キィィィィィィィン
ヤックが股間をやられて動けない今、迫りくるライデンを凌ぐのはシュウしかいない。
シュウは気を落ち着けて、ヤックが言うように体中に満ちる魔力をコントロールしてみせた。
念じれば体の中を魔力が動き出す、本当に。ちょっと感動。
「無理だ!いきなり出来るもんじゃない!俺のことは良いから早く逃げろ!!」
ヤックが股間を押さえてのたうち回りながら、シュウに向けて叫ぶ。
だが、もうライデンはすぐそこに迫り、逃げても全然間に合わない段階にあった。
「・・・」
だが、そもそもシュウは逃げようとはしなかった。
確かにヤックの教えてくれた『魔法拳』は、徒手空拳をスタイルとするシュウには打ってつけの技術。話に聞いてみただけで実際に術式を展開して魔術として発動することなく、『魔法拳』を発動して怪我を回復を行うことも出来た。『魔法拳』の才能がシュウにあるのは明白だ。
しかし、ただの一度も訓練せず、ヤックからざっくりとやり方を聞いただけの付け焼き刃の状態であるのは間違いない。
その状態で聖獣であるライデンの攻撃を『魔法拳』で受けるのは、いくら何でも無謀というものであった。
(出来るっ!)
だが、シュウには確信があった。
体中を魔力が意のままに流れる様が、感覚で理解できる。
(睾丸を転がすように魔力を体表に集め、手先に移動。高密度に集合させて・・・)
ヤックの言葉を思い出して顔を顰めながらも、冷静に言われた通りに実行していくシュウ。
そして・・・
バシッ
なんとシュウはヤックがそれまでやっていたのと同じように、ライデンの突進を軽くいなしてみせた。
『クルッポ!?』
馬鹿な!とライデンはショックを受けて、豆鉄砲を食らったような顔をする。
立て続けにヤックどころかシュウにも攻撃を無効化され、プライドが傷ついたのか涙目になっている。
「バカな!?」
そしてヤックもまた目を飛び出させて仰天していた。
自分が地獄のような訓練で身に着けた『魔法拳』を、シュウがヤックからコツを聞いただけであっさりと実現させてしまったことに衝撃を受け、「俺のあの地獄の日々は?」と、涙目になっている。
「ま、まぁ、偶然そういうこともあるかもしれんな?ライデン様も調子悪かったかもしれんし・・・」
ライデンが本調子じゃないのは事実だが、現実逃避でヤックはそんなことを言って自分の心を護ろうとしている。一体どっちの味方なのか。
『クルッポー!』(今のはたまたまだ!)
ライデンはまた旋回し、再度シュウへ向けて突進を繰り出す。
だが一度成功したせいか、シュウの心には余裕があった。
「ふむ・・・こんなのはどうだろう」
先ほどと違う魔力の流し方を試す。
高威力のライデンの突進から完全に体をガードするだけのエネルギーを持てる魔力の集合体。
これを筋肉にも利用できるようにすれば・・・
パシッ
『クルッポ!!??』
次にシュウは、飛んでくるライデンのクチバシを片手で捕まえて見せた。
掴まれたまま、ライデンはピタッと空中で静止する。
「は・・・は・・・?」
高速のライデンを捕まえたのも凄まじいが、いなすどころか威力を完全に殺して静止させるまでの技を見せたシュウに、ヤックがプルプルと震えて目を見張る。
高レベルのパラディンとて、そうそう実現できないほどの超高等テクニックだった。
「まぐれだ・・・そんなもので調子に乗らないことだ・・・!そんなものはっ、たまたまだ!ライデン様が気まぐれで急停止したに過ぎん!そ、そうだ、トリックだ!何かのトリックだ!」
ジタバタと空中で翼をばたつかせながら、どうにかシュウの手を逃れようと必死になるライデンを見つめつつ、茫然自失とそんなエクストリーム言い訳を呟くヤック。だから誰の味方なのか。
「このタイミングか」
全てを理解したようにシュウはニヤリと笑みを浮かべ、そして
「はぁっ!」
弧を描くように腕を回し、ライデンを投げて地面に叩きつけた。
ドォォォォォン
激しく地面に投げつけられたライデンだが、肉体的なダメージはほとんどない。
だが、精神面はそうではなかった。
『ク、クルッポー・・・』
正面からの突進を捕まれ、そこから投げて地面に叩きつけられたライデン。
聖獣として至高なる存在(ここ最近は堕落していたけど)であったはずの自分が、シュウに良いようにあしらわれてしまったことに大きくショックを受けていた。
地面に尻もちをつき、茫然としている。再度攻撃を試みようともしなかった。
きっと、同じように止められ、また投げられてしまうのだろう。
ライデンは既に「シュウには勝てない」と理解しているのかもしれない。
「は、はわわ・・・」
聖獣であるライデンを投げ飛ばしたシュウを見て、ヤックは股間の痛みすら忘れて茫然としていた。
シュウが使っているのは、自分が知っている『魔法拳』などではない。『魔法拳』とて手負いとはいえ聖獣であるライデンにああまでショックを与えるほどの力はない。
シュウが使っているのは、言うなればもはや『超・魔法拳』。シュウは言葉で軽く教えただけのはずの『魔法拳』を、『超・魔法拳』として昇華させいきなり実践してみせたのだ。
もうあまりの格の違いに、負け惜しみを言うだけの気力も無かった。
「もう来ませんか?ならば、次はこちらの番でしょうか」
覚醒したシュウは、ゆらりと不気味なオーラを漂わせながらゆっくりとライデンに近づいていく。
シュウには自由自在に扱えるようになった魔力と、そして何より新たな力を手に入れた自信に満ち溢れていた。
ピンチから覚醒へ。
圧倒的な強敵であるはずのライデンとの苦戦が、シュウのレベルを何段も押し上げた。
「祈りなさいライデン。神の元へ送ってあげましょう」
そう言って不敵に笑みを浮かべるシュウ。闇堕ち一歩手前と言わんばかりに、少し悪い方向に調子に乗っていた。