「むぅ・・・」
テントで目が覚めたシュウは、起きるなり唸った。
「昨晩のあれは・・・現実のことだったのだろうか」
突如として現れた高位サキュバス。
彼女に連れられ、知らされた追跡者の大群の存在。
そして、フローラの親友であるはずの、リリカの裏切り。
どれもにわかには信じがたいことだったが、もし事実であればうまく対応しなくては取り返しのつかないことになる。
「しかしどうすれば・・・」
聖地リリカは高山に囲まれている立地だ。
ここへ続く峠道は大群に埋め尽くされているし、道なき道を進んで逃亡するのは土地勘もないので危険がある。
かといって追跡者の数が数なので、正面から全員を打ち破って逃げるというのもまず不可能。
ライデンに乗って脱出出来れば良いのだが、ライデンはリリカの聖獣。リリカの裏切りが事実であれば、協力してもらうことなど出来るはずもない。
危機が迫っていることを知ることは出来たが、対策らしい対策がそう思いつくはずもなく、「もうこれ詰んでいるのでは?」と諦めムードがシュウの心の中で漂っていた。
「いやいや!」
諦めてはいけない、とシュウは首を横にブンブンと振った。
そうだ、一つ一つ状況をもう一度整理していこう・・・と、シュウは昨晩起きたことを思い返す。
思い返すことで、もしかしたら脱出するためのヒントが思いつくのではないかと考えてのことだ。
(昨日は・・・そう、何故か高位サキュバスが自分の前に現れた。そして彼女に連れられ、空から木陰でホモセックスしている男達がいて・・・あ、いや、これは忘れても良いな。そしてサキュバスの乳圧を感じながら・・・)
と、ここまで思い返したところで・・・
「そういえばあの乳圧といい、流石あの高位サキュバスのエロさは凄かった・・・」
シュウの思考が唐突に逸れた。
「あのドスケベボディに、あつらえたかのようにフィットした妖艶なレオタード・・・こうして思い返してみても・・・ぬぅ、エロい・・・」
高位サキュバスのことを鮮明に思い出すシュウは、気付けば自然とズボンに手をかけていた。
「うーん、雑念が入ってしまいました。まずは抜いておきましょう。逃亡生活になれば、また簡単には抜けなくなりますし」
「呆れた。この局面でなおそんなことしようとするなんて、もはや豪胆なんてものじゃないわ」
「えっ」
また自家発電しようと思っていたシュウの背後から、突如女の声がしてシュウは慌てて振り向いた。
そこにいたのは、昨晩出会ったサキュバスであった。
「ま、それくらい剛の者じゃないと、『あの方』の隣に立つには相応しいとは言えないけどネ」
サキュバスはそう言って、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「あ、あ、あ・・・ま、まさかズリネタ本人がやってくるなんて・・・じゃなかった!まさかまたあなたがやってくるなんて!あくまで手は貸さない、様子を見させてもらうわ~な、空気で去って行ったのに、どうしてまた姿を現したんですか?」
シュウの指摘に、サキュバスははぁ、とため息交じりに答えた。
「言った通り、姿を消して様子を見ていたのよ。けど、まさか寝る前に自慰をして、起きてまた更にヤリだすとは思わなくてつい声をかけてしまったのよ」
「み、見られていたんですか・・・」
昨晩の自慰から実は知られていたとは、シュウは恥ずかしくて堪らない気持ちになった。が、ほんの少しだけ興奮も覚えた。
「それにしても本当にあなたは性獣ね。一昨日まで散々リリカとヤっておいて、さらにすぐにサカって自慰するなんて・・・サキュバス好みよあなた」
ペロリと舌なめずりしながらサキュバスが言うと、シュウは「いやぁ、情欲が強いのが特徴でして・・・」と、まるで褒められているかのように気恥ずかしそうにする。
・・・が、聞き捨てならない言葉に一気に頭が冷静になる。
「は・・・?私がリリカさんと・・・ヤった・・・?なんですかそれ」
夢の中ではヤったけど、現実ではヤってないはずだ。
と、シュウは疑問に思ってそう言った。
「いやいや何言ってるの。ここんとこ毎晩毎晩、テントの中でしこたまヤりまくってたじゃない。巨乳が揺れるのを見上げられるのが好きなので~って、必ず騎乗位をレパートリーに入れて」
「えっ、えっ、えっ・・・!?」
夢の中のことを正確に言い当てられて、シュウは口をパクパクさせる。
それはこれまでシュウが夢だと思っていたリリカとの出来事が、夢ではなく現実であったということを示していた。
「夢じゃ・・・ない?だってあれは・・・リリカさんがくれたお茶の効能によって見た夢で・・・」
リリカの言葉を思い出し、縋るように言うシュウ。
「『淫魔の淫らな拘束』のこと?あれは媚薬、精力剤、睡眠薬、しびれ薬と、いろいろ強力な効果のあるものを混ぜ合わせた性犯罪用に裏社会で流通しているお茶よ」
「なっ・・・」
「普通なら男があれを飲めば、深い眠りについて股間だけがギンギンになるはずなのよ。万が一目が覚めても、体はしびれ薬効果で全く動かず、一方的に逆レイプされるだけ。なのに意識を持つどころか体まで動かして・・・あなた、結構毒に耐性があるようね」
毒に耐性というのは、シュウには心当たりがあった。
勇者パーティーとして旅をしていく中で、シュウは戦いの中であらゆる毒を身に受けてきたが、治療魔法を使ってもないのに自然治癒したことが何度かあった。どうやらそういう体質らしいが、ライルに「ひっ、化け物」ってドン引きされて少し傷ついたのをシュウは思い出して遠い目になる。
が・・・
「い、いやいやいや・・・それじゃ・・・まさか・・・」
遠い目になって感傷に浸っている場合ではない。シュウはあることに気付いてしまったのだから。
「リリカさんを抱いた夢を見た翌日、シーツがやけにぐしゃぐしゃで、テント内が情事の後の臭いで立ち込めていて、股間がやけにスッキリだったのは、まさかあれが現実だったから・・・ということですか!」
「そこまで認識しててどうして気付かなかったのよ・・・」
サキュバスが呆れた・・・否、通り越して哀れみすら含んだ目でシュウを見つめた。
「だって!まさか歳の割にやや使用感のある乳首とアソコをして腰使いも舌使いも上手いという超絶ドエロいのが聖女で、しかも自分に逆夜這いをしてくるなんて、そんな贅沢シチュエーション現実にあるなんて思わないじゃないですか!っていうか、どうしてそんなことになっていたんですか!!」
シュウは涙目で言い訳をする。
そんなシュウにサキュバスは悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。
「それは実際に聖女サマに確認してみたら?もしかしたら修羅場になるかもだけどね。フフッ」
シュウはさぁっと青ざめた。
リリカに問うことは、フローラに彼女と交わったことを知られるかもしれないということ。
(もうどうしてあんなことをしたのかは知らなくていい。とりあえず逃げよう。それだけでいい)
シュウは平穏のために、とりあえず疑問に蓋をすること決めた。
「言っとくけど、このままじゃ本当にあなた終わるわよ。峠道にいた連中の中には、元あなたの仲間である女達も一緒にいるからね。力づくで押し通ろうなんて考えないほうがいいわよ」
「えっ・・・」
『光の戦士達』のメンバー達が敵の中にいると聞き、シュウは背筋に冷たいものが流れた気がした。
もう万が一にも「強行突破」という選択肢を選ぶことは無くなったわけだが、このサキュバスからの情報はまさにシュウを絶望的な気持ちにさせる。
「それじゃ、今度こそ私は姿を消すわ。危なっかしくてつい出てきちゃったけど、これ以上荷担した『試練』にならないからね。これからはもう何があっても出てこないから。がんばってね」
何か気になることを言い、手をひらひらさせてから、サキュバスはボフッとテントを突き破って空高く舞い、姿を消してしまった。
後には茫然とするシュウ。そして穴の開いたテント。
もうテントは使い物にならない。いずれにせよ今夜が来る前に脱出することになるのだろうか、などとシュウはぼんやり考えていたが、ここでハッと正気に戻る。
「そうだ・・・!まずはフローラと合流して相談しないと・・・」
シュウは顔を青ざめさせながら、フラフラとフローラがいるだろうところへ歩いていった。
もう何が何だかわからない。夢なら覚めて欲しいと心から願うが、ふとリリカとの情事のことを思い出し「いや、ああいうエロい夢はまた見たいな。(夢じゃなかったけど)」と考えて少し足取りが軽くなった辺り、どこまでもエロくおめでたいタフな男であった。