「・・・えっと・・・」
シュウは困惑していた。
自分を攫って飛んでいたライデンが、主であるリリカの張った危険な障壁に触れて墜落。今では目をバッテンにして口から泡を吹いて気絶している。なんという間抜けな鳥なのか。いや、余裕をもって障壁を張らなかったリリカがアホなのか。
「・・・とりあえず逃げますか」
何はともあれピンチを脱したシュウ。
気絶したライデンを介抱するはずもなく、そそくさとその場から退散しようとする。
その時だった。
「あっ」
「あっ!」
シュウはある人物たちと鉢合わせして言葉を失った。
まず一人はヤック。それと複数の男。
何故に言葉を失ったかというと、彼らが皆裸だからだ。
「・・・い、いや、違うんだこれは!別に今からこっそりホモセックスしようとしていたってわけじゃなくてだな・・・」
ヤックが眼前で手を振りながら何やら必死で否定する。
分かりやすいリアクションのお陰で、別に知りたくもないことを知ってしまった。
「そ、そう!俺達これから皆で兜合わせしようと思っていたんだ!その・・・シュウさんのことも呼ぼうと思ってたんだぜ?」
「いや別に誤魔化さなくて良いですよ。ていうか誤魔化せてないし。それに呼んでいただかなくて結構です」
シュウは蒼い顔をしながら後ずさりして、ヤック達と距離を取る。
「そ、その・・・つい我慢の限界が来ちまって・・・本を買おうと急流から聖地を出ようとしたら、何かリリカ様がいてそれが出来なかったし・・・もう暴発寸前で・・・」
ヤックが罰が悪そうに頬をかきながら言う。
どうやらヤック達は本当に急流を下り、命からがら下界でホモ本を買う予定だったらしい。それをタイミング悪く(?)リリカがいるところに出くわし、引き返したのだろうとシュウは思った。
そして本が買えなくなった分、行き場のない情欲が堪え切れなくなり、こっそり皆で発散しようというわけだ。キモッとシュウはげんなりする。
「それは命拾いしましたね・・・」
ヤック達が急流を下れば、今頃は激流ではなくリリカの障壁によって命を落としていただろうことを思い、シュウは呟くように言った。
「まぁ、ここで会ったのも何かの縁だ。シュウさんも交じってくか?」
「結構!本当に」
とんでもないヤックの誘いに、シュウは思わず反射的に飛びのいた。
その直後だった。
ボンッ
直前までシュウが居た空間を、見えない速度で何かが通り過ぎた。
「!?」
それは空間そのものを削り取るかのような超スピード。
シュウにはそんな高速で移動する物の心当たりは、一つしかなかった。
「ライデン・・・」
シュウは空を睨みつける。
その視線の先には、空中で弧を描くように飛んでいるライデンがいた。
『クルッポー』
チッ、避けやがったか。と言っているようにシュウには感じた。
シュウがヤックに嫌悪感を示して飛びのいてなかったが、今頃ライデンの攻撃をモロに食らっていただろう。
ライデンはどうやら驚異的な回復力で、すぐに意識を取り戻したようだった。
「って、今の攻撃なんか受けたら体に大穴が空きますよ!ていうか砕け散るかも!」
動けないように痛めつけるどころの話ではないではないか、とシュウは抗議する。
「うわわわわ!聖鳥様がお怒りだ!」
「俺達が欲に負けたからだ!」
「許してください!何でもしますから!」
荒ぶるライデンを見て、ヤック達が顔面を蒼白にしてライデンに許しを乞いだした。
どうやら自分達がホモセックスに明け暮れようとしているのを察して、ライデンが怒ったようだと勘違いをしているらしかった。
『ク、クルッポー・・・!』
なんだ?このキモいホモ達は・・・服を着ろ!とライデンは困惑しているようにシュウには感じた。
「ライデン様!魔が差したんです、どうかお許しください!」
「何なら混ざって構いませんから!」
ヤック達は必死に許しを乞おうとライデンを取り囲んでいく。
シュウからしてみれば敵であるライデンも、ヤック達から見れば神の鳥。禁欲に負けたのを見られて怒り狂っていると勘違いした彼らは、許してもらおうと皆で必死になっていた。
『クルッポー!』(触るな!抱き着くな!キンタマ押し付けるな!擦り付けるな!)
ライデンは涙目で男達を引きはがそうとしている。
本気で振りほどこうと思えば出来るはずだが、厄介なことにヤック達はリリカを慕う信徒。リリカに痛めつけろと命令されているシュウと違い、あまり手荒なことは出来ないようである。
「チャーンス・・・」
シュウはライデンが困惑している間に、猛ダッシュでその場を逃げ出す。しばらくはライデンも動けまいとほくそ笑んで。
丁度いいところにヤック達がいてくれたと感謝し、このまま再びフローラと合流しようとシュウは考えていた。ライデンさえいなければリリカはどうにか不意打ちとかで・・・などと思っていると・・・
「ぐあーーーっ」
が、後方から悲鳴が聞こえ、チラリと振り返ったシュウの視界に、とんでもないものが目に入った。
「なっ・・・!?」
さっきまでライデンを取り囲んでいたヤック達が、皆地面に突っ伏していたのだ。全裸のままだから異様な光景である。
全員体に派手に怪我を負っていて、どうやらライデンがなりふり構わずぶっ飛ばした様子が見て取れる。
『クルッポー』
ライデンの目に怪しい光が宿る。
ライデンはヤック達に憑りつかれる嫌悪感のあまり、神の鳥としての世間体とか何もかもぶち壊してしまったらしい。
世間体を失ってしまったこうなった以上は、もう何でもあってやると言わんばかりの視線でライデンはシュウを見つめている。
『狂ッポー』
ゾクッと、寒気がするような殺気がシュウを突き刺した。
あ、やばい・・・この鳥、自分を殺す気だとシュウは本能で察する。何となく鳴き声もヤバい感じがした。
どうやらヤック達をぶちのめした勢いで、少しテンションが危ない感じになっているらしかった。リリカの言いつけなど忘れてしまったいそうである。
「いやいやいや・・・ヤバいでしょ・・・」
シュウは顔面蒼白になる。
相手は聖獣。神聖な存在であり、そして全世界に知れ渡る強力な軍事力。
どう考えても、実力不足で勇者パーティーを追放されたシュウごときが勝てる相手ではなかった。