ヤック---
聖地リリカでの先輩であり、何かワケアリと思わしきゴロツキのような風貌の男。元冒険者か、荒くれ者か、シュウはそんな風に思っていた。
しかし、実のところ自分が思っていた以上に凄い人物だったのではないか・・・
シュウはライデンの攻撃を軽くさばいたヤックを見て、そう思った。
「すまねぇな。すぐに助けてやろうと思ったんだが、服を着るのに手間取っちまった」
ヤックはフッと、ほくそ笑みながら言う。
見た目はどう見ても裸のまま・・・に見えたが、よく確認したら紐のようなブーメランパンツを履いている。衣服と認識して良いかすら微妙なモノだったし、そもそもそれを装着するのにどう手間取るんだ?とツッコミたくなるほどあって無いような物だった。
「だが、シュウさん・・・まさか死の間際に立たされても諦めずに戦うガッツを見せるとは恐れ入ったぜ。俺はそういう男が好きなんだ」
好きなんだ、の辺りで絡みつくような視線を向けられ、シュウはひぃっと小さく悲鳴を上げる。
しかし、ホモでちょっとモーションをかけてくる恐ろしいところはあるが、ライデンの攻撃をいなした凄技を見せたのは事実。
シュウは武道家として、尊敬の意を示さずにはいられなかった。
『クルッポー・・・』
渾身の一撃を軽くいなされたライデンは、頭に『?』をいくつも浮かべながら首を傾げて旋回している。
神の鳥と呼ばれるライデンの渾身の突進。ライデンが手負いであるとはいえ、早々簡単に破られるはずなどないはずだった。
「貴方は一体・・・」
シュウが問う。
見た目はどう見てもただの変態ホモ。だが、中身はどう見ても只者ではない。その正体が気になって仕方がなかった。
「俺は、元聖神教会所属のパラディンだ」
「なっ・・・!?」
パラディン。
それは、聖神教会の高位騎士団の一つである。
徒手空拳による戦闘スタイルがメインであることと、特に警護や戦時の前衛など、防御に特化したのが特徴的な騎士団だ。
「政争の敗北とか、イケメンの同僚をつまみ食いしまくったのがバレたとか、そんなこんなでいろいろあって辞めさせられてしまったがな。信仰心だけは捨てきれなくて、つい身分を隠してこの聖地に潜んでた。未練たらしくてみっともねぇ話だがな」
フッと、伏し目になりサラリとキモイのが混じった自分語りをするヤック。
「な・・・なるほど・・・」
どうしてこんな薄汚いホモがパラディンだったのかは置いておいて、シュウは納得した。
パラディンは防御障壁や回復魔法、補助魔法など後衛としての補助を主体とした聖魔法の超がつくほどのスペシャリストで構成されているというのをシュウは聞いたことがある。
他者を護る力に特化したパラディンは、自身の防御力も並外れたものを持ち、街一つ滅ぶだけの爆発が起きても生き延びることが出来るとさえ言われている。
その防御に特化したスペシャリストの聖魔法の防御法によって、ライデンの攻撃をいなすことが出来たのだとシュウは解釈した。
これまで見たくも無かったので意識していなかったが、今一度よくヤックの体を見れば、非常に鍛え抜かれた体をしている。
「凄い・・・あれだけのライデンの攻撃を防ぐほどの障壁を張れるとは・・・流石、元パラディン・・・」
シュウは魔力が少ない。だからこそ、聖魔法の質そのものは誰にも負けないほどの研鑽を続けて来たつもりだった。
だから魔法障壁とて他人に負けないほど強力なものを張れる自信があったのだが、ライデンの突進を防ぐほどのものを張れる自信は無い。
シュウは軽いショックを受けつつも、ヤックに対する尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
「フッ、ちょっと違うぜシュウさん」
シュウのキラキラした目線を受け、気恥ずかしそうにヤックは首を横に振る。
「これは魔法障壁を使ってるわけじゃねぇ。体に宿る魔力をちょっと変わった使い方をしているだけさ」
「えっ・・・?」
「魔力の使い方は、何も魔法にして外に放出するだけじゃないってことさ。そしてこれこそが、パラディンの強固な防御力の秘密だったりする。ま、これ本当はパラディンの秘密なんだが、今となっては俺は教会を追い出されたただのホモだからな」
パラディンの秘密。シュウはその言葉を聞いて興味津々になった。
シュウは元々魔法や強さへの探求心は強い方だ。神の鳥であるライデンに襲撃されているというこんな非常事態の最中でも、それは健在である。
しかもパラディンという聖神教会の高名な騎士団の秘密というから、なおのこと興味が沸いていた。
ちなみに、さっきから二人は呑気に話ばかりしているが、実はライデンが三度ほど攻撃を再トライし、その全てをヤックが逸らしている。
(あれは・・・魔法障壁と似て非なるものを体の表面に展開しているのか・・・?だからライデンの攻撃をくらうことなく受け流せていると・・・)
ヤックがライデンの攻撃をいなすたびに、彼の体の表面に魔力の層が展開されているのを見つけたシュウは考察する。
ヤック、地味に凄いとシュウは感心した。
これにより、シュウはヤックに対する尊敬の念と、その技への探求心をますます強めていた。
「体に流れる魔力を、術式を介して外へ放出するのが魔法だ。だが、俺達が得意とするのは魔法じゃねえ。魔力を体に留めたまま、ロス無く効率よく魔力を操るんだ。俺達はこれを『魔法拳』と呼ぶ」
ヤックはそう言いながら、ビシッと正拳突きのポーズを取る。
「魔法拳・・・」
勇者パーティーとして旅をしてきたシュウでも、それは聞いたことのないものだった。
本当にこれまで厳重にパラディンの秘密として守られてきたものなのだろう。
シュウはグッと拳を握り、体内にある自分の魔力の流れを感じ取る。
そして思った。魔法拳ならば、術式で大概へ魔力を変換して放出する魔法と違い、フローラにかけられた障害の影響を受けることがないのではと。
「いいかシュウさん。体の中にある魔力を、コントロールするんだ。優しく、しなやかに、そう、わかりやすく言うなら相手の睾丸を扱うように」
「あのー、もっと普通の例えでお願いします。『相手の』ってなんですか・・・」
だが悲しいかな。何となくヤックの例えの通りにやってみようとしたら、確かに魔力の流れをコントロール出来た感覚があった。
「ま、話に聞くだけで簡単に出来るわけじゃねぇし、才能の無いやつはどれだけ練習したってできやしねえ。俺だって修行して数年がかりでようやく出来るようになったくらいだ。今日のところは話を聞いて勉強した程度に考えときな」
フッと笑ってヤックが言う。
シュウはこっそりと試してみた。
(回復せよ・・・)
体内を巡り魔力を何となくで操作して、先ほどライデンの攻撃で傷ついた足の部分に手を添えて念じる。
すると、一瞬にして怪我が回復した。
「あれ?うまくいった・・・?」
元の才能に恵まされていたのか、シュウはヤックに軽くコツを聞いただけで『魔法拳』を再現出来てしまっている。数年の修行など必要なかった。
(まさか本当に出来るとは!しかし・・・)
障害の影響なく魔力を使えたことは喜ばしい。
しかし、習得に苦労し、「簡単に出来ない」と言ったヤックには気まずくてこのことが言い出せないでいた。傷つけてしまったらどうしようと。
「さて、ライデン様に手を出したくはねえが、それでもそそられるほどのイケメンであるシュウさんが襲われているのを黙って見ていることは出来ねぇ。シュウさん、事情はわからねえが、俺がライデン様をここで食い止めている間に逃げるんだ」
言い方はキモイが、有難い申し出をするヤック。
シュウはそれに甘えることにした。
「すみません、どうかよろしくお願いします!」
『魔法拳』の力の片鱗を感じたシュウだが、まだ覚えたての不確実な力でしかなく実戦で使うのは心もとない。今は使えるものは使い、逃げるが先だと思っていた。
だが、頼もしいはずのヤックにアクシデントが起きた。
「ぬっ!いかん、パンツの紐が解けそうだ」
ヤックが突然馬鹿なことに気を取られたその時だった。
最悪のタイミングでライデンが突っ込んできたのである。
「あふんっ!」
自分のパンツに気を取られ、防御の遅れたヤックがライデンの攻撃を受けてしまった。
「ヤックさん!」
食い止めると言った矢先からわけのわからない失敗を繰り出したヤックに呆れながらも、彼の元へ駆けつけるシュウ。
ヤックは魔法拳でライデンの攻撃の直撃を避けながらも、ダメージは大きいようだった。
「ぐっ・・・すまん・・・今ので股間に掠ってダメージを受けてしまった・・・しばらくは動けそう・・・ない・・・」
青白い顔をしながら、股間を押さえてもんどりうっているヤック。
どうやらピンポイントに男の弱点にダメージを受けてしまったようだった。
「ライデン様が・・・また来るぞ・・・」
ヤックの言葉に、シュウがハッとして構えを取る。
ライデンは旋回を終え、再びシュウ達へ突進を繰り出そうとしていた。
「やるしか、ありませんか・・・」
ライデン、ヤックの股間に触れてしまったんか・・・と、ややライデンに同情的な視線を向けつつ、シュウは迎撃の姿勢を取った。今攻撃を避けようとすれば、行動不能なヤックを巻き込んでしまうことになる。
シュウは覚えたての魔法拳で、ライデンと戦わねばならなくなってしまった。