シュウの淫夢に浸る日は、あるとき突然終わりを告げた。
「シュウ様。月の物が来たので・・・じゃなく、なんとなくそんな気がするので言うのですが、今夜の夢は何も出てこないと思います」
「えっ」
日々淫夢?を楽しみにし、生きる希望にしていたシュウは、突然のリリカの言葉に頭を鈍器で打たれたような衝撃を受けた。
思わず手に持っていたティーカップをポロッと手から落としそうになる。煩悩の塊である彼にはそれほどの衝撃だった。
なんで他人の夢のことが分かるんじゃい!と普通なら気になるところだが、あまりの衝撃にシュウはそのことに気が回らない。
シュウはその日、放心した状態でトボトボと自分のテントに戻ることになった。
「今日からどうやって生きていこう・・・(´・ω・`)」
酒、賭け事が禁じられている中で、性欲の発散まで出来なくなるとなっては生きていけない。近いうちにフローラのように情緒不安定になるのだろうか・・・
そんな風にビクビクしながら床についたシュウ。
その夜、シュウに思いがけないことが起こった。
「・・・起きなさい」
寝ているシュウの耳に、女の声が聞こえた。
シュバッ
「やはり今夜も来ましたか!全く脅かさないでくださいよぉ!」
見ないと思っていた淫夢が再びやってきた。
そう思ったシュウは目を爛々とさせ、一瞬にして意識を覚醒させて飛び起きる。
「・・・」
起きろと声はかけたものの、まさか一瞬で飛び起きるとは思わなかったらしく、声をかけた主は茫然としている。
「ほう・・・」
シュウの視界に入ったのは、リリカではなかった。
紫の長い髪に、異様なまでに色気のある整った顔立ちの美人女性。
豊満な胸と尻、くっきりしたくびれという整い過ぎた体つき。
その肉体を強調するように包む、セクシーな穴空きレオタード。
背中に生えた悪魔のような翼。
「って、その痴女のような恰好!翼!貴方はサキュバスですか!?」
サキュバス。
色香で男を惑わす、人間の女の形相をした魔物である。
シュウに問われ、茫然としていたサキュバスは、気を取り直してから口を開いた。
「そうよ。落ち着いて頂戴。別に今は貴女に危害を加えるつもりはないのよ」
サキュバスは、かつて勇者パーティーに属していたシュウにとって敵。これまで何度も戦い、その全てを屠ってきた。
サキュバスもそのことは知っていたので、シュウに敵意は無いことを示すが・・・
「なるほど今日の夢の相手はサキュバスですか。たまには良いですね。さっそくですが胸でシて貰っていいですか?あ、そのレオタードは着たままで。対戦お願いします!」
「ファッ!?」
敵意を向けるどころか、いそいそとズボンを脱いでイチモツを取り出しながらそう迫るシュウに、サキュバスは狼狽して思わず後ずさった。
「寝ぼけたこと言ってるんじゃないわよ。それどころじゃないの!」
パンッ
そう言って、サキュバスはシュウを激しく平手打ちをする。
強烈な一撃にシュウは頬を真っ赤に腫らし、茫然とした。
「どう?目が覚めた?ったく、私が言うのもなんだけどとんだ色ボケだこと」
呆れるサキュバスに対し、シュウはハッとして振り向き、苦笑いを浮かべながら言った。
「なるほど、今夜はこういう趣向ですか。あまり痛すぎるのは好みではないのですが、それでもたまにはいいですね」
「どこまで色ボケてんのよ!?いい加減にしなさい!これは夢じゃないのよ」
いい加減頭に来たサキュバスは、今度はグーでシュウを殴った。
「い、痛い・・・これは・・・夢じゃない!?」
ここに来てようやく夢でなく現実であることを理解したシュウ。
サキュバスはぜえぜえと息をしながら、「人を惑わすサキュバスが人に翻弄されるなんて・・・」と自己嫌悪した。
が、すぐに気を取り直して、余裕めいた態度になって微笑した。サキュバスにはサキュバスのあるべき風格があったりするのだ。
「全く、想像以上のお馬鹿さんだこと。あの方の命令だとはいえ、あなたみたいなのを助けなきゃいけないなんて面倒だわ」
はぁ、とこれみよがしに大きなため息をつくサキュバス。
「あの方とは・・・?助ける?私のことをですか?」
シュウが頭に疑問符を浮かべていると、サキュバスは更に口角を上げてクスリと笑った。
そして、シュウにとって信じられないことを口にしたのである。
「このままではあなたは、冒険者達に捕まることになるわ」
「えっ」
サキュバスの言葉に、シュウは目を見開く。
「あなたたちはここに匿われているわけじゃない。絶対に逃げられない包囲網を敷くための、時間稼ぎをくらっている状態なのよ。まぁ、実際は既に籠の中の鳥状態なのだけど」
「は?」
(時間稼ぎをくらっている?それはつまり、ここにいるように言っているリリカが自分達を罠にかけているということか?)
シュウは顔を青ざめさせ、「そんなバカな」と小さく呟く。
サキュバスは唖然とするシュウの胸倉を掴み、グイグイと力強く引っ張ってテントの外へ連れていく。
茫然自失としているシュウは、サキュバスのなすが儘にされていた。
「いきなり言ってもわからないだろうから、実際に見せてあげるわ」
サキュバスはそう言うと、素早くシュウの背中に回って後ろから抱きしめると、背中の翼を羽ばたかせて空へ舞い上がった。
「うおっ!?」
突如として体が浮き上がる感覚に、シュウは思わず声を洩らす。
「ウフフ・・・空と縁が無い人間には刺激が強いかしら?でも大人しくしててね」
シュウのリアクションを見て、サキュバスは楽しそうに笑いながら言った。
「お、おおおおおおぉぉぉぉ・・・」
ドンドン浮き上がる体。
しかし、シュウの気はそんなところにはいっていなかった。
むにゅ・・・
背中に伝わるサキュバスの豊満な胸による乳圧。これによりシュウのテンションも浮き上がり、股間のテントも浮き上がっていた。
「いや、あなた本当に図太いわ。まぁ、あの方が目をかけるだけの理由がちょっとだけわかるかもね」
そんなシュウを見ながら、サキュバスは呆れながらも何か気になるような発言をするのだが、乳圧を堪能することに集中しているシュウにはそれに気付くことはなかった。
唐突に現れたサキュバスによって、この後に絶望的な気持ちになるものを見せ付けられることになり、浮き上がった股間のテントも萎えて沈みゆくことになるとは、能天気極まるこの時のシュウは思いも寄らなかった。