「舐めやがって。2度も3度も逃がすと思うなよ?」
大空を悠々と飛んでいるライデンを睨みながら、セレスティアがビシッと指を突き刺す。
以前ライデンがシュウ達を乗せて飛び去るのを見送ったのは、リリカを使った自分の罠に彼らがかかったと思っていたからである。
だが、リリカが裏切った(と思っている)以上、もうただ見送るつもりはない。
「やっちまいな!」
セレスティアが指示すると、セレスティアの配下である実行部隊オーバーキル達がズラリと横1列に並んでいつもの攻撃魔法を発動する。
バババババババババババッ
拳大の弾丸となって飛んで行く雨あられの魔力弾。
当たれば肉片が飛ぶ、即死必須なオーバーキルな攻撃法。
今、セレスティアはライデンを落とすのが最優先で、ライデンの背中に乗っているシュウの身の安全のことはどこかに置いておいてしまっている。
バシュウウウウウウウウ
「むっ?」
オーバーキルが放った魔力弾は、ライデンに命中したかと思った瞬間・・・何か壁のようなものに阻まれて消滅した。
「お、おおっ!?何か起こりましたか?」
ライデンの上から何かが起きたことに驚いているシュウに、フローラは微笑を浮かべながら言った。
「いま、私達は地上から攻撃を受けています」
「えっ!?」
ようやく落ち着けると思ったのに!と、シュウはチラリと地上を覗き見る。人影はあるが、既に豆粒以下の大きさに見えるまで距離は離れていた。
「あそこから攻撃してくるのか!?」と、シュウは顔を青ざめさせる。
「ご安心ください」
フローラは自信満々にニンマリと笑って、胸を張って言った。
「ライデンの聖鳥としての防御力と、私が今展開している魔法障壁という鉄壁の守りがある以上、生半可な攻撃ではこれを破ることは出来ないでしょう。このまま逃げ切れます」
「そ、そうですか・・・?」
「お望みとあらば、ここから聖魔法の雷を地上に降らして一方的に攻撃して追手を剥ぎ祓うことも出来ます」
ニチャアと邪悪な笑みを浮かべて言うフローラの目に、本当にやりかねない怪しい光が灯っていることに気付いてシュウは「いや結構」と慌てて首を横に振った。
(何にせよ、驚かされはしたがこれで助かったか・・・)
シュウがそう胸を撫でおろしていたが、彼は忘れていた。
追手として来ているのは、生半可な攻撃を放つ連中ではないということを。
「お嬢。距離は離れてしまって威力が落ちてしまってます。相手の魔法障壁を破れそうにありませんぜ」
「面目ねぇ!」
「もう少し近ければ挽き肉してしてやんのによ!」
オーバーキルの面々が、悔しそうに表情を歪ませながらセレスティアに言った。
チッ、と舌打ちをするセレスティアだが、元『光の戦士達』の面々は落ち着いていた。
「三下は最初から下がってれば良いのよ」
ふん、と鼻で笑って今度はレーナが前に出る。
かつて帝都ではその三下に痛い目に遭わされたはずなのに、都合良く忘れているのか偉そうである。
『ダブルドラゴン』
帝都でも放った、異属性の魔法を竜の形にして飛ばす必殺魔法をレーナはここでも発動した。
ただし、今回は両方とも風属性。レーナの両腕から発生したつむじ風が空中で合体し、周囲に強力な巻き込み風が発生するほどの凄まじい竜巻となってライデンに向かっていく。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
『クルッポ・・・ォォォォォォ!?』
悠々と空を飛んでいたライデンが、大きく気流を乱されて姿勢を崩しそうになる。魔法障壁により守られどうにかダメージは防いだが、ライデンは逃走する動きを止められてしまった。
「上出来だ。次はアタシの番だな」
ライデンがホバリングに四苦八苦しているのを見て、今度はサーラが前に出る。
「はぁぁぁぁぁ・・・」
得物を抜き、持った右手に力を込め、サーラは神経を集中させる。そして
『
ライデンに向けて、サーラは円を描くように得物をぶん投げた。
どういうコントロールなのか、ブーメランのように飛んで戻って来るといういろいろな意味で凄いサーラの投剣の必殺技である。
ズバババババババッ
『クルッポォォォォ!?』
剣豪サーラの必殺技、一流の得物の切れ味もあって、レーナのダブルドラゴンで不安定にされた魔法障壁は剣を防ぎきることは出来ず貫通し、ライデンに命中する。剣は高速回転しながらライデンの体を斬り裂き、そしてサーラの手元へ戻って行った。
サーラの剣の威力は大きく、聖獣ライデンと言えどそのダメージを受けてなお飛び続けることは不可能であった。
『クルッポー・・・』
ライデンが落下し始めたことに気付き、シュウが顔面を蒼白にさせる。
「『ぬぅ、もはやこれまで』とライデンが言っています!」
「言ってる場合ですか!」
フローラが冷静にライデン語を翻訳しているのにツッコミを入れつつ、シュウはフローラをかばうように抱きしめながら、来る衝撃に備えた。
ドカーーーン
ライデンはシュウ達を乗せたまま、森林へと急降下する。
数々の木をなぎ倒し、頭に何重にもタンコブを作りながらも、どうにかライデンはシュウ達を放り出すことなく不時着させることが出来た。
契約のためだけではない。高級餌のために契約主(飼い主)を守ろうとする欲が成したことであった。
『クルッポ・・・』
ライデンは「餌のほう弾んでくださいよ・・・」と、死にゆく者のようなセリフだけ言って、そのまま白目を剥きながら泡を吹いて気を失った。
「あわわわ・・・」
せっかく安全に離脱できると思ったのに、予想外の事態にシュウは泡を食う。
「仕方ありません。ライデンのことは後にして、今はここを離れましょう。ライデンは聖獣です。すぐに回復して私達の元へ来てくれます」
フローラに促され、シュウはげんなりしながらもフローラを抱きかかえて走り出す。
ライデンが回復するまで、どうにか追手から逃げきらなければならない。
必死の形相で逃げるシュウとは裏腹に、フローラはシュウの腕の中で涎を垂らしながら悦に浸っている。
(そうだ、折角だから魔法拳の要領で身体強化出来ないだろうか)
シュウはライデンにこそ不発だったが、身体能力を向上させられる魔法拳を試してみようと体に魔力を巡らせてみた。
(おおっ)
ぐんっ、と思った以上に馬力が増えた感覚して、シュウは少し張り切って足を速めてみようと思った・・・その時だった。
「ぬっ!?」
シュウは、進行方向にある人影が自分を待ち構えているのを見かけて急停止する。
「げっ・・・」
シュウは顔を青ざめさせた。そこにいたのは、シュウが苦手と分類する人間・・・
ジードであったからだ。
「待っていたぞ先輩。私の筋肉も悦びに打ち震えておるわ」
むんっ、とポージングするジードを前に、シュウは「ヤックといい、こんなんばっかと縁があるな」と溜息をつく。
だが、本当に溜息をつきたくなるのはこれからだった。
「僕の勇者としての勘も中々だろうジード。ここにいれば、何となく来る予感がしたんだよね」
「ラ、ライル・・・」
ただ追手が来るだけでも大変なのに、何故かよりによって戦闘力では到底かないそうにないライルまでが目の前に立ちふさがっている。この絶望的な状況に、シュウはゴクリと唾を飲み干すのであった。