シュウはリリカに促され、ライデンの家からリリカの家へと移動した。
前にリリカに見せてしまった醜態を考えれば、シュウにしてみればこれは気まずいというレベルの話ではない。
この後に何を言われるのだろう?断罪されるのだろうか?
まさか「修行に邪魔ですわ♪」と去勢されてしまうのだろうか?
そんな悪い予感ばかりが頭の中で膨れ上がっていく。
だが、逃げたところで逃げ場などない。というか匿われている身なので逃げるわけにもいかない。
「こちらにどうぞ」
リリカに促され、シュウは以前フローラとそうしたように、家の中の客間に通されてテーブルに着かされる。
「少々お待ちください」
リリカがそう言って奥に引っ込み、少しの時間が経過した。
その間の無音の時間が、シュウにとっては長く、そして恐ろしいものに感じてならなかった。
去勢か。去勢されてしまうのか。きっと大バサミを持ってきてやってくるのだ。自分はどうなってしまうのだろう?今度はシュウではなくシュウ子と名乗って生きていくのか・・・と、何故か若干ドキドキしつつもシュウはわけのわからない妄想をし、リリカがどう切り出してくるか待った。
やがてリリカが戻って来ると、シュウは焦りからかつい口を開く。
「あの・・・前のことは・・・」
シュウはとんでもない痴態を見せてしまったことを謝罪しようと口を開くが、さてどう言ったものかと言い淀む。
しかし、リリカはそんな彼の口を止めるように、ある物をスッとテーブルに差し出した。
「これは・・・?」
それは一杯のお茶らしきものが入っているカップだった。
淹れたてなのか湯気が立っていて、リリカが先ほど奥に行ったのはこれを用意するためなのだとシュウは察した。
しかし、この聖地にやってきた初日、お茶は贅沢品であるとリリカは言っていた。実際にその場でもお茶は無かったし、この地で他の人間が飲んでいるのを見たことはない。
贅沢品として禁止されているものをリリカが出してきたことで、シュウはすっかり困惑してしまった。
そんなシュウを見て、リリカは申し訳なさそうな表情を浮かべて言った。
「まずはシュウ様。私、深くお詫び申し上げますわ」
「え?」
リリカは困惑するシュウを前に、頭を深々と下げだした。
一体何のことでお詫びをするというのだろう。むしろ謝罪しなければならないのは自分であるはずだと思っていたシュウは、困惑を深めて言葉を失ってしまう。
そんなシュウを慈しむ目で見つめながら、リリカは口を開いた。
「シュウ様方は追われる身。望まぬ禁欲を強いられた状況であったというのに、聖地のルールだからと、こちらの都合で更なる理不尽な禁欲を強いてしまいました。配慮が足らず申し訳ありません・・・」
そう言って、リリカは再び頭を下げる。
「いや、そんなことは・・・」
そんなことを面と向かって言われては、シュウは更に気まずくなってしまう。
シュウが勃起して壁を突き破らせてしまうという斜め上の痴態を見せてしまったことで、リリカはシュウの禁欲が限界を迎えつつあると察してしまったのだろうと思った。こんなに恥ずかしいことはない。
とはいえ、シュウ達は匿ってもらっている上に、至れり尽くせりの逃亡アシストを受けている最中である。禁欲が辛いのは事実だが、リリカに対して感謝の念や気まずさこそあれど、責めるような気持ちなどあるはずもなかった。
「こちらをお飲みください。性欲を抑制する特殊な成分が入っている茶葉で淹れたお茶です」
リリカにそう言われ、シュウは差し出したお茶に視線を落とした。
「本来はお茶は贅沢品。それに禁欲は己が精神力のみで打ち勝つべきものですが、内密に」
「いやそれは」
「これ以上お辛そうなシュウ様を見ているのは、こちらとしても・・・」
郷に入っては郷に従え、聖地のルールを捻じ曲げてまではと思ったシュウだが、暗に「お前の汚い勃起など見せるんじゃない」と言われた気がして言葉が口から出なかった。確かに普通に考えれば性欲モンスターに何の処置も施さずに放置するのは、うら若き女性にとって恐怖となろう。
「い、いただきますっ!」
無性に気まずくなったシュウは、差し出されたお茶に口をつけることにした。
「これは・・・」
勇者パーティーとして世界中を旅したシュウでも、あまり口にしたことのない独特な風味がした。
「それは『淫魔の淫らな拘束』と呼ばれる、性欲を鎮める効能があるというお茶です」
「何ですかその名前!?」
何だろう、禁欲のための物であるはずなのに、何故か淫靡な響きだとシュウは思った。思わず股間も反応する。
「効果を持続させるために、これから毎日一度こちらまで飲みに来ていただいてよろしいですか?誰にも内緒で」
そう言ってリリカは、何とも寒気がするほどの色気のある微笑をシュウに向けた。
シュウは何だか獲物を狙う猛獣に品定めされているような気がして、思わずゴクリと喉を鳴らし、身震いをさせたのだった。
よく考えたら、どう見ても誰よりも禁欲を楽にする処置を優先させるべきはフローラだったのだが、このときのシュウはそこまで気が回らなかった。
性欲がこれで抑えられるようになるのか、これで安心して寝てられるなと思ったその日の夜のことである。
ここで事件が起きた。シュウが淫夢を見ることになってしまったのだ。