らいでんは容赦なくシュウへの攻撃を開始した。
大きく羽ばたき、そして滑空のモーションに入り、くちばしを突き出すようにして頭から突撃する。
キィィィィィン
風を斬り裂く音。
そして
ボンッ
と、シュウがギリギリで避けたところにあった空間を根こそぎ持っていくような音。
シュゴォォォォォォォォォォォ
凄まじく風を切る轟音を轟かせながら大きく旋回し、再びシュウへの攻撃モーションに入る。
「いや鳥が飛ぶ音じゃないでしょうが!?」
見た目は愛くるしいハト・・・ではなく聖鳥なのに、攻撃は極めて恐ろしい。直撃すれば即死は免れない。
シュウはどうにか攻撃から逃げ回っているが、高速移動を続けるライデンはとても反撃の隙がなく、ただただ一方的に追い掛け回されているだけである。
(いや、反撃出来たとして私の攻撃が通じるのか!?)
シュウは己が拳を見つめる。
対人間相手ならば、まずまず戦えるくらいに体は鍛えて来た。だが、ライデンのような大型の・・・それも聖獣のような極めて強力な力を持つ敵に対して友好的な攻撃手法をシュウは持っていなかった。
素手でぶん殴ってもダメージは知れている・・・いや、ライデンの場合ふかふかの羽毛に阻まれてろくに衝撃すら与えられないかもしれない。
(かくなるうえは、目とか急所を狙った攻撃・・・)
肉体へのダメージを与えるのは困難でも、相手の急所となるところを狙えば勝機は見えるかもしれない。そうだ、くちばしを叩き割るとも良いかも・・・!
キィィィィィィィン
「いや無理ぃぃ!?」
ボンッ
反撃について考えるシュウに、問答無用で襲ってくるライデン。
シュウは結局頭で考えていた反撃のはの字も実行できないままに、またもギリギリで攻撃を躱す。
超スピードで転がって来る大岩に素手で立ち向かうようなものなので、シュウが怖気づくのも無理もない。突撃してくるライデンは、触れれば即座に粉砕してしまうだろう破壊力を持った突進を繰り出しているのだ。
ボゴォン
ライデンの掠った岩場が砂山のように爆散して見て、シュウは「つくづく鳥じゃない!」と青白い顔をして震える。元よりライデンは聖獣。ただの鳥でカテゴライズしてはいけないのだが。
(くっ、全く勝ち目がない!とりあえずこのまま逃げ続けて、どうにか活路を見出すか・・・!)
ライデンを倒す方法こそないが、それでも攻撃をギリギリで躱せるくらいに見極められているのは不幸中の幸いであった。
実はライデンはリリカの障壁に触れたダメージが抜け切れておらず、全力で飛べていないのだ。おまけに再び接触事故を起こすのを恐れ、おっかなびっくり飛んでいるのである。
ライデンで全力でないことと、シュウも一応は元勇者パーティーで実戦慣れしていることもあってどうにか今も生き延びているいる。
シュウは以前冒険者を襲ったときとライデンのスピードが違うことに気付き、今のライデンは全力を出せていないことを察していた。
ライデンをどうにかするなら今がチャンスなのだがと思いつつも、如何せん攻撃するチャンスがない。
『クルッポー』(つれないなぁ、あんま逃げ回るなよ子猫ちゃん)
ライデンはと言うと、すっかり弱者を追いつめる強者の気分になっていた。何故か知らんがライデンの言葉が理解できたような気がしたシュウは、無性にムカッとする。どうにか一矢報いてやりたい気持ちになるが、手段が思いつかない。
(フローラに魔法さえ封じられてなければ・・・!いや、封じられてなくても大したことはできないけど)
シュウは聖魔法の使い手。
だが、潜在的に魔力量が少ないために、フローラのように大規模な障壁を張ったりといったような魔法はそうそう使えない。人に誇れるとしたらせいぜい研鑽を続けた回復魔法くらいだ。
そんななけなしの聖魔法ですら使えない今の状況に、シュウは歯噛みする。
そうした焦りからか、シュウは不意に足を踏み外し、バランスを崩してしまった。
「あっ!」
丁度ライデンが襲い掛かって来るタイミングだった。
最悪も最悪なタイミング。完全回避が不可能なタイミングで、シュウは必死に体を捻って直撃を避けようとする。
「ぐあっ!」
直撃こそ避けたが、シュウの体をライデンの攻撃が掠めてダメージを受けた。
「ぐっ・・・」
どうにか体制を立て直そうとするが、シュウが攻撃を受けたのは足だった。生きていたのは不幸中の幸いだが、血が滲み出て激痛が走る。
回復魔法の使えない今のシュウでは、もう次からの攻撃を回避することが出来なくなったという最悪の状況であった。
「なんてことだ・・・このままでは・・・」
フローラに魔法障害を食らったがために、思いも寄らぬピンチに陥ってしまっている。今日の悪のMVPは、間違いなくフローラだと恨めしく思った。とはいえ、今の状況では回復魔法が使えたところで僅かに命を繋ぐことしかないできないのだが。
「くっ、どうにか・・・どうにか!」
シュウは回復魔法を自分に使おうとする。
が、体内に魔力の存在を感知出来ても、それが魔法として出力されることはなかった。
シュゴォォォォォォォォォォォ
やがて物々しい轟音を立てながらライデンが旋回を終え、シュウへの攻撃軌道に入る。
『クルッポー』(これで終わりだ。地獄へ行きな)
すっかり戦いの主旨を忘れたと思わしきライデンは、本気でシュウに最後の攻撃にかかろうとする。
(頼む!奇跡よ、奇跡よ起こってくれ!)
シュウは絶望的な状況の中でも、最後まで回復魔法を使おうと足掻く。
自分の最後は酔ったフローラの悪ふざけが原因なの!?とツッコむ暇もなかった。
キィィィィィィィン
無情にも、ライデンはシュウに向かって突撃を開始した。
自分が死ねば、酔いの冷めたフローラは己を責めるだろう。命を絶つことだってあるかもしれない。フローラのためにも死ねない。
そう思って、シュウは最後まで回復魔法を使おうと試み続けた。
(あと一歩なのに、あと僅かに・・・!)
魔力が体を巡る感覚はあるのに、魔法が発動しない。
シュウはこうなればダメ元で、と迫りくるライデンを素手で迎撃しようと構えを取った・・・その時だった。
「その意気や良し」
そんな声が聞こえてふと見ると、シュウの目の前に立ちはだかる影があった。
「なっ・・・!?」
シュウは驚愕に目を見張る。
そこにいたのは、さっき嫌な出会い方をした男・・・ヤックだった。
そしてヤックが空気を読まず現れたよりも、シュウは更に驚愕するものを目にすることになる。
ヤックがいようと構わずやってくるライデンの突撃を、なんと彼が片手でいなしたのだ。
「最後まで諦めずに抗おうとするその姿に俺は痛く感動し、そして欲情した。褒美と言ってはなんだが、一つ良いことを教えてやろうじゃねぇか」
「・・・」
余計なフレーズを交えながらそう言うヤックから、思わず気圧されるほどのオーラをシュウは感じていた。