体内を巡る魔力。
シュウはそれを拳へピンポイントで集中させる。
これにより打撃を打った瞬間、拳に集めた魔力・・・エネルギーが炸裂し、文字通り爆発的に威力が増す。
まだ実践したことはなくても、もう何となく肌で分かっていた。
これが命中すれば、ライデンの体に大穴が空く。それほどの威力ある打撃になる。
「・・・」
シュウは無言で構えを取る。
流れるように自然な動作。攻撃モーションだとわかっていても、思わず見入ってしまい反応が遅れそうなほどに美しい、完成された武であった。
シュウは『光の戦士達』の中では、確かに戦闘力はイマイチだったかもしれない。だが、一人の人間・・・冒険者としての枠でみれば、修羅場をくぐってきただけあってその武術の練度は極めて高いものである。
その武術に魔法拳の威力が加わる・・・
シュウは今や、相手がライデン、もしくはライルであっても負ける気がしなかった。
『クルッポー・・・』
腰(?)が抜け、すっかり逃げるも抵抗するも気力を無くしたライデンは、シュウへの恐怖ですっかり涙目になりながら失禁して動けないでいた。
傍目には可哀そうだが、元はライデンとて調子に乗ってシュウを殺そうとしてのだから仕方がない。
「教会騎士のパラディンに教わった極意で、まさか聖獣殺しをしてしまうかもしれないとは・・・何とも皮肉なものですね」
フッと、シュウが口角を上げて感慨深げに呟く。もはや完全にパワーアップした自分に酔っていた。
しかし、それも束の間。
シュウは大きく踏み込むと、新たに編み出した必殺の拳をライデンに向けて打ち放った。
従来の正拳突きに魔力を込めた必殺の新・正拳突き・・・名付けて
『疾風・聖拳突き』
今ここに産声を上げたシュウの新・必殺技は、茫然とするライデンの体を正面から捉え、そして炸裂する。
「はぁっっ!!」
シュウの咆哮とともに、その拳はライデンを貫き・・・
ぼふっ
シュウの腕とともに、ふっくらした羽毛に埋もれて動きを止めた。
「・・・は?」
シュウが腕を羽毛に埋もれさせたまま、茫然として声を洩らす。
何とシュウの渾身の一撃は、ライデンの羽毛に完全に威力を吸収されてしまっていた。
「えっ・・・私の、必殺技・・・」
新たに編み出した必殺技をカッコよく決めたはずのシュウは、何が起きたのかわからず茫然としている。
「そ、そうか、シュウさん!わかったぞ!」
一部始終を見ていたヤックが、何かに気付いて叫んだ。
「ライデン様は聖獣!シュウさんや俺が纏っている魔力は聖属性のもの!聖獣に聖属性の攻撃は、向こうからの攻撃を相殺する程度には使えるけど、こちらからダメージを与えようとすると恐らく通らないんだ!で、聖属性の魔力が無効化されたシュウさんの打撃はただの打撃になり、ふかふかの羽毛に吸収されてしまったんじゃないか!?」
「は!?んなアホな!」
折角覚醒したのにこんなオチ!?と、シュウが愕然としていると、何やらライデンが動いた気配がしてシュウはハッとした。
『クルッポー』
ライデンは余裕そうに『ニチャア』と笑みを浮かべてシュウを見下ろしている。
攻撃が効かないとわかるや、シュウのことが怖くなくなったようだ。
ガスッ
「ぐあーーっ」
ライデンは頭を振り下ろし、クチバシでシュウの頭を攻撃した。
ぶしゅーっと血を吹きながら、シュウがのたうち回る。突然のことに防御する余裕もなかった。
『クルッ・・・ポォォォォォォォォォウ!』
苦しんでいるシュウの見て、ライデンは余裕の勝利とばかりに、ムーンウォークしたりクルクル回ったりキレの良いダンスを披露している。
さっきまで怯えあがっていたのにムカツク・・・シュウは思ったが、攻撃が通じない以上ライデンに一矢報いることも出来ない。
魔法拳無しの素手では、恐らくライデンにはろくにダメージも与えられないのではないかとシュウは感じている。ライデンは腐っても聖獣。生き物としての格がシュウと全然違うからだ。肉体のみでは一方的にやられて終わるのがシュウにもわかっていた。
ふんぞり返っているライデンを見て、ヤックが「あぁ、やはり聖獣様には敵わないんだ・・・」と茫然とし、そんな反応を見てライデンが更に増長する。
「くっ、この鳥め・・・!」
シュウは割られた頭の傷を修復すると、ライデンに向き直る。
『クルッポー・・・』
ほれ、何かやってみろよ、と余裕をかましてズイッとお腹を突き出す仕草をするライデン。
シュウの攻撃が効かないことを悟ってすっかり強気になっている。どこまでも現金な鳥だった。
(目の物見せてくれる!)
シュウはせめて一矢報いてやろうと、ライデンに飛び掛かった。
わしっ
『クルッポ?』
シュウは両腕を大きく広げ、ライデンの体に飛びついた。
ライデンはシュウが何をするつもりなのか理解できずに、首を傾げている。
「余裕そうにしているのも今のうちです。ライデン、私は貴方の弱点を知っています!」
シュウの言葉を聞き、ヤックが仰天する。
「弱点!?そ、そんなものがあったのか・・・それを知ってるなんてすげえ!」
逆襲に出たシュウに期待の目を向けるヤック。「そんなものを知っているなら最初からやれよ」とは口には出さなかった。
「・・・って、え・・・?何やってんの・・・?」
が、そんなヤックの目は、すぐに困惑のそれに変わる。
何故なら、シュウが突如として開始したのは、ライデンの体のマッサージだからだ。
『ク、クルッポ?クルッ・・・ポーォォォォォォォオオオオ!!?』
困惑していたのはライデンも同じだが、シュウのマッサージがとても効いているらしく、すぐに甘い声を上げて目を細めてリラックスしてしまう。
シュウの脳裏にあったのは、リリカがライデンをマッサージしていた光景だった。
「ふむ、確かここをこう・・・」
リリカがしていたマッサージの内容を記憶していたシュウは、その通りに手を動かしていく。
ライデンは更に歓喜の声を上げ、ペタリと地面に寝そべってすっかりなすが儘になっている。
「えーっと・・・一体何を・・・ライデン様・・・?」
威厳を放っていたライデンがシュウの手によって堕落した生き物になっていく様を見て、ヤックが困惑とも幻滅とも取れる微妙な表情になっていく。
それを見てシュウはニヤリと笑った。
「フフッ、ライデン。貴方などマッサージ一つで瞬時に堕落したただの鳥になってしまうところを見られていますよ?威厳も何もないですね?無様ですね」
シュウの目的・・・それは、ただただヤックの前でライデンを堕落させ、幻滅させるだけというものである。
ライデンが偉ぶっているのが気に入らず、倒せないまでもただ嫌がらせしてやれの精神で突如としてマッサージを始めたに過ぎない。
「ふむ・・・?ここをこうしたほうが効きそうですね」
『クルッポー!』
しかし、ただマッサージをしているだけでなく、シュウはやっているうちにリリカの真似をするだけでなく、自分なりに気付いたアレンジを加えていく。
それがまたライデンに効いているようだった。
「ここか?ここがええのんか?」
調子に乗ってシュウのマッサージにも熱が入り、それが更にマッサージの効果を上乗せしライデンが声を上げる。
シュウのマッサージはリリカのそれを越えた。ライデンは悲鳴に近いほどの歓喜の声を上げ、お腹を見せて転がってまでシュウのマッサージを受け入れている。
が、やがて異変が起きた。
『クッ、クルッポーッッ!!』
ビクビク、ビクンッ
ライデンが絶叫して体を震わせ、足ピンして果てたのだ。
「ん・・・?えっ・・・?」
突如として見せたライデンの反応に、シュウは困惑して手を止めた。
ライデンはハァハァを息をしながら、顔を紅潮させて虚ろな目で虚空を見つめている。
「こ、これはっ・・・ライデン様がオーガズムに達したのでは!?」
「は?」
気付いたヤックが発した言葉に、シュウは思わず嫌悪感から後ずさった。
「うっそでしょお前!?」
自分の手でオーガズムに達してしまったライデンに畏怖の目を向けながら、シュウは茫然と自分の両手を見つめた。すぐにでもこの手を洗いたい、という気持ちだった。
『クルッポー・・・』
ライデンが何やら熱っぽい瞳でシュウを見つめている。それは纏わりつくような、何とも言えぬ温度を持った視線だった。
それを見たヤックは「これもうすっかりシュウさんによってメスにされちまったという顔だな」と笑いながら言う。
「いや、またこういうのですか!?」
異色なる生き物に性的に好かれた前例、ホワイトキングのことを思い出してシュウは嫌悪感から嘆きの叫びを上げた。