部屋のドアを蹴破って入って来たのは、二人の聖神教会の聖騎士だった。
二人とも剣を鞘から抜いており、完全に臨戦態勢に入っている。もし彼らに抵抗や逃亡の素振りを見せるなら、本当にその瞬間に斬り伏せるつもりであることが見て取れた。
「ここに聖女フローラ様がいらっしゃることは調べがついている!隠し立てをすると容赦はせぬぞ!!」
闖入者に慌ててシーツに体を包ませたフローラのことがきちんと見えていないのか、騎士はシュウに向かって剣を突きつけてそう叫んだ。
(あぁ、やはり来るときが来てしまった・・・)
シュウははぁと溜め息をついた。
フローラが大丈夫だというから、とりあえず成り行きに任せるが、せめて全裸のまま連行されるのだけは勘弁願いたいものだが・・・などとシュウが考えていると
「あの、十分に声は聞こえますから、そう叫ばないでいただけますか?耳が痛くなりそうです」
シーツからひょっこりと顔だけ出して、フローラが迷惑そうな顔でそう言った。
騎士達は突然「あっ」と声を出したかと思うと、青白い顔をして硬直する。
「ふ、ふふふふふふ・・・フローラ・・・様・・・??あ、あの・・・そのお姿は・・・」
自分達の探していたものが突然出てきたことに驚いた騎士達の目は、シーツで隠されたフローラの裸体に向いた。そしてその次に隣にいる全裸のシュウにも視線を移す。
「あっ・・・(察し)」
子供以外よっぽど鈍くなければ、二人の間に何があったのかはわかるだろう。
そして彼らの視線は真っ白いシーツの一か所を捉えていた。---破瓜の痕跡と思われる、赤い染みを。
こうなると、この騎士達も誰もが行きつくだろう結論を頭の中で出していた。
「フ、フローラ様!そこの暴漢に襲われそうになっていたのですね!間一髪間に合ったというところでしょうか!!」
しかし、騎士はあえて違う結論を口にした。
というか、そういうことにしておかないと教会としては非常にまずいからだ。
「卑劣な男め!聖女様を襲おうとは、例え未遂でも極刑は免れんぞ!!」
騎士達は事実を湾曲してこの場を締めようとしていた。
とりあえず強引にでもフローラが男と肉体関係になったという事実はこの場ではなかったことにする。とりあえず後のことはどうとでもなる・・・とりあえずフローラの回収をし、シュウの身柄を捕らえるのが最優先事項だと考えていた。
「あらあらまぁまぁ。ゆうべはお楽しみでしたねぇ」
そこへ空気を読まない宿屋の女将が騎士達の後ろからシュウ達に話しかけた。
「お、女将っ!こ、このことは他言無用で頼む!」
真相がわかっている騎士は女将に向かって泣きそうな顔で懇願する。
しかし女将はけろっとした顔で
「え?そんなこと言っても、私ぁもう今朝の井戸端会議で近所の奥様方に話しちまったさね。聖女様が恋人とよろしくやってるって」
と、とんでもないことを言ってのけた。
フローラは別に宿屋では名乗ってはいないが、聖女として有名な彼女の顔は広く帝都民に知られていたので、女将はすぐにフローラのことに気が付いていた。
だが、聖女が高貴なる者と政略結婚をしなければいけないこと、処女性を求められるなどということは教会内の常識であって、一般人には関係ないし知らないことだ。
女将にすれば聖女に恋人がいたというのはビッグニュースでしかなく、事件だなどと考えてもいなかった。だから躊躇うことなく他人に話してしまうのである。
これには流石に騎士達も愕然とする。いや、シュウも愕然としていた。
噂好きの主婦達の情報はまさに音速のように帝都中に広がるだろう。が、ここで更に騎士達に追い打ちがかかった。
「ややっ!これは聖女フローラ様・・・と、これは・・・恋人?まさか聖女様に恋人とな!」
素っ頓狂な大声を上げて女将の後ろから姿を現したのは、帝都でも有名な新聞社の記者であった。
「行方不明の聖女様を追う騎士様の後を追っていたら、とんでもないものを見つけてしまったぁ!どうしよう!?」
なんだか芝居めいたように「どうしよう」と言いつつ、記者は手際よくカメラの用意を始めた。
騎士もシュウも顔を真っ青にして固まっている。
そんな中、フローラは一人シーツで口元を隠しながら、ニンマリと笑っていたのだった。
「計画通り」と。