シュウ達を乗せたライデンは、危なげなく離陸を終えた。
「ふぅ・・・」
その瞬間、シュウは安堵のため息を漏らす。
地上のいた頃はリリカや、包囲網を敷いた冒険者達・・・や、ほんの少しの泥酔フローラの脅威に晒され、全く気が休まる暇が無かった。
だが、今は空の上。ライデンの裏切りを警戒する必要もなくなった以上、ようやくシュウは気を落ち着けることが出来た。
(いろいろなことがあった・・・)
シュウの脳内で、聖地リリカで起きた様々なことが蘇る。
聖地での労働、禁欲生活(からのただれた夜生活)、ホモとの出会い、ライデンとの死闘・・・あまりにも密度が高い経験に、良く発狂しなかったものだとシュウは自分で感心してしまう。
しかし、特に印象的かつ解決していない問題が一つあった。
(フローラの聖獣の契約・・・そしてリリカさんの警告・・・)
そう、フローラについての謎である。
シュウは、自分の前に座るフローラの後ろ背中をジッと見つめながら考えた。
フローラは自分によって可愛い後輩。
聖女としては極めて優秀であるが、それでもどこか危なげなく自分が守らなければならない存在・・・
そう考えていたが、フローラは自分が思っていたよりずっと底の知れないものを持っているのかもしれない・・・そうシュウは思い始めていた。
通常ならばあり得ない聖獣の二体契約、そしてリリカの警告・・・
それらがフローラに対するシュウのイメージを変えようとしていた。
「シュウ様」
考え事をしているシュウに、フローラが振り返って名を呼んだ。
その表情はどこか張りつめている。
「私にお聞きしたいことがあるのでしょう?」
「っ!」
まさかのフローラからの問いに、シュウは思わず言葉を失った。
シュウがフローラに疑念を抱いていることに、彼女自身が気付ている。そのことに驚愕するとともに、何とも言えない気まずさで思わず渋面してしまう。
「私からお話します。疑問が残ったままでは、私のことを信用することが出来ないでしょうから」
フローラはフッと微笑を浮かべてそう言うが、これにもシュウは何も返すことが出来ない。はっきり言えば、図星だからだ。
「シュウ様。実は私はただの聖女ではないのです」
「・・・っ」
フローラは歴代最強の一人と言われるほどの、抜きんでた才を持つ聖女と言われている。実際に彼女の魔力や聖魔法の力は凄まじい。そのことはシュウとてとっくにわかっている。
だが、フローラが言っているのは、ただそれだけの意味ではないだろうことをシュウは察した。
「私は、実は『スーパー聖女』なのです」
「・・・・・・・ん?なんですって?」
「スーパー聖女なのです」
聞きなれない単語に、シュウはポカンとする。
少しして、ようやく我に返ったシュウは問うた。
「えっと、なんですか?その俗っぽい名前のそれは・・・」
シュウはやや引いているが、表情は真面目そのもののフローラが答える。
「シュウ様がご存じないのは仕方がありません。スーパー聖女は、世間では知られていない、秘匿された存在なのです。教会でも、高位に属する者の一握りしか知りません」
「ごくっ・・・」
ヤバい!ふざけた名称とは裏腹に、かなり緊迫した話だぞこれはとシュウは焦った。
教会でも一部の者しか知りえないトップシークレット。これを自分が知って良いのか?とシュウは冷や汗をブワッと噴き出させていた。
「簡単に言えば、聖女を超えた聖女です。ただ優秀な聖女であるわけではなく、修練など後天的な要素で越えられるものではない壁が存在するのです。そもそも遺伝子の規格からして異なる・・・聖女とは異なる聖女、と申しましょうか」
「遺伝子・・・?」
慣れない単語を聞いて訝しむシュウ。
そんなシュウの顔を見つめながら、やや間を置いてフローラは言った。
「はい、リリカのような普通の聖女と、私とでは聖女としての遺伝子が違うのです」
スーパー聖女とは、聖女を超えた聖女。生まれ持っての規格違い。
シュウもそこまでは理解した。
が、これ以上知ってはならない。そうシュウの中の何かが激しく警告を出している。
「理解しました。今日のところはこの辺で」と強引に切り上げようかと思ったシュウを嘲笑うかのように、フローラは続けた。
「結論を言いますと、私は法王様の娘なのです」
「」
法王とは、聖神教会で最高位に就いている人物である。シュウからすれば雲の上のまた更に雲の上に位置する、レウス司教なぞ比較にならない尊い人物だ。聖神教会内のみならず、帝都でも・・・否、世界でも5本の指に入る最高権力者であった。
シュウも神官時代、一度として本人の姿は見たことがないが、話は聞いている。
徳があるだけでなく、極めて高い聖魔法の才能を持っているという。そんな彼が子を成せば、当然その子も非凡なる聖魔法の使い手になるだろうことは予想出来る。
それは理解出来たが・・・
「・・・」
皇帝と並ぶ権力者のスキャンダルの種が、自分の目の前にいる。
シュウはそのことを認識した瞬間、サァッと意識が遠のきそうになった。
「スーパー聖女とは、規格外の聖女を生む種を持つ法王様が、後先考えずに子種をまき散らした結果生まれるものなのです」
「言い方ァッ!」
「ちなみに、私と同じようなスーパー聖女は現在他にもいます。当人もその親も、日々政争に明け暮れて教会上層部はピリピリしています」
「うわぁぁぁぁっ!!」
聞いてはいけない。今、自分は聞いてはいけないことを聞いていると、シュウは大声を上げて耳を塞いだ。
聞いてしまえば他人事ではなくなってしまう。何かあったときにきっと教会上層部から激しく詰められてしまうと、シュウは絶望するしかなかった。
「私の母は敗北した側で表舞台には出ていませんが、私はスーパー聖女の中でも実力が抜きん出ているので、今ではすっかり教会でも目の上のタンコブですよ?スーパー聖女と知らずに表舞台で私を持ち上げる動きと、事情を知っていてどうにか極秘裏に私を排除したい動きがあって、もう教会は混沌としています」
「あうあうあー・・・」
既にキャパオーバーになってしまったシュウは、涎を垂らしながら放心した。
フローラには爆弾ともいえるとんでもない秘密があった。それも聞いてはいけないとびきりのやつが。
知ってしまった以上、シュウはフローラという爆弾を一緒に抱え込まなければならない。
快適なスローライフからドンドンかけ離れていく現状に、シュウは涙が止まらなかった。
「ですから、スーパー聖女の中の更で優れた存在である私であるからこそ、聖獣の契約も複数結ぶことが出来るのです。すみません、ドン引きされるかもと思ってここまでは中々話せなくて・・・」
申し訳なさそうに言いながらもどこか誇らしげなフローラに、シュウは内心「ドン引きどころではないんですが」と言いそうになった。
世の中知らないほうが良いこともある。そのことがシュウの骨身に染みた。
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シュウ達がライデンの上でかなりセンシティブな話をしていたその頃、地上から彼らを見上げる者達がいた。
シュウ達を追ってきていたセレスティア達である。
「やはりリリカは裏切ったか。やっちまいな!」
遥か上空を飛ぶライデンを指さしながら、セレスティアが吠えた。
ライデンの乗って逃亡して一難去ったかと思えば、フローラから重すぎる話を聞いてしまいまた一難。そこにセレスティア達の追跡の手が再び伸ばされてさらに一難。
本日のシュウはまさに厄日であった。