フローラの障壁が破られて無防備になったシュウ達。
シュウは急いでフローラに再び障壁を張ってもらおうかと考えた。
が・・・
カシィィィーーーン
シュウの目の前で、突如現れたピラミッド状に形成された魔法障壁の中にフローラが閉じ込められてしまった。
「はれ?はれれれれ?」
何が起こったのか理解が出来ないフローラ。
ペシペシと障壁を叩くが、無論びくともしない。
「失礼。悪あがきせず大人しくしてもらうための措置ですわ」
微笑を浮かべるリリカ。どうやらフローラを閉じ込める障壁を張ったのはリリカらしい。
「フローラ!」
シュウは、即座にフローラに張られた障壁に手を這わせる。
フローラやアリエスが使う魔法障壁は並の法術師のレベルを大きく超えるほどに強力で高い精度を誇るものだが、それはシュウに魔法障壁についてのテクニックを教わったからだ。
シュウは少ない魔力で最大の効果を発揮できるよう、聖魔法の練度と知識を極限まで高めていたのだ。
そのシュウにかかれば、ある程度の魔法障壁など構造を解析して分解、無効化が出来る・・・はずだった。
「ぬっ、これは・・・!」
シュウはリリカの展開した魔法障壁の頑強さに舌を巻いた。
複雑な術式で何重にも障壁が編み込んであり、すぐには対処の出来ないようなものだったのだ。
「ウフフフ・・・障壁破りですか?シュウ様にはいくらか心得があるようですけれども、私の障壁はそう簡単には破れませんわ。先ほども言いましたが、私には障壁の才能がありますの。絶対的な魔力ではフローラに叶いませんが、こと障壁に関しては誰にも負けません。私の障壁は他人には破られないし、同時に私に破けない障壁はありません。障壁分野において、私には敵無しなのです」
リリカが得意げに言う。
事実、リリカは聖女の中でも障壁の能力に突出していた。その能力差たるや、天才と称されたフローラの莫大な魔力をもってしても力押しが通じないほどである。
「なんですかこれは~ 邪魔ですねーっ!シュウ様とスケベ出来ないではないですか!」
ペシペシペシッ
張り手を繰り出すフローラだが、障壁は全く破れる様子はない。
「無駄ですわフローラ。大人しくしていてくださ」
「いいから早く出してください!いい加減にしないとぶっ飛ばしちゃいますよ!?」
ガスガス ゲシゲシ ゴンゴンゴン
殴る、蹴る、頭突き、と次第に激しい攻撃を障壁に加えだすフローラ。思い通りにならないストレスと、酒の勢いもあって顔つきも言葉遣いも徐々に狂暴になりつつあったが、それでも障壁は破れない。
「(障壁を)はよ開けんかいゴルァ!開けろやコラァ!!」
ガンガン ドンドン ガジガジ
「え・・・、何、あんな子だったんですの・・・?」
普段と知らぬフローラの様子に、リリカはドン引きしたように後ずさる。
ついには障壁に噛みつきだしているフローラを見て、シュウも少し引いた。
「あんな子と言えば、それはこちらのセリフですよ。まさか聖女たるあなたが、フローラを裏切るだなんて」
シュウはキッとリリカを睨みつける。
事情はわからぬが、リリカは親友であるフローラを裏切ったのだ。
「あれ・・・?」
が、ここでシュウはあることに気付く。
「聖獣であるライデンは、心の清い者にしか従わない・・・なのに、リリカさんは私達を裏切っている。何故・・・?」
シュウはフローラの言葉を思い出していた。
聖獣ライデンは裏切りを働くような者には従わない。故に、リリカは信用できると。だからシュウ達は疑うことなく安心してこの聖地リリカまでやってきたのだ。
しかし、リリカはシュウ達を裏切った。友を裏切る者の心が清いなどと言えるわけがない。
「これは一体・・・」
唐突に沸いた矛盾にシュウが訝しんでいると、リリカが堪え切れないといった風に笑った。
「ふふっ、あははっ、聖獣はそこまで万能で高潔なものではありませんよ?」
「えっ」
聖女であるリリカが、あまりに堂々と自分のパートナーである聖獣ライデンをこき下ろす発言をしている。にも拘わらず、ライデンは反応を見せなかった。神の鳥と呼ばれるほど高潔な生き物であるはずなのに何故?とシュウは疑問に思う。
そんなシュウの疑問に答えるように、リリカは言った。
「聖獣とて所詮は畜生。毎日高価な餌を与えたり、定期的にマッサージなんかしてあげたりしてご機嫌を取っておくと、聖女の多少の悪事には目を瞑ってくれるのです」
「買収じゃないですか!」
シュウがキッとライデンを睨みつけると、ライデンは気まずそうに滝汗を流しながらプイッと視線を逸らした。
ホワイトキングもろくなものじゃなかったが、アレが異端児だったのではなくライデンも同じようなものだったのかとシュウは呆れかえりそうになる。
「ライデン・・・あなたっていう鳥はっ・・・!」
シュウはライデンに深い失望を抱・・・こうとしたが、良く思い返せばそれほどでもなかった。
自堕落して不浄な存在になっていた姿を見ていたので、「そういやそんなやつだったか」程度の認識に切り替わった。シュウのそんな視線を感じ、ライデンは自己嫌悪なのか凄く気まずそうに身を縮こませる。
「さてお話はこれまで。シュウ様、申し訳ありませんがお迎えが来るまでここで待っていてくださいな」
先ほどと同じようにリリカはそう言い、不敵な笑みを浮かべた。
フローラが障壁内にいるので二対一。圧倒的に不利な状況に、シュウはどうにか抵抗出来ないかと考える。
そうだ、障壁ごとフローラを抱えて急流に飛び込んで脱出するのはどうだろう?などと、錯乱するあまりとんでもないことを思いついたシュウだったが、それを察したのかそうでないのか、リリカが釘を刺すように言った。
「言っておきますが、先ほどこの聖地全域に強力な障壁を張らせていただきました。触れたら体が爆発四散する危険なやつです。一か八かで急流に乗ったところで、障壁に触れたら一瞬にして死にますよ」
「あなた本当に聖女ですか!?なんとむごいことを!!」
笑みを浮かべながらとんでもないことを言うリリカに、シュウはゾッと背筋が凍る思いがした。
「シュウ様さえ大人しくしていれば私は危害は加えませんわ。ただ何もせずジッとしているだけで良いのです」
そう言ってリリカは悪戯っぽく笑う。
が、ここでシュウはふと一つのことに気が付いた。
「ん・・・?障壁を聖地全域に張ったんですよね・・・それって、私のことを捕まえに来る人達が触れたらどうなるんですか・・・?」
「えっ」
シュウの質問に、リリカは笑みを硬直させた。
「爆発四散するんですか?」
「あ」
シュウを聖地に閉じ込めることに夢中で、シュウを捕まえにやってくる冒険者が障壁に触れることを考えてなかったリリカ。
「あわわわわわわわわ・・・」
冒険者が触れたときのことを思い出したのか、青い顔をするリリカ。が、すぐに何か思いついたのか、次の瞬間、シュウを睨みつけてリリカは言った。
「予定変更です。これからシュウ様を逃げ出せないほどに徹底的に痛めつけ、そのすぐ後で障壁を解除することにしますわ」
「ファッ!?」
突如として殺意を纏いだし拳をボキボキと鳴らしだしたリリカを前にして、シュウは余計なことを言ったかもと後悔した。
というか、最初からフローラと同じ小規模の障壁を自分にも張って閉じ込めれば良かったのでは?と思ったが、それは何か野暮な気がしたから口にはしなかった。