「シュウ様。実は私、いくつかシュウ様にまだ話していない隠し玉がいくつかあるんですよー」
フローラは何やら得意そうに笑みを浮かべて言った。
「その一つが、『魔封じ』です。今シュウ様にくらわせてるのがそれです」
「くらわせるって・・・って、魔封じ?まさか・・・」
しれっととんでもないことを言っているが、それはさておき・・・名前的に対象の魔法を封じることは想像できたが、個人が個人に向けて魔法障害に陥らせる能力というものには、魔法について勤勉なシュウでも覚えがなかった。
だが、フローラはそれをやったと言う。
「相手に自分の魔力をあえて『異物』として流し込むことで、その人は魔力の錬成を阻害されて魔法が使えなくなるんですよ~ 小一時間くらいは」
「長い!」
いつの間にかオリジナルで高度のスキルを身に着けていたのねと感慨深い気持ちになると同時に、魔封じのメカニズムには以上に興味が沸いた。が、興奮してはいられない。小一時間シュウが魔法が使えなくなるというのは、今のシュウ達の状況では本当にヤバいからだ。
「今すぐ解除してください!」
「だめです」
「ファッ!?」
解除してくれと懇願したシュウに、間髪置かずに拒否するフローラ。普段のフローラなら絶対あり得ないことだ。やはり酒は恐ろしい。
「解除したくても、私には出来ないので~す!一度相手にそれをかけてしまえば、時間が切れるまで効果は続いてしまいます~ ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
シュウを指さしてケラケラ笑うフローラが、シュウには悪魔に見えた。
「どうしてそんなことを!」
半泣きでシュウはフローラに迫る。
フローラは笑うのをやめ、一転してブスッと据わった目でシュウを睨みながら言った。
「シュウ様は、私の酔いを魔法で覚まそうとしましたよね?そうさせないためです」
「なんでぇ!?」
「今の私は凄く気分が良いのです。これまで抑制されてきたものが開放されたような、最高にハイって気持ちなのです!もう元の私には戻れません~」
「そんな闇堕ちした人みたいな・・・」
これまで散々追われていた中で娯楽らしい娯楽も何も無かったフローラが、お酒を飲んで凄まじいまでの解放感に酔いしれてしまうのは仕方がないとシュウは思う。
が、今だけはそれが最悪な状況を生んでいるから何とかしなくてはならなかった。
「今の私なら~ シュウ様も人前で私のこと抱きかかえてくれて距離感も近いですし、余計に戻りたくなくなりました~」
「ぐ・・・」
どうしてくれようこのモンスター・・・と思ったが、もはや酔いをどうにかするのは諦めて、とりあえずはこの聖地からの脱出を優先しようと思った。
「わかりたくないけどわかりました・・・ただ、一つだけ聞いて欲しいのです」
さてなんと言ったものか・・・とシュウは思った。
フローラの親友であるリリカが、自分達を裏切って嵌めようとしている。だからこの陸の孤島である聖地から今すぐにでも脱出しなければならない・・・こう伝えなければならないのだが、シラフの時でさえ話を信じてくれるかわからないのに、果たして今のフローラが説得できるだろうか、どう言えばわかってくれるか。
シュウは悩んだが、今の自分には猶予がないことを思い出し、思い切って切り出した。
「フローラ。この聖地から今すぐに出ましょう」
「わかりました」
「ええ、いきなり言われて困惑するのはわかります。これから理由を言いますから、どうか落ち着いて聞いて・・・え?」
フローラの意表を突いた即答に、シュウは唖然とする。
「ここを離れるのですね?わかりました。今すぐ出ましょう」
説得には骨が折れるだろう、丁寧に説明をしなければと思って身構えていたシュウは、即座に了承されてむしろひどく困惑した。
え?親友がお膳立てしてくれた隠れ家を離れるって言ってるのに了承するの?良いの?と思わず聞いてしまいそうになる。
「これ以上シュウ様成分を我慢するくらいなら、もうこんなところ離れてしまいマショー!今とっても気分が良くていろいろな心の閊えが無くなった気持ちデース!さっさとここを出てスケベしましょーーーっ!!」
ぐるぐる目でそう言いながら、バシバシとシュウの肩を叩くフローラ。
よくわからないが、皮肉にも泥酔している今のフローラは判断基準がバカになっていて欲望が優先されている。
とはいえ、とりあえず本人が逃走に前向きならばこの流れを生かそうと思った。
「なら話は早い。フローラ、我々はこの川を下り、この聖地を脱出します。今、正面から堂々と私達は出ることが出来ないのです」
シュウは目の前の急流を指差しながら言った。
ゴオオオオオオ・・・
飛び込めば一瞬にして肉塊になってしまいそうな急流。
流石に冒険らしい冒険の経験すら無いフローラにいきなり言っても怖気づいてしまうかと思ったが・・・
「わかりました。それでは行きましょう」
なんとこれも即答。正面から聖地を出られないことについての説明すら聞かない。
急流に怯えることすらなく、むしろ舌なめずりしながら、腕まくりをして意気揚々と大股で急流に近づくフローラ。
「判断力バカになりスギィ!そのままじゃありませんよ!」
シュウはフローラを羽交い絞めして止める。
脱出することそのものは納得してくれたが、この子本当に大丈夫かいなと不安な気持ちが強くなった。
が、とりあえず気を取り直してシュウは説明する。
「いいですかフローラ。これから貴方の協力が必要になります」
シュウのプランは、魔法障壁を自分達を覆う球状に展開。障壁に守られながら、急流を下りきると言う脳筋プランだ。
玉は転がる、流される、跳ねる。中に入っているシュウ達は、しっちゃかめっちゃかにされて目が回り酔いに酔ってゲロはまき散らすわと最悪な状態になるかもしれない。
だが、これならば急流を死ぬことなく下りきることが出来る可能性がある。追いつめれたシュウが、苦肉の策で思いついたプランだった。
「本当ならば私が障壁を作る予定だったのですが、今は魔法が使えない状態ですので、フローラにお願いします」
シュウが頼み込むと、フローラはふふん、と得意げに鼻息を荒くした。
「わかりました~ ぜ~んぶこの頼りになる私にお任せください!」
元はと言えばフローラがシュウに魔封じを使ったからフローラを頼るはめになっているのだが、何故か偉そうだ。
「私は頼りになるんですよ~ 奥の手もいくつかあるし~ どんと大船に乗ったつもりでいてください!アッハハハハハ」
笑いながらフローラが障壁を展開しようと手をかざす・・・その時だった。
「なんにせよ・・・とりあえずこれで逃げられそうか・・・」
「それは困る」
シュウ達が安堵して呟いたとき・・・後方から声がした。
「なっ・・・!」
振り向くと、そこにはリリカとライデンが立っていた。