実これまで出会ったくノ一はいずれも私に寵愛を求めてきました。それが普通なのです」
「普通じゃないのは君の頭だ」
ライルはサブングルの自意識過剰ぶりにイライラしてきた。
チンキンやジードより若干マシかと思っていた男だが、案外一番あかんやつかもしれないと。
もう話を打ち切ろうか、ライルがそう思い始めた頃だった。
「チヨメは普通じゃない。だからこそ、彼女が絶対にこのパーティーから離れないよう注意するべきです」
「えっ」
サブングルは、急にキリッと真剣な表情になってそう言った。
「私を美貌に股を開かず、歌にも感化されない、こんな鋼のメンタルを持つ女性はそう居るものじゃない。気まぐれで他所のパーティーに移ってしまったものなら、大変な損失となりましょう」
言っていることは最低だが、納得させられるだけの説得力を感じたライル。
正直見た目も中身も全然好みじゃないからイマイチ乗り気ではなかったが、少しチヨメとの距離を詰めてみようかと考えた。
--後日ーー
「チヨメ、いるかい?」
冒険者ギルドのクエストの関係である町の宿に数日滞在することが決まった日、ライルはチヨメと交流を深めようと彼女の部屋を訪れた。
だが、ノックをしても返事は無し。
無視をしているのか、留守にしているのか、それとも返事をしているけどいつものようにボソッとした話し方で聞こえていないのか、ライルはあらゆる可能性を考えたが、なんと引き返さずに普通にドアノブに手をかけた。
「チヨメ、入るよ?」
宿屋の借り部屋とはいえ、女性の部屋に無断で入るライル。彼が顔立ちが良いのに女にモテない理由の一つがここにある。
部屋に入ったライルは、チヨメの姿がないことを確認してため息をつく。
「なんだよ。せっかく僕が会いにきてやったのに」
自然に口から洩れる悪態。女にモテない理由のもう一つ目がここにある。
「ん・・・?」
ライルは宿屋備え付けのテーブルの上に、数冊の本と何枚かの紙が置いてあることに気が付いた。
「いつも身軽に見えるのに、これだけの私物をどうやって携帯してるんだ?ニンジャだからか?」
どれ、一体どんな本なのだろう。ライルは手に取って確認してみた。
『ゲイサイユの薔薇族』
『UREEY!』
『抜け駆け!おホモ塾』
本のタイトルはこの三つ。どれも小説のようだった。
「え・・・何これは・・・」
ライルは困惑して硬直する。
中身を読んだら、なんと濃厚なホモ小説だった。
「ん・・・?」
軽くショックではあったが、そもそも本物のホモがパーティーにいる段階で不必要なほど耐性がついているライル。すぐに気を取り直したが、テーブルの上にあった本以外の物・・・何か書いてある紙を見て再び彼は衝撃を受けた。
「こ、これは・・・!」
紙に書かれていたのは、なんと自分の名・・・ライルやチンキンなど、知った名の登場人物のいる書きかけの小説だったのだ。