シュウはフローラがいるだろうと思われる、女性キャンプ地へ走った。
今の禁欲期間・・・ではなく、修行期間中は男は立ち入ってはいけない場所だが、今はすぐにでもフローラに合流しなければならないのでそれを守ってはいられない。
ちなみに今日は安息日で、誰もが仕事や修行を休む日なので、キャンプ地に行けば必ずフローラに会えるはずだった。
シュウが向かっていると、かつてシュウにライルがモデルになったキャラクターが登場するホモ本を貸してくれた男・・・ヤックと行き会った。
「おお、シュウさん!おはよう」
「お、おはようございます・・・」
挨拶され、シュウはピタッと動きを止める。
シュウはヤックを警戒していた。
何故ならリリカはシュウ達を裏切っている可能性が高いという状況で、ヤック達もその仲間なのではないかと疑念を抱いているからだ。
油断していると、突然襲い掛かって来る可能性だってあるかもしれないので、シュウは思いっきり身構えてしまっていた。
今シュウがいる場所はいわば敵であるリリカの支配する地。今のシュウほどに警戒してしまうのは仕方がないのことである。
「おっ、どうしたんだいシュウさん」
シュウが警戒しているのを感じ取ったのか、ヤックが困惑した様子を見せる。
(しまった、露骨に警戒しすぎたか・・・!)
シュウは、取り繕うことが出来なかった自分を迂闊であると呪った。
ヤックが敵だった場合、今のシュウの態度で自分達が疑われていると察されてしまうと、フローラと合流する前から戦闘状態に突入してしまう可能性がある。だから極力シュウがまだリリカのことに気付いていないと立ち振る舞わなければならなかったのだ。
「お、おいおいどうしたシュウさん。確かに俺はアンタをイイ男だと思って、密かに食えないもんかとケツを狙ってはいたが、今は別にそんなことを考えてなかったんだぜ?俺は無理矢理はしない。そういうのはもう卒業したんだ」
「いや、そんなこと言われたら余計警戒しますよ!?」
ヤックがホモだったことにはホモ本の一件で気付いていたが、まさか自分が狙われていたなどとは知らず背筋に冷たいものが流れたシュウはズザザッと思いっきり後ずさった。
「いやいや勘弁してくれよ。昨日スッキリしたし、別に溜まってもいねえし・・・」
ヤックが焦って滑らした口に、シュウはピンとくる。
「えっ・・・昨日の夜、木陰でホモセックスしていたのってもしかして・・・ヤックさんでしたか?」
サキュバスに連れられて上空から見てしまった男の絡み合いを思い出し、シュウは言った。
途端、ヤックが顔を青ざめさせて狼狽する。
「み、見られていたのか・・・!?た、頼む!このことはナイショにしといてくれ!!禁欲に耐えられずについ・・・っ!修行中にそんなことをしていたと知られれば、リリカ様からお仕置きされちまう!」
平身低頭になりそう言うヤックからは、演技のようなものは感じられない。
ヤックはリリカの裏切りに無関係なのではないかと、シュウは考えた。一緒に仕事をしてきた間柄もあり、少なからず情のあるヤック達と戦うことになる可能性は無さそうだと思い、シュウは安堵した。
そんなことを考えるシュウを他所に、ヤックは一人で言い訳を続けた。
「先の気になるライル君の新刊が、本当なら今頃極秘で手配した商人から手に入る予定だったんだ。それが商人が何故か来なくて、皆もうストレスもアッチの方も溜まるものが溜まってもういっぱいいっぱいで・・・!」
ヤックは涙目になって声を震わせる。
ライル君の新刊・・・シュウがエロ本だと思って貸された本の続編のことかとシュウは気付く。修行期間はこの聖地には商人などはシャットアウトされ、誰一人入って来られないようになっている。その商人を極秘で手配するほど新刊が欲しいとは、どれだけライル本が彼等の心の拠り所になっているのだろうと考えたシュウは、何ともうすら寒い気持ちになった。
(商人が来ない理由は、多分冒険者達が峠道を塞いでいるからだろうなぁ)
シュウを捕えるための冒険者達が商人を交通を妨げ、ヤック達に迷惑をかけている。
その事実が少しだけシュウは申し訳ないなと思った。
「前回のライル君は、酒場で暴れてるところをオンドレ兄弟に拉致されて闘技場に連れていかれて、観客の前であわやまな板ショーになるところで終わってただろ?その先が気になって気になって、ムスコが怒張してどうしようもねえんだよ!」
終わってただろ?と確認されるように聞かれても、シュウは読んでないのでわかるはずもない。確かに意味不明過ぎて先が気になる展開だが、シュウはそこには構ってなどいられない。そろそろ話を切り上げてフローラの元へ行こうとしたところで、ヤックが気になることを口走り始めた。
「いつも水を汲んでる川があるだろ?あそこを丸太で下って、街に出て新刊を買って来る決死隊を組織しようと考えてるんだ。峠を下るよりずっと早く下れるしな!」
グルグル目をしながらヤックが言う。
「いやそれは・・・ていうか決死隊って、そうまでして欲しいですか・・・?」
シュウはヤックの言う川のことを思い浮かべる。
聖地から流れる川は、下界に続いている。確かに川に乗って下れば速いスピードで下山することが出来るだろう。
だが、流れは急で、何か所か断崖絶壁の滝があると聞いていた。そんなところを下れば命がいくつあっても足りないだろう。
だが、それでもそのルートを使って一刻も早くライル本が欲しいのだとヤックは言う。シュウはドン引きだ。
(待てよ・・・?)
シュウは気が付いた。
その川下りルートを利用すれば、どうにか追手の裏をかいて包囲網を突破できるのではないかと。
ホモと聞くに堪えない無駄話を聞いていたら、思わぬ突破口を開けたかもしれない。シュウはパッと目を輝かせた。
「まぁ大変みたいですがなんとか頑張って。そんなに溜まってるならお仲間と発散し合ってはどうですか?それでは失礼!」
シュウは挨拶もそこそこに、急いでフローラの元へ向かったのだった。