シュウは女性達が暮らすエリアへと走った。
普段は男子禁制のエリアであるが、今はそんなことを言っている場合ではない。というかホモばっかりなので、もはや問題は起きず区分けする必要は無い気がするが、それは置いておいてシュウは走った。
(フローラを何と言って説得しようか・・・果たしてついてきてくれるだろうか。スケベしようと言ったら来てくれる・・・か?)
友であるリリカに自分達が嵌められていると言っても困惑させるだけだろう、まずはこの場所を離れるようどうにか説得しないと・・・とシュウは考えを巡らせる。
そして目的地に到達したときだった。
「・・・?」
何か騒がしいなとシュウは思った。この場所で暮らす女性達が、何やら騒然としている。
男である自分が来たことの反応ではない。何かあったのかと気にはなったが、今はそれどころではない。すぐにでもフローラを見つけなければならない--- そう思っていたのだが・・・
「なっ!?」
目当てのフローラは、まさに騒動の中心にいた。
フローラが何やら騒いでいて、それを女性達が取り囲んで宥めていたのだ。
「ギャーッハッハッ!禁欲禁欲ぅ!私の自制心はなまっちろいぞ!ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
フローラはぐるぐる目をして、口から涎を垂らしながら何やら大声で騒いでいる。
「フ、フローラ・・・」
シュウは唖然とした。
狂っている。フローラは狂っていた。
溜まりに溜まった欲求と不満が爆発し、ついに壊れてしまったのだ。
帝都で崇拝された聖女象は、すっかり影も形も無かった。
「どんぐりころころどんぶりこ~~ッ!性欲溜まってさあ大変~~」
訳も分からぬ・・・いや、ある意味状況がよくわかる歌を歌っているフローラを、周囲にいる女性達が困惑しながらも取り押さえている。
「なんてことだ・・・」
フローラに我慢を強いて強いて強い続けた結果がこんなことになってしまった。自分は夢と勘違いしていたとはいえ、すっかりいろいろ楽しんでしまったというのに。
シュウは自己嫌悪で居たたまれなくなった。
「シュウ殿!」
一人の女がシュウのところへ駆け寄ってきた。
それは、フローラに法術の教えを受けている練習生の妙齢の女性であるマールであった。年上でありながら、フローラに謙虚に教えを乞う熱心な修行僧である。敬虔な聖神教会の信徒であり、落ち着いた雰囲気を持つ、この聖地ではリリカの次に慕われている人物である。
「一体何が・・・」
シュウが問うと、マールは躊躇いがちに言った。
「すみません。私が隠し持っていたお酒を、フローラ様が飲んだことによってこうなってしまったのです」
「あなたのせいですか!」
真面目なフリして酒隠し持ってたんかい!とシュウは思ったが、今は細かいところに突っ込んでいる場合ではない。
「本当にごめんなさい・・・フローラ様が虚ろな目で『この世の全てがどうでも良くなってきました』と言っていたので、元気づけようと少しだけ・・・と思ったら、二人でつい盛り上がって勢いに乗って一樽空けてしまったのです。そうしたらこんなことに・・・アハハハハハ」
マールはケラケラと笑いだす。
良く見たら彼女の顔は赤く、そして酒臭い。フローラだけでなく、この戦犯マールも出来上がっているようであった。
「そ、そうですか・・・一樽をどう隠し持っていたのかわかりませんが、それは置いておいてとりあえず状況はわかりました」
状況は理解したが、シュウはマールのことを責める気にはならなかった。
自分が欲を発散している最中も、フローラは二人の未来のためだと禁欲に耐えていたのだ。そして壊れそうになったところを、マールがフォローしようとしてくれてのことである。それを知らず夢の中だからと勘違いしていたとはいえ、腰を振って情欲にふけっていたシュウに責めることなど出来るはずもなかった。
「酒!飲まずにはいられない!」
「ヒャッハー!酒だーーっ!!」
気が付けば、周囲にいた他の女性達もマールが隠し持っていた酒をどうやってか見つけたらしく、大騒ぎになりだした。これにフローラを押さえていた女性達も混乱し、もう収拾がつかない状況だった。
「みんな結構我慢していたんだなぁ・・・」
男陣だけが我慢の限界に来ていたかと思ったが、女性陣でも結構修行中の禁欲が耐えられない者がいたらしい。
シュウは「こんな状況なら自分もあるいは欲に負けてしまったのは仕方がないよね」などと自己弁護をしたりしていた。
「しかし、これはチャンスか」
シュウは思った。
欲も悪くも最初から混乱しているこの状況であれば、男子禁制のこの場でもフローラを連れ出すことが容易であると。
そうとわかれば・・・
「フローラ。ちょっと一緒に来てください」
「ふぇ?」
混乱に乗じて、シュウはフローラをお姫様抱っこして連れ出した。
この状況ならばシュウが宥めるためにフローラと二人きりでいたとしても疑問に思われまいとシュウは思っていたが、その狙いも的中して誰も止めることはなかった。
ていうかほとんどの女性達が酒を飲み始めていた。
「あーもうメチャクチャだよ」
シュウは腕の中のフローラにペシペシと頭や顔を叩かれながら、大騒ぎになっている女性達のキャンプ地から離れたのだった。