聖女リリカは、借金返済の不履行によって消費者金融に連れていかれてしまった。
金の制約により、リリカの身柄はその魂ごと債権者であるオトコ・カウカウ・フィナンシャルのものとなる。そして、その瞬間、リリカから聖女としての力が失われた。
「あれは・・・!」
それまで聖地全体をドーム状に覆っていたリリカの魔法障壁が、徐々に不安定な形状になり、そして霧散していったのをシュウは見た。障壁を張っていたリリカの力が失われた今、もう障壁はその形を保つことはできない。
「しかし、喜んでばかりもいられない・・・」
シュウはゴクリと唾を飲む。
強敵であるリリカはよくわからない内に退場することになった。しかし、シュウ達の危機がこれで去ったわけではない。
むしろこれまで障壁によって足止めされていたかもしれないシュウの追跡隊が、一斉にこの聖地になだれ込んできてもおかしくないのだ。
そしてシュウの懸念通り、リリカの障壁の消滅と同時に動く勢力があった。
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聖地手前の山道で陣を構える集団・・・
元『光の戦士達』のメンバーやセレスティア達を始めとした、シュウの追跡者軍団に視点は変わる。
「聖地を覆っていた魔法障壁が消滅しました」
一人の斥候の男が、陣の中心で指揮を執っている者・・・セレスティアに報告した。
「やっとか」
セレスティアはオーバーキルの面々が容易した屋根つき簡易ベッドで寝転がっていたが、報告を聞いてすぐに身を起こして大きく溜息をついた。
「聖女サマがトチ狂ったか知らんけど、わけのわからん無駄足くったわ。待ち続けて疲れたっての」
疲れたって、ベッドで寝転んでいただけだろ!と、周囲にいた他の冒険者達は思ったが、オーバーキルの面々が恐ろしくて口に出す者はいない。
「何にせよ、これでようやく進めるわけね」
ふぅ、とレーナがため息交じりにうんざりしたように言った。
「あー、ずっとイライラしてたんだ。これでようやく動けるってもんだ」
サーラが剣を素振りしながら言う。剣風で山肌がスパスパ切れていて
それを冒険者達が恐怖で震えている。
セレスティア達は聖地手前まで進軍を進めていたが、リリカが不用意に張った魔法障壁によって足止めを食らってしまっていた。
リリカが自慢するだけあって魔法障壁は元『光の戦士達』のメンバーですら力づくで破ることは出来ず、一体何が起きているのか理解できないまま待機することを強制された彼女らは、既にストレスが我慢の限界寸前まで溜まりに溜まっていた。
「あの魔法障壁は一体何故張られてたんだ?あの強力な障壁は、まず間違いなく聖女リリカのもの。でもリリカは裏で手を引いて仲間に引き入れたはずだったんだろ?」
サーラの問いに、セレスティアは不機嫌そうに唸る。
「むぅ・・・借金まみれのアイツは確かに二つ返事で応じたはずだったが・・・まさか気が変わった・・・か?」
そう口にするも、セレスティアは釈然としない。
リリカは物欲も情欲も強い上に、借金もかなり危ないところから借りていることを知っている。
とにかく死ぬほど金が欲しいはず。だから彼女が大金を出してくれるセレスティアを裏切ることなどあり得ないと思っていた。
「まさか・・・」
ハッと、アリエスが何かに気付いたように声を上げた。
「その聖女がシュウ先輩のことが好きになって、裏切った・・・とか?」
シーン・・・
アリエスの仮説を聞いて、シュウ追跡隊女性陣は押し黙った。
「あり得る・・・」
サーラが呟く。
サーラにとってシュウはイケメン。惚れない女などいないと盲信しているが故の納得だった。
「私達がここに来るまでの間、足止めしていたのよね?・・・もしかして、その間に間違いでも起きて情が移ったんじゃ・・・」
キアラが飛躍した想像を口にする。
しかし、半分正解と言えるのが皮肉だ。
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・
女性陣達の間から、猛烈な殺気があふれ出す。
賞金目当てでついてきた冒険者達は、視界が歪むほどの強烈なその気に慄いた。
「リリカ殺す!慈悲は無い!」
勝手に結論を出したセレスティアは、それまで自分が寝転んでいたベッドを蹴り倒して吠える。
「すぐに突入する!遅れんな!!」
セレスティアが号令を出し、皆一斉に進軍を開始した。
リリカが裏切ったままなら、魔法障壁が解除されたこの説明がつかないのだが、冒険者達もオーバーキルの面々も誰もそこは指摘しない。女性陣の殺気が半端ないからだ。
やる気・・・いや、殺る気満々。
既にシュウを確保するという当初の目的を忘れかけているフシさえある。
「これまで散々時間と金をかけて準備してきたんだ。ポッと出の糞ライバルなんかにダーリンを取られてたまるか!」
「「「おおおおおおおおーーーっ」」」
セレスティアの発破に、元『光の戦士達』の面々だけが呼応する。
シュウを取られた焦り、そして包囲網を敷くために時間をかけてきたことのフラストレーションが、彼女達を暴発寸前まで追い詰めていた。
女性陣の勢いは止まらない・・・
何だかんだでヒートアップする彼女らの勢いに押されて、冒険者達もやる気を出し始めていた。
一難去ってまた一難。シュウ、未曾有の危機である。
だが、ヒートアップする者達とは別に、一人多量の冷や汗をかいている男がいた。
セレスティアの侍従を務める、眼鏡をかけた瘦せ型の男・・・ハーゲンである。
「この捕り物・・・ここでうまくいかないと・・・これ以上はもう・・・」
一人、誰にも聞こえないような小さな声で彼はそう呟いた。
シュウに危機が迫る中、意外な方面から追手であるはずのセレステイアにも危機が迫っているのだった。