※この作品はR-18です。

追放の破戒僧は女難から逃げられない   作:ミステリードール

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金の制約

「く、来るなっ!私に近寄るなっっ!!」

 

 

リリカはヒャクタから発せられる不穏なオーラを察知し、ヒステリックに叫びながら後ずさった。

そして

 

 

「ど、どうだ・・・これで近寄れないだろ?」

 

 

リリカは得意とする魔法障壁を、自分の周囲に展開し、身を護りだした。

 

 

「なんと・・・」

 

 

シュウはリリカが展開した魔法障壁を見て、目を見張った。

見るからに密度が高いと思われる魔法障壁を、クロワッサンのように何重にも重ねるように展開されていたからだ。

 

 

「流石リリカ様だ。あれだけの障壁・・・まさに鉄壁。今のリリカ様は、下手をすると今この世界で最も安全なところにいると言えるのではないか」

 

 

ヤックが感心してうんうんと何度も頷きながら言う。

これにはシュウも同感だった。障壁一枚破るのにも大きなエネルギーを消費することになりそうなのに、それを重ねて展開・・・

自分はおろか、ライルでもあれは破れないんじゃないか・・・とシュウは思った。

自分にもあれだけの障壁が張れれば・・・と、少し憧れの念をリリカに抱く。

 

「往生際が悪いねぇ・・・」

 

 

ヒャクタは障壁の近くまで歩み寄り、はぁ~とため息をついた。

その態度は落ち着き払っており、リリカが障壁を張って籠城していることに動じていない。

 

 

「うるさいうるさいうるさい!もう少し待てば金が入って来るんだ!それまで待てって言ってるんだよ!!待つというまで、アタシはこの障壁を解除しないからな!!」

 

 

借金取りであるヒャクタに連れていかれれば、いずれにせよただでは済まないことを予感しているリリカは、もうすっかり開き直って籠城する気満々だった。

どのみちリリカの魔法障壁は世界でも最強クラス。これを打ち破られることは絶対に無い。

ルール違反でも何でも、ヒャクタはリリカの言う通りにする他ない。

 

・・・そうリリカは思っていた。

 

 

 

「けどまぁ、相手が相手だからあの立派な障壁も意味がないな」

 

 

「えっ」

 

 

苦笑いを浮かべて放たれたヤックの言葉に、シュウはギョッとする。

その時だった。

 

 

バシュウ・・・

 

 

リリカが展開していた最強クラスであるはずの幾重もの魔法障壁は、ヒャクタが手をかさずだけで一瞬にして消滅した。

 

 

「「は、はぁぁぁぁ!?」」

 

 

シュウとリリカは同時に素っ頓狂な声を上げる。

予想外も予想外。絶対にありえないことが起きたからだ。

 

 

「ば、馬鹿な・・・アタシの障壁はそんな簡単に・・・」

 

 

唖然として膝を着くリリカに近づいたヒャクタは、彼女を見落としながら言った。

 

 

「金の制約」

 

「えっ?」

 

「知らないのか?」

 

 

キョトンとするリリカに対し、ヒャクタは小首を傾げ乍ら再び口を開く。

 

 

「債権者と債務者の間で取り交わす制約だ。アンタは契約書にサインをしたはずだが、もしかして中身をきちんと読まなかったのか?隅っこにちょこんと小さく書いておいたんだがな」

 

「それ読ませる気無いじゃん。確信犯じゃん。って、え?そんな制約を、アタシが??」

 

「そう。アンタが返済日を守らなかった段階で制約は発動した」

 

 

リリカは顔面を蒼白にさせて、能面のように淡々と語るヒャクタから後ずさって距離を取る。

 

 

「金の制約の内容はシンプルだ。債務者が債権者に対し絶対服従になる・・・これだけだ」

 

「えっ」

 

「どれだけ力の差があろうと、制約の元では債務者は債権者に勝つことは出来ん。アンタの張る魔法障壁とやらも、今の俺には紙っ切れも同然だ。アンタは俺の前じゃ聖女でも何でもない。ただの女なんだよ」

 

 

ヒャクタの言葉を聞いて、リリカは馬鹿なと口をパクパクさせる。

だが、実際にリリカが籠城のために張った渾身の魔法障壁はあっさりヒャクタの手によって破られた。

この聖地全域はシュウを逃がさないためにリリカが強力かつ攻撃的な障壁を張っていたが、それを突破して来ることが出来たのも、この制約の発動によるものだった。

 

 

「そ、そんな非人道的な制約なんてものがあったなんて・・・私も知らぬ間にそんな制約をかけられて・・・いないだろうか」

 

 

リリカ達の会話を聞いているシュウは、恐怖で体を震わせる。

 

 

「金の制約は闇金融の連中が大体使うね。聖神教会には聖紋の制約ってのがあるけど、金の制約は全ての制約において優先される超強力なものだ。マジで逆らえないし、制約の前じゃ人道もクソも関係ない。まー、金は命より重いってことだな。ハハハッ」

 

 

ヘラヘラと笑いながら言うヤックに、シュウは「経験者なんですか?」と質問しそうになったが、聞くのが怖くて結局やめた。

 

 

「ま、金の制約は強力な分、使い手は限られるし段取りも複雑だ。そこそこ力ある闇金から本格的に借りてなければ大丈夫じゃないか?知らんけど」

 

 

ヤックの言葉に、シュウは滝汗を流しながら自身の行動を振り返る。

しかし、振り返ったところで酒に酔った勢いでした借金では記憶に残っているか怪しい。

シュウはもしかしたらいずれ自分の元にヒャクタのような借金取りが来ることもあるのだろうかと、背筋が凍る思いだった。

 

 

「さて・・・それじゃ説明も終えたところで、リリカさんには借金返済のために働いてもらうことになる」

 

「なっ!?」

 

 

ヒャクタがそう言って迫ると、リリカは即座に踵を返して反対方向で走り出す。

 

 

「止まれ」

 

「うっ!?」

 

 

が、ヒャクタが一言止まれと言った瞬間、リリカは金縛りにあったかのようにピタリと動きを止めた。

これも制約によるもの。債務者は債権者に力で叶わないだけでなく、命令にも無条件で従うようになってしまうのだ。

 

 

「か、体が・・・」

 

 

リリカが自分に起きた異変に震えていた。

聖女として培ってきた状態異常回復魔法を使おうと試みるが、それでも体の自由を取り戻すことは出来なかった。

 

 

「金の制約は魂と直結される制約だ。精神や肉体でどれだけ抗おうとも、制約に逆らうことは出来ん」

 

 

ヤックが同情するような目でリリカを見つめつつ、首を横に振りながら言った。

 

 

「リリカさんにはウチが経営している聖女風俗で働いてもらう。NG無しで時間内発射無制限のハードな店だが、その分収入はいいから早ければ十数年で借金が返せる。聖女風俗は需要あるから、365日働き詰めなのは保障するぜ」

 

「聖女風俗!?」

 

「借金で首が回らなくなって風俗堕ちした聖女が働く店だよ。年に3人は堕ちてくるのがいるな」

 

 

何という聖女界隈の闇ッ!

リリカはスケベするのは好きだが、相手はしっかり選ぶタイプであり、風俗に堕ちて不特定の男とスルのは嫌だった。

 

だが、金の制約によって自由を奪われたリリカにはもう抗う術はない。

 

 

「乗れ」

 

 

ヒャクタがそう促すと、リリカは自分の意思とは裏腹に体が勝手に動きだし、先ほど自分を撥ねた黒塗りの馬車へと歩き出した。

 

 

「・・・」

 

 

賭け事と男で金を失い、身を落とすことになったリリカ。

シュウは彼女の姿が、自分のもう一つの可能性そのものだったのではないかと思えてならず、馬車に乗り込もうとするその背中から目が離せなかった。

 

 

「・・・シュウ!」

 

 

馬車に乗り込む寸前といったところで、勝手に歩こうとする体に抵抗しているのか、ギギギと音がしそうなほどにギクシャクした動きでリリカがシュウへ振り向いた。

 

 

「アタシをしこたまスケベで楽しませてくれた礼だ・・・最後に良い事を教えてやるよ」

 

「えっ・・・」

 

 

歯を見せてニカッと笑うリリカ。

何を言う気だ?と警戒するシュウに、リリカは信じられないことを言った。

 

 

「フローラには気を付けることだね!アイツは・・・アタシでも知らなかった大きな秘密がある。決してアンタが思ってるような女じゃないよ。命が惜しかったら、せいぜい仲良くするんだね!」

 

「な、なんですって!?ちょっと!」

 

 

言いたいことだけ言ったらすっきりしたのか、リリカは制約からの抵抗をやめて馬車に乗り込んだ。

その直後、馬車はゆっくりと走り出す。

 

 

「ちょっと!気になることだけ言って行っちゃわないでくださいよ!?」

 

 

茫然とするシュウを置いて、馬車は遠ざかっていく。

あまりに気になる言葉だけ置いて去って行かれたシュウは、頭の整理が追いつかずただ突っ立って去り行く馬車を見送ることしか出来ない。

 

ちなみにその隣ではヤックが「リリカ様とスケベしたんか~」と、ニヤニヤ笑みを浮かべて立っていた。

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